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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest12:次の目的を決定せよ【前編】



 マコトは食堂のテーブル席でユウカ、フェーネと向かい合っていた。

 隣ではリブが脚を組んで座っている。


「い~ち、に~、さ~ん、し~、ご~……うん、確かに500Aあるわね」


 ユウカは銀貨を数えると満足そうに笑った。

 五枚しかないのだからわざわざ口に出す必要はないと思うのだが――。

 いや、言うまい。彼女はそういう生き物なのだ。


「……」


 フェーネはと言えば無言である。無言でリブを睨んでいる。

 時々、こちらに向けられる視線は何処か非難がましい。


「で、どうだ?」

「あたしは賛成よ。これからのことを考えたら盾役は必要だもの」

「……兄貴が決めたことなら構わないッス」


 マコトは内心胸を撫で下ろした。

 取り分が減るので反対されると心配していたのだが、杞憂だったようだ。

 あからさまに不満そうにしているフェーネにはフォローが必要になるだろう。


「話はこれで終わり?」

「いや、これからのことについて話したい。リブのお陰でCクラスの依頼を受けられるようになったからな」

「確かに状況が変わったんなら話し合いは必要ね」


 うんうん、とユウカは頷いた。


「リブ、Cクラスの依頼について教えてくれ」

「説明は苦手なんだけどな~」


 リブはボリボリと頭を掻いた。


「あ~、まず、Cクラスになると隊商の護衛をできるようになる。と言っても長期間じゃなくて二、三日の短期だけどな」

「長期の護衛はできないのか?」

「そっちはBクラス以上じゃないと無理だ。けど、長期の護衛は強さ以外の要素も重要になってくるから断られることもあるぜ」


 なるほど、とマコトは頷いた。

 確かに長期の護衛となれば単に強いだけではなく、他のチームと協力できるかも問題になるだろう。

 要は信頼できるかどうかだ。


「短期の護衛依頼ってあったか?」

「ああ、ロジャース商会の依頼があったぜ。三日間拘束されるけど、日給は200Aだから割はいい」


 ちなみに、とリブは続ける。


「ケガと弁当は自分持ちな」

「やっぱ、労災保険はねーよな」


 マコトは小さく溜息を吐いた。

 名指しで仕事を受けられるようになったらケガや死亡時の保証を求められるようになるだろうか。


「シェリー、片道分の弁当を頼めるか?」

「お金さえ払ってくれりゃ弁当くらい用意しますよ」


 やれやれと言わんばかりの口調だ。

 ちょっと嬉しそうにしているので、お金を稼げるのが嬉しいのかも知れない。


「つー訳で、ロジャース商会の依頼を受けたいと思う」

「異議なし」

「異議なしッス」

「リブは?」

「あたいもか?」


 マコトが呼びかけると、リブは意外そうに目を見開いた。


「マコトが一番強いんだからマコトが全部決めりゃいいんじゃねーの?」

「俺らは野生動物か」

「強いヤツに決定権があるのは普通だろ?」

「いや、普通じゃねーよ」

「それは文化の違いってヤツだな」


 多分、リブは強ければ尊敬が勝ち取れる共同体で育ったのだろう。

 下克上が多発する殺伐とした共同体でなければいいのだが。


「戦っている時は悠長なことを言っていられないと思うんだが、できるだけ全会一致を目指したいんだよ」

「分かった。あたいに異論はねーよ」


 本当に分かっているのか不安だが、同意してくれるのはありがたい。


「今からでも間に合うか?」

「あ? 受付は今日の夕方までだったから大丈夫だ」

「よく覚えてるな」

「飯の種だからな。細かくチェックしてるんだよ」


 リブは照れ臭そうに鼻を擦った。

 確かに冒険者を生業にする以上、どんな依頼が貼り出されているのかチェックしておくべきだろう。


「問題は出発が三日後ってことなんだよな~」

「少し時間に猶予があるな」


 マコトは背もたれに寄り掛かり、腕を組んだ。

 選択肢は三つ――別の依頼を受けるか、ダンジョンを探索するか、英気を養うかだ。


「ダラダラ過ごすんじゃなくて、お金を稼いでおきたいわね」

「おいらも姐さんに賛成ッス」

「あたいは戦いてぇな」


 三人とも働き者だな~、とマコトは選択肢から英気を養うを外す。


「リブ、依頼には――」

「兄貴」


 フェーネが何か言いたそうにマコトの言葉を遮る。


「フェーネ、どんな依頼があった?」

「薬草採取の依頼があったッスよ! 他に下水道の掃除、ペットの探索もあったッス!」


 マコトが尋ねると、フェーネは嬉しそうに言った。

 やはり、彼女もどんな依頼があるのか確認していたようだ。


「薬草採取の仕事はお金にならないし、下水道はちょっとね」


 異を唱えたのはユウカだ。

 メンバーが四人に増えたことを考えれば薬草採取は割のいい仕事とは言えない。


「下水道の掃除ってのは?」

「やだ、ちょっと、下水道の掃除なんて止めてよ!」


 興味があっただけなのだが、ユウカは声を荒らげた。

 まあ、年頃の娘には下水道の掃除は辛いかも知れない。


「姐さん、下水道の掃除は立派な仕事ッスよ。スライムを守るために大鼠やゴキブリを駆除しなきゃならないんスから」

「スライム?」

「都市の下水にはスライムが棲んでて、下水を浄化してくれるんス」


 ユウカが不思議そうに首を傾げると、フェーネは嬉しそうに説明した。

 へ~、とマコトは感嘆の息を漏らした。

 日本では微生物を利用して汚水の浄化を行っている。

 それが本格的に行われるようになったのは高度経済成長期――マコトの両親の世代だったはずだ。

 そのことを考えると、この世界の文明はかなり進んでいるように感じる。


「それと、下水には金目の物が落ちてるッスよ」

「却下」


 フェーネは目を輝かせて言ったが、ユウカは冷淡そのものだった。

 絶対に下水道に入りたくないという強い意思を感じさせる。


「銀の、スプーンが、落ちてることも、あるんスよ」

「嫌よ」


 フェーネは力説したが、ユウカの答えに変わりはない。

 しゅん、と耳と尻尾が力なく垂れる。


「ま、銀のスプーンを拾っても四人で分けたら大した儲けにならねーからな。けど、意見はガンガン言ってくれ」

「は、はいッス!」


 マコトが声を掛けると、フェーネはピンと耳を立てて頷いた。


「リブ、Cクラスの仕事は?」

「他にあれば短期の護衛任務なんてやらねーよ」

「ってことはダンジョンの探索だな」


 森でモンスターを退治するのもありだと思うが、ダンジョンの方が敵とエンカウントしやすそうだ。


「フェーネ、リブ、お勧めのダンジョンはあるか?」

「う~ん、いきなり言われると困るッスね」

「あたいは骸王のダンジョンに行きてーな」

「そこはこの前、攻略されちゃったッスよ」

「マジかよ!?」


 フェーネが言うと、リブは上擦った声で叫んだ。

 どうやら、骸王のダンジョンとはマコトとユウカが攻略したダンジョンのことのようだ。


「誰が攻略したんだ?」

「知らないッス」

「あ~、先を越されちまったか」


 チェッ、とリブは舌打ちする。


「ダンジョンを攻略するつもりだったのか?」

「ああ、そうすりゃ箔が付くだろ」


 リブはニヤリと笑った。


「ま、リベンジってのもあるけどな」

「攻略できなかったからか?」

「それもあるけど、グールに殺されかけたんだよ」

「それでか」

「ああ、あたいはあの頃より強くなった。グールをぶち倒して区切りを付けねーとな」

「リブなら負けないだろ」

「だといいんだけどな」


 そう言って、リブは苦笑いを浮かべた。


「フェーネ、お手頃なダンジョンはあるか?」

「そうッスね。二番目に大きなダンジョン……不帰かえらずダンジョンはどうッスか?」

「どんなダンジョンなんだ?」


 マコトは不帰という言葉に不安を覚えながらフェーネに尋ねた。


「一緒にいた仲間がいつの間にかいなくなってたみたいな噂がある所ッス」

「それって、お手頃なの?」


 ユウカは訝しげな表情を浮かべた。

 気持ちは分かる。

 高レベルの冒険者が二人いるとは言え、チームとしては駆け出し同然だ。

 そんな自分達が不吉な噂のあるダンジョンに挑んで大丈夫だろうかという不安を消すことはできない。


「未探索のエリアが多いから地図代で稼げるんスよ。アンデッドと出くわす機会も多いッスから狙い目ッス」

「なるほどね」


 フェーネが理由を説明すると、ユウカは神妙そうに頷いた。

 金を稼げるとなればちょっと無理をしてもいいかなという気がしてくる。


「あたしはそれでいいけど、皆は?」

「俺はそこでいいと思うぜ」

「あたいも構わねーよ」

「決まりッスね」


 フェーネはニッと笑った。


「教会に行って依頼を受けてから出発って感じか?」

「兄貴、出発は明日にならないッスか?」

「どうしてだ?」

「新しい地図を買っておきたいんス」

「ああ、なるほどな」


 備えあれば憂いなしとは言うものの、憂いは備えを上回ることが多い。

 だからと言って備えなくていいと言うことにはならない。


「マコト、出発が明日なら付き合ってくれねーか?」

「何に?」

「欲求不満の解消に付き合ってもらえないかと思ってよ」

「会ったばかりで破廉恥な行為は駄目ッスよ!」


 リブが豊満な胸を誇示するように身を乗り出すと、フェーネが過剰とも言える反応を示した。


「俺と戦いたいってことか?」

「よく分かってんじゃねーか!」

「顔を見りゃ分かるって」


 リブの顔には獰猛な笑みが張り付いている。

 これで性的な意味での手合わせを期待する方がおかしい。


「分かってねーのもいるみたいだけどな」

「ノーコメント」


 リブは対面の席を流し見る。

 フェーネは顔を真っ赤にして、ユウカは冷めたような表情を浮かべている。


「ところで、移動はどうするの?」

「ダンジョンまでは乗合馬車が出てるんス!」


 ユウカが話題を提供すると、フェーネは勢いよく食い付いた。


「……乗合馬車」


 ユウカは顔を顰めた。

 気持ちは分かる。

 乗合馬車でダンジョンに行くなんてファンタジー感がない。

 自分達の馬車があればこんな気持ちを抱かずに済むのだろうか。

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