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Quest9:金を稼げ【後編】



「……通行証を提示しろ」

「ほらよ」


 マコトは衛兵に促され、通行証を提示した。

 スキルを使ってステータスを確認しているのか、目を細め、ビクッと体を竦ませた。

 教会にいた少女と同じ反応だ。

 やはり、レベル100の冒険者は脅威として認識されているのだろう。

 見知らぬ相手ならば尚更だ。

 衛兵はマコトを見つめ、咳払いをした。

 無様な姿を見せてしまったと考えているのかも知れない。


「問題ないな。中に入ってもいいぞ」

「ありがとよ」


 マコトは城門を抜け、立ち止まる。

 背後を見ると、ユウカが通行証を提示していた。

 しばらくして衛兵が再びビクッとする。


「やっぱり、情報収集は必要だな」


 城壁に背中を預けて呟く。

 盗賊の強さや周囲の反応から察するにマコトとユウカは強者に分類されるようだ。

 強いからと傲慢に振る舞うつもりはないが、自分達がどの程度のポジションにいるのか知っておかなければ無用なトラブルに巻き込まれかねない。

 まあ、問題は信用できる情報を集められるかだ。


「……もう一度、トムと会えればいいんだが」

「何、ぶつくさ言ってるのよ」


 独りごちると、ユウカが顔を覗き込んできた。

 不機嫌ですと言わんばかりの表情を浮かべている。


「もう終わったのか?」

「通行証を提示するだけだもの」

「……だな」

「ちょっと、いきなり歩かないでよ」


 マコトが歩き出すと、ユウカは文句を言いながら付いてきた。


「この後の予定は?」

「宿に帰ってダラダラするわ」


 歩きっぱなしで疲れてるから、と嫌みったらしい口調で付け加える。

 嫌味を言わずにいられないのかと突っ込みたくなる。

 こんな性格だからダンジョンに置き去りにされるのだ。


「アンタはどうするの?」

「俺は情報収集してから戻るよ」

「……ふ~ん」


 ユウカが訝しげな視線を向けてくる。

 情報収集が一人で行動するための方便ではないかと疑っているのだろう。

 疑うくらいなら嫌味を言わなければいいと思う。


「まあ、いいわ。しっかり情報収集してきてね」

「分かってるよ」


 ユウカはしっかりの部分に力を入れて言った。

 イラッとしたが、口にはしない。

 女と喧嘩しても損するばかりだ。


「じゃ、俺はこっちに行くから」

「しっかりね」

「……ああ」


 ユウカと別れて路地に入る。

 これ以上、嫌味を言われたくなかったからだ。

 まあ、別れ際にも嫌味を言いやがったが。


「シェリーに冒険者が集まりそうな店を聞いておけばよかったな」


 マコトは人通りのない道を選んで進む。

 一泊30Aというシェリーの店にさえ冒険者がいないのだ。

 だから、もっと安い――あまり治安のよくないエリアにある宿で寝泊まりしていると考えたのだ。

 表通りから離れるにつれて人気がなくなり、老朽化した建物が目立つようになる。

 さらに何かが腐ったような臭いが漂い始める。

 その時――。


 ――!


 声が聞こえた。

 距離はそれほど離れていないようだが、助けに行かなければという気持ちは湧いてこない。

 むしろ、面倒臭いとさえ思う。

 それに声が聞こえるのは大通りの方だ。

 情報収集しなければならないのに遠回りしたくない。


 ――! ――ッ!


「……面倒臭ーな」


 マコトは頭を掻きながら声のする方に向かった。

 面倒臭い、と心の中で唱えている内に声の発生源に辿り着いた。

 そこは大通りのすぐ近くだった。

 チンピラ然とした二人組が子どもを足蹴にし、野次馬が遠巻きにその様子を見ている。

 子どもは亀のように体を丸めているが、頭から流血している。

 さて、どうするか、とマコトは腕を組んだ。

 自分でもここまで来たくせにと思うが、事情を確認しておくべきだろう。

 まあ、問題はどうやって確認するかなのだが。

 そんなことを考えていると、


「どうして、あんな子どもを?」

「借金の取り立てですって」

「ま~、親は何をしているのかしら」


 主婦達の会話が聞こえてきた。

 チンピラが蹴るのを止めると、子ども――トムが顔を上げた。


「お、トムじゃねーか」

「だ、誰ッスか?」


 トムの瞳が巻き込みたくないと訴えていたが、マコトは構わずに近づいた。

 そこにチンピラが割って入り、肩を小突いてきた。


「あ? 横から入ってくるんじゃ――」

「いや、お前みたいなヤツはすぐ暴力に訴えてくれて助かるよ」


 これで衛兵を呼べる、とマコトは笑った。


「お、お前、俺を殺すつもりか? お、俺のバックにゃスタンさんが付いてるんだぞ」

「あ、兄貴、こ、こいつ、人殺しの目をしてるよ」

「マコト様!?」


 軽い衝撃が腰の辺りに生じる。

 ふと視線を落とすと、金髪の女性――ローラがしがみついていた。


「マコト様! ここは私に免じて引いて下さい! お願いします! お願いします! 流血沙汰は堪忍して下さい!」


 ローラが懇願すると、周囲がざわめいた。


「なんで、泣きそうな声を出してんの?」

「お願いします! お願いします!」


 マコトは頭を掻いた。

 どうやら、暴力に訴えようとしていると思われたらしい。

 まあ、力量差を考えれば懇願する以外に道はないが。


「いや、誤解しないでくれよ。俺は殺すつ――」

「逃げてぇぇぇぇッ!」


 悲痛な叫びが響き渡る。


「あ、兄貴?」

「あ、ああ、コイツは俺達の手に負える相手じゃねぇ」


 チンピラ達は顔面蒼白で後退った。


「……まさか、こいつが五十人の盗賊を殴り殺した」

「そんなに殺してねーよ!」

「ひ、ヒィィィィッ!」

「あ、兄貴、待ってくれよ!」


 マコトが怒鳴ると、チンピラ達は脱兎の如く逃げ出した。

 ついでに野次馬達も逃げ出して周囲には誰もいない。


「……ローラ、離れろ」

「放しません!」

「二人とも逃げたよ」


 ローラは顔を上げ、ホッと息を吐いた。


「離れてくれねーか?」

「し、失礼しました!」


 ローラは熱い物に触れたかのようにマコトから離れた。

 事情を説明するべきか迷っていると、トムが呻き声を上げた。


「おい、大丈夫か?」

「……どうして、おいらを助けてくれたんスか?」


 傍らに歩み寄って跪く。すると、トムは小さな声で疑問を口にした。


「助けを呼ぶ声が聞こえたんだよ」

「おいらじゃないッス」

「じゃあ、自分の幸運を喜べ。つか、さっきのチンピラは何なんだ?」

「…………借金取りッス」


 トムが間を置いて答える。


「マコト様は借金取りに殴られているその子を助けようとしたのですね」

「殺そうとしているように見えたか?」

「いえ、私はマコト様を信じてます」


 ローラは口にした次の瞬間にバレるような嘘を吐いた。

 怜悧な美人だと思っていたのだが、ポンコツだったらしい。


「マコト様は優しいのですね」

「そんな訳ないだろ」


 助けてやれば信頼性の高い情報を手に入れられると思ったのだ。

 下心を抱いて人助けをするような人間を優しいとは言わない。


「いえ、マコト様は優しい方だと思います」

「……そうか」


 あまり誉めないで欲しい。

 これでも、恥を知っているつもりなのだ。


「借金の取り立てにしちゃ荒っぽかったな」

「あれでも合法的な金貸しッス」

「……あれでか」


 マコトは小さく吐き捨てる。

 とは言え、怒りはそれほど大きくない。

 法の範疇であれば何でもやってくるのが合法的な金貸しというものだ。


「ああいうのはありなのか?」

「暴力行為は犯罪です」

「あの2人を捕まえても別の人間が来るだけッス」


 トムは立ち上がり、すぐに膝を屈した。


「もう少し休んでろよ」

「大丈夫ッス」


 トムは立ち上がろうとしたが、尻餅をついた。

 マコトは小さく溜息を吐き、トムを担ぎ上げた。


「何をするッスか!」

「知り合いの所に連れていくだけだ」


 マコトは再び溜息を吐いた。



「おや……旦那、お帰りなさい」

「ただいま」


 マコトが宿に帰ると、シェリーがカウンターから声を掛けてきた。

 ローラに気付いたらしく目を細める。


「お客さん、ですか?」

「いえ、私は付き添いでローラ・サーベラスと申します」

「……旦那も隅に置けませんねぇ。休憩は10Aですよ」

「わ、私とマコト様は――」

「そんな関係じゃねーから」


 ローラが慌てふためいたように言い、マコトは関係を否定した。

 騎士である彼女には立場があるのだ。

 マコトはカウンターに歩み寄り、トムをイスに下ろした。


「シェリー、救急箱はあるか?」

「ええ、ちょっと待って下さいね」


 シェリーはカウンターの下から箱を取り出した。

 マコトは箱を開け、顔を顰めた。

 ガーゼと包帯、複数の瓶が収められているが、使い方が分からない。


「ローラ、頼んでいいか?」

「……」


 ローラは無言で扉の近くに佇んでいる。


「ローラ?」

「はい!」

「頼めるか?」

「はい!」


 ローラは嬉しそうに走り寄ってきた。

 まるで犬のようだ。

 トムの隣に座り、てきぱきと治療を開始する。

 マコトはカウンターに寄り掛かった。


「なあ、トム」

「なんスか?」

「借金、多いのか?」


 マコトが問い掛けると、シェリーは非難がましい視線をこちらに向け、ローラは動きを止めた。


「……2万Aッス」

「結構な額だな。それって、お前が借りた金じゃねーよな?」

「親が借りた金ッスよ。家を相続したから借金まで相続する羽目になっちゃったんス。まあ、その家も借金の形に取られちゃったんスけどね」


 トムはあっけらかんとした口調で言った。


「年利は?」

「……20パーセントッス」

「厳しいな」


 雑に計算して利子は1年で4000A、1カ月で333,3……Aだ。

 借金を減らすためにはさらに金を支払わなければならない。


「そう言えばダンジョンで会った時にこれで弟を食わせてるって言ってなかったか?」

「……今、弟は教会に預かってもらってるッス」

「儲かってないのか?」

「おいらみたいにソロだと儲からないッス。でも、いつもは利子分くらいは稼げてるんスよ。ただ、今回はダンジョンが攻略されちゃったみたいで……」


 そうか、とマコトは小さく溜息を吐いた。

 トムがチームを組んでいないのは借金のせいだろう。

 金で仲間を裏切ったり、情報を売ったりすることを警戒されているのだ。

 トムにその気がないとしても要はリスク管理の問題だ。


「でも、おいらはめげないッスよ。いつか、借金を返して、家を取り戻して、弟達と一緒に暮らすッス」

「そうか、頑張れよ」

「頑張るッス」


 マコトは右手首を握り締めた。

 怒りが湧き上がる。

 それは金貸しに対する怒りではなく、トムに対する怒りだった。

 このままでは借金を完済することなどできないと分かっているはずだ。

 にもかかわらず、夢みたいなことを言ってやがるのだ。

 ふざけるなと思う。


「……失礼しますよ」


 場違いなほど穏やかな声が響いた。

 声のした方を見ると、恰幅のいい男が扉の近くに立っていた。

 髪も、口元を覆う髭も白い。

 深い皺の刻まれた顔に張り付いているのは紳士然とした微笑である。


「……スタンさん」


 トムは老紳士を見つめ、ポツリと呟いた。


「知り合いか?」

「金貸しッス」

「返済の催促を委託している2人が暴力を振るったと聞いてね。心配で見に来たんだよ」


 老紳士――スタンは演技がかった仕草で腕を開き、こちらに近づいてきた。

 視線の先にいるのはローラだ。

 心配で見に来たと言っているが、実際はローラにトムのケガと自分は無関係だとアピールしに来たのだろう。


「あの、スタンさん。今月は……」

「分かっているとも。君はいつも利息だけはキチンと返してきた。少しくらい返済を待とうじゃないか」

「ありがとうございます」


 トムはペコリと頭を下げた。


「スタンさんだっけか?」

「おや、君は?」

「マコト、イチジョウ マコトだ」

「それで、何の用かな?」

「こいつの借金は2万Aで合ってるか?」

「……ふむ」


 スタンはポケットからタブレットを取り出した。

 シェリーが使っている物と違い、スマホサイズだ。


「実際には2万A弱だね」

「返済を待つって言ってたけどよ。こいつに借金を返済できる訳ねーだろ」

「な、何を言うんスか!」

「客観的な事実だ」

「取り消して欲しいッス!」


 トムはイスから飛び降り、殴り掛かってきた。

 触れるように軽く足払いを仕掛ける。

 それだけで床に叩き付けられる。

 暴れられると困るので、踏んづけておく。


「おいらは借金を返済して、弟と暮らすんス!」

「こいつはこう言ってるが、俺は無理だと思ってる。利子しか返してねーんじゃ、いつまでも元本は減らねーだろ」

「いやいや、私は返せると信じてるよ」

「で、不思議に思ったんだけどよ。利子しか返せてねーのに返済を猶予する理由って何だろうな?」


 マコトはスタンを無視して言葉を紡いだ。


「俺は弟だと思ってる」

「どういうことかね?」

「言葉通りだよ。今まで猶予してきた実績を突き付けて、『どうにかならないのか』って言うんだよ」

「本人以外に督促するのは不法行為だよ?」

「だから、『どうにかならないのか』って言うんだろ?」


 スタンが目を細める。

 どうして、自分達のやり方を知っているのか。

 一体、何者か考えているのだろう。


「この国って奴隷制度はあるのか?」

「……あります」


 ローラが絞り出すように言った。


「なるほど、なるほど……つまり、『どうにかならないのか』相談して、自発的に奴隷になってもらう訳か」

「見てきたように言うんだね。それとも、同業者かな?」

「被害者だよ」


 マコトが笑うと、スタンは頬を引き攣らせた。


「それで、君はどうするんだい?」

「俺がトムに金を貸すってのはどうだ?」

「2万Aだよ、善意で貸せる額じゃない」

「善意で貸すなんて一言も言ってねーよ。まあ、トムが提案に乗ってくれねーと話にならないんだけどな」


 マコトが足を退けると、トムはゆっくりと体を起こした。


「トム、俺が2万Aを貸してやる」

「何が目的ッスか?」

「お前の知識と技術だ。俺は冒険者で食っていくつもりなんだが、腕っ節以外はからっきしでな。それを補ってくれる仲間を探してる」

「……」


 トムは押し黙った。


「おいおい、そんな男を信じるのかい?」

「トムが決めることだろ。それに、これはアンタにとっても悪い取引じゃねーと思うけどな。何しろ、こいつはアンタ達のやり口を知っちまったんだから」

「……くっ」


 マコトが言うと、スタンは小さく呻いた。


「利子は?」

「利子は取らない。その代わりにお前の知っている全ての知識と技術を教えろ」

「……」


 トムは再び押し黙った。


「自分で言うのもなんだが、破格の条件だぞ」

「……分かったッス。ただ、きちんと教会で契約して欲しいッス」

「その程度でいいんなら」


 マコトが承諾すると、トムは胸を撫で下ろした。


「じゃ、行こうぜ」

「……分かった。降参だ」


 スタンは軽く手を上げた。



 マコト達が宿に戻ると、シェリーはカウンターで食事の準備をしていた。


「帰ったぜ」

「おや、随分と遅かったんですね」

「ちょっと荷物を取りに行っててな」


 視線を傾けると、トムと目が合った。

 大きなリュックを背負っている。

 街外れの安宿に預けていた荷物だ。

 一泊10Aという脅威の安さだ。

 とは言え、宿を替えようとは思わない。

 見るからに治安の悪いエリアだったし、歩くだけで床が軋むほど老朽化していたからだ。


「こいつも今日から泊まらせたいんだが、問題ないよな?」

「お金さえ払ってくれれば問題ありませんよ。それで、宿代はどちらから頂けばいいんですかね?」

「しばらくは俺だな」


 マコトがカウンターに歩み寄ると、シェリーは板を取り出し、手早く操作する。

 差し出されたタブレットには100Aと表示されている。


「旦那達と同じコースで構いませんよね?」

「ああ、最初からそのつもりだよ」


 板に左手を乗せると、口座にある金額が表示され、100Aが差し引かれる。

「はい、どうぞ」

「ありがとよ」


 キーホルダーに103と刻まれた鍵を受け取り、振り返る。

 すると、トムは宿の入口で所在なさそうにしていた。


「トム、行くぞ」

「わ、分かったッス」


 マコトが歩き出すと、トムは慌てて付いてきた。

 階段を上がり、103とプレートに刻まれた部屋に入る。

 部屋の中央に立ち、視線を巡らせる。

 間取りも、家具も自分の部屋と変わらない。


「お邪魔しまーすッス」


 トムが恐る恐る部屋に入る。

 ベッドと床を見比べ、床にリュックを下ろす。


「今日はゆっくり休んで、仕事は明日からだ。と言っても、話し合いがメインになるだろうけどな」

「分かったッス。兄貴」

「兄貴?」

「馴れ馴れしすぎたッスか?」

「いや、構わねーよ」


 少し恥ずかしいが、要は慣れの問題だ。

 それにマコトのことを格上と見なしているのだから止める理由はない。


「……お金を貸してもらった上、宿代まで出してくれて、ホントに申し訳ないッス」

「善意じゃねーからな」

「分かってるッス。おいら、兄貴に誠心誠意尽くすつもりッス」


 トムはビシッと背筋を伸ばした。


「あと一つだけ聞いておきたいことがあるんだが?」

「なんスか? 何でも答えるッスよ」

「どうして、男のフリをしてるんだ?」

「な、何を言ってるんスか? おいらは男ッスよ?」

「いや、どう見ても女だろ」

「……」


 トムは無言だ。

 顔面蒼白で、脚が生まれたての子馬のように震えている。

 自分から女であると白状しているようなものだ。

 長い長い沈黙の後、意を決したように口を開く。


「い、いつから気付いてたんスか?」

「会った時からだな」

「どうして、今になって?」


 トムはじり、じりと後退った。

 襲われると思っているのだろうか。

 ユウカと言い、トムと言い、どうしてこんなに自意識過剰なのだろう。


「まあ、何となく」

「……何となく」


 トムが鸚鵡返しに呟く。

 一応、聞いておくか程度の気持ちで尋ねたのだが、こんなことなら黙っておけばよかった。


「わ、分かったッス。兄貴にはおいらの本当の姿を見せるッス」


 トムは指を組み合わせる。

 印というヤツだろうか。


「ハッ!」


 トムが叫ぶと、ボムッという音と共に煙が立ち上った。

 魔法的な物なのか、煙はすぐに晴れた。

 すると、そこには少女が立っていた。

 ふさふさの尻尾とピンとした耳を持つ少女だ。


「これがおいらの本当の姿ッス」

「トムの頃とあんまり変わってなくね?」

「尻尾と耳が生えてるじゃないッスか!」


 尻尾の毛がボボボッと逆立つ。


「女の子っぽさが増したか?」

「どうして、疑問系なんスか?」

「……言わせるなよ」


 容貌は女の子らしくなったが、胸の大きさは変わっていない。

 真の姿を現してもまな板よりマシくらいの大きさだ。


「魔法で変身してたのか?」

「おいら達……フォックステイル族には認識阻害っていう固有スキルがあるんスよ」

「阻害つーか、認識を誤魔化されてる感じがするんだが?」

「それは熟練度に拠るんじゃないッスかね?」


 自分でも分かっていないのか、自信がなさそうだ。


「フォックステイル族の固有スキルってことは他の種族も持ってるのか?」

「人間以外の人間種は持ってるッスよ」

「人間種?」

「人間、エルフ、ドワーフ、獣人を全部ひっくるめてそう呼ぶッス」


 トムは訝しげな視線を向けてきた。

 どうして、そんな当たり前のことを聞くのかと言わんばかりの態度だ。


「どうして、そんなことを聞くのかって顔だな?」

「そ、そ、そんなことないッスよ」


 トムが上擦った声で答え、マコトは苦笑した。


「別に隠す必要もねーんだが、俺は客人まれびとってヤツでな」

「客人ッスか!?」


 トムは驚いたように目を見開いた。


「だから、この世界の常識ってヤツがない」

「なるほど、それでおいらを助けてくれたんスね」

「そういうことだ」

「そういうことなら任せて欲しいッス」


 トムは胸を叩いた。


「ところで、これからもスキルは使った方がいいッスか?」

「どっちでも構わねーよ」

「じゃ、これからは使わないッス。元々、女のソロは危ないから使ってただけッスから」


 トムは嬉しそうに言った。


「なんて呼べばいい?」

「フェーネって、呼んで欲しいッス」


 トム改めフェーネはクルンと尻尾を回した。


「フェーネ、これからよろしくな」

「こちらこそッス」


 マコトはフェーネと握手を交わした。

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