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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest36:新生ダンジョンを攻略せよ その3

 マコト達は広い空間を横切り、通路を進む。

 しばらく進むと、通路が左右に分かれていた。

 どちらに進むべきか。

 そんなことを考えていると、首筋がチクッと痛んだ。

 敵が近くにいるのだ。


「フェーネ、どうだ?」

「左からカチャカチャ音がするッス。数は一体、多分スケルトンッス」

「メアリ、壁際に寄れ。アンは盾割りの鏃で脚を狙ってくれ。フジカは祝聖刃(ホーリー・ウェポン)の準備だ」

「「「了解!」」」


 マコトが指示を出すと、メアリ、アン、フジカが元気よく返事をした。

 メアリが壁際に寄り、アンが膝を突いて弓を構える。


「ペリオリス様、邪悪を退ける力を与えて下さいみたいな」


 アンの隣でフジカが祈りを捧げる。

 カチャカチャという音が響き、不意に音が止まる。

 何かあったのか。

 自問した次の瞬間、左の通路からスケルトンが飛び出してきた。

 びくっとメアリ、アン、フジカの三人が体を震わせる。

 マコトもちょっとびっくりした。

 スケルトンのくせにふざけた真似を――。


「アン、狙いは脚だ」

「……分かりました」


 マコトが平静を装って指示を出すと、アンが矢を放った。

 スケルトンの膝に矢が直撃する。

 前回は転倒させることができたが、今回はバランスを崩しただけだ。

 すぐに体勢を立て直す。


「祝聖刃みたいな!」


 魔法が発動し、ポールハンマーが光に包まれた。

 それを見て、メアリが駆け出す。

 もちろん、スケルトンに向かってだ。

 両者の距離は瞬く間に縮まった。


「ハァァァァッ!」


 メアリが裂帛の気合いと共にポールハンマーを振り下ろした。

 ポールハンマーがスケルトンの頭を捉える。

 頭蓋骨が砕け、スケルトンが前のめりに倒れる。

 騒々しい音が響く。

 スケルトンが倒れ、骨が飛び散った音だ。

 メアリは跳び退り、油断なくポールハンマーを構える。

 そのまま十数秒が経過するが、スケルトンは動かない。

 倒した、と判断したのだろう。

 メアリはホッと息を吐き――目を見開いた。


「レベルが上がりました」

「……私達のサポートがあったことをお忘れなく」

「分かってるわよ」


 アンがぼそっと呟き、メアリは拗ねたように唇を尖らせた。


「で、祝聖刃の効果はどうだった?」

「はい、威力が上がっているような気がしました」

「まだ効果が継続してるみたいだな」


 マコトはポールハンマーを見つめた。

 まだ光が灯っている。

 マコトはフジカに視線を向けた。


「どれくらい保つんだ?」

「キララさんは五分――」

「あ!?」


 フジカの言葉をメアリが遮る。

 驚いてメアリを見る。

 ポールハンマーを包んでいた光が弱まっていた。


「五分保ってないッスよ」

「もしかしたら、ジョブのせいかもみたいな」


 フェーネの突っ込みにフジカは肩を窄めた。


「ふ~ん、キララってヤツは何てジョブなんだ?」

「……聖乙女みたいな」


 好奇心から尋ねると、フジカは視線を逸らしつつ答えた。


「ジョブに由来するスキルは?」

「通常より魔法を早く習得できたり、威力に補正が掛かったりみたいな」

「まあ、普通に考えてそれが原因だな」

「キララさんは一線で戦えるのに……」


 はぁ~、とフジカは深い溜息を吐いた。


「そういえば、なんでさっき視線を逸らしたんスか?」

「うぐ、しっかり見てるし」

「そりゃそうッスよ。で、なんでッスか?」

「……私が乙女じゃないみたいだし」

「そうッスか」


 フジカが顔を背けながら言うと、フェーネは相槌を打った。

 そして、マコトに視線を向ける。


「次はどっちッスか?」

「スケルトンは左から出てきたから右に行って安全の確保だな」

「了解ッス。三人とも隊列を組み直して進むッスよ」

「「「は~い」」」


 フェーネが手を叩くと、メアリ、アン、フジカの三人は間延びした返事をした。


※


 マコト達は隊列を組み直して通路を右に進んだ。

 しばらくして足を止める。


「また行き止まりですね」

「そうだな」


 メアリが壁を見てぽつりと呟き、マコトは頷いた。

 一応、壁を観察する。

 だが、横道も、隠し通路もない。


「じゃ、戻るか」

「「「はい!」」」


 三人が元気よく返事をし、元来た道を戻る。

 通路が左に伸びているが、ここは直進だ。

 左に行ったら広い空間に戻ってしまう。


「……そういえば」


 分かれ道を通り過ぎ、アンが口を開いた。


「……フジカさん、戦闘スタイルは確立できそうですか?」

「全然、イメージが湧かないみたいな」

「……そうですか」


 フジカが溜息交じりに呟き、アンが相槌を打った。

 マコト達は無言で通路を進み――。


「そこで会話が終わったら駄目じゃない!」


 突然、メアリが声を張り上げた。

 振り返りはしない。

 先程、躓いたのを覚えているのだろう。

 感心感心。


「……どうしろと?」

「自分ならこうするとか話を膨らませるのよ」

「……なるほど」


 アンが相槌を打ち、静寂が舞い降りる。


「何も思い付かないの?」

「……マコトさんならどうしますか?」

「またマコトさんを頼って」

「……いいアイディアが思い付かなかったので」


 メアリが呻くように言うが、アンはいつも通りだ。

 大人数で仕事をすると誤解されそうなタイプだ。

 誤解が対立に発展しないように気を配らなければ。

 ふと視線を感じて隣を見る。

 すると、メアリと目が合った。

 どうやら彼女もマコトがどんなアイディアを出すのか興味があるようだ。

 とはいえ――。


「そんな目で見ても凄いアイディアはポンと出せねぇぜ」

「そうですよね」

「……残念です」


 メアリとアンが落胆したように言い、マコトは苦笑した。


「けど、まあ、俺がフジカなら一人でも戦えるスタイルを目指すな」

「うぐぐ、ハードルが高いし」

「確かにハードルは高ぇけど、どんな状況にも対応できた方がいいだろ? そう考えると、僧侶って便利な職業だよな」

「全然、便利じゃないし。不遇職だし」

「そうか? 聖光弾(ホーリー・ブリット)で遠距離攻撃、昇天(ターン・アンデッド)で範囲攻撃、祝聖刃で近接戦闘に対応できるってだけでかなり便利だと思うぜ」

「あと怪我や状態異常も治せるッスね」


 フェーネがしみじみとした口調で呟いた。


「そう言われると万能職って感じですね」

「……それでは、チームを組む意味がないのでは?」


 メアリが納得したように言い、アンが疑問を口にする。


「色々な局面に対応できるってだけで無尽蔵に魔力がある訳でも、耐久力が高いって訳でもねぇからな。やっぱり、限界はあるさ。それに、チームで分担している作業を一人でこなすのは負荷がでかすぎる」

「特に戦闘面が厳しいッスね。ミスったら挽回できないッスから」


 骸王のダンジョンでスケルトンに追い回されたことを思い出しているのか。

 フェーネはぶるりと身を震わせた。


「うう、やっぱり万能職からは程遠い感じだし」

「つっても色々な局面に対応できるのはでかいと思うぜ」

「ジョブは対応できても、私が対応できないみたいな。特に近接戦闘」


 フジカは溜息を吐くように言った。


「近接戦闘の経験も積んでおくか?」

「え!?」


 マコトが提案すると、フジカは声を上げた。


「いい考えだと思います」

「……そうですね」

「うう、ブルータスが二人もいるし」


 フジカが呻くように言う。

 がっくりと肩を落としている姿が目に見えるようだ。


「……ふぇ、フェーネちゃん?」

「う~ん、おいらも近接戦闘の経験を積んでおいた方がいいと思うッスよ」

「ブルータスが三人。勝ち目なしだし」


 フェーネが困ったように言うと、フジカは深い溜息を吐いた。


「騎士団で訓練はしたんだろ?」

「あくまで最低限の基礎って感じだし」

「騎士団にいたんですか!?」

「……びっくりです」


 メアリとアンは驚いたように言った。


「騎士団に所属していたと言ってもほんのちょっとの期間だし」

「なんで、辞めちゃったんですか?」

「……もったいないです」

「人間関係が上手くいかなくて」


 フジカはぼそぼそと呟いた。

 嘘ではない。

 だが、果たして二人が納得するだろうか。

 少し心配だったが――。


「あ~、わかります」

「……騎士団も大変なんですね」


 意外にもメアリとアンは理解を示した。


「ところで、近接戦闘はどうするんスか?」

「どうするって……」


 フェーネの問い掛けにフジカは口籠もった。


「ま、マコトさんはどう思うみたいな?」

「経験を積める時に積んで欲しいってのが本心だな。今までは守りきれたが、これからも守りきれるとは限らねーし。だから、自分を守れるくらいの技量は備えておいて欲しいと思う」


 だが、とマコトは続けた。


「今すぐやんなきゃならねぇって訳でもない」

「も、もし、駄目だと思ったら?」

「無理強いはできねーな。フジカが駄目だと思ったんなら本当に駄目だろうし」


 フジカの問い掛けにマコトは頭を掻きながら答えた。

 やってやれないことはないような気がする。

 何しろ、殴り合いの喧嘩をしたことのない自分でさえ戦えるようになったのだ。

 だが、あくまでそれはマコトの場合だ。

 フジカもできるとは限らない。


「どうだ?」

「わ、私……チャレンジしてみます」


 マコトが尋ねると、フジカは意を決したように言った。


「本当にいいのか?」

「そ、そこまで言われると決心が揺らぎそうだし。で、でも、やりますみたいな」

「その意気ッス! 骨は拾うから安心して欲しいッス!」

「ほ、骨を拾う前にバックアップをお願いしますみたいな」

「もちろん、そのつもりッス。おいらは死に急ぎのバイソンホーン族とは違うッスからね」


 ふふん、とフェーネは鼻を鳴らした。

 直後、首筋がチクッと痛んだ。

 敵だ。


「フェーネ?」

「敵は一体、スケルトンッス。どうするッスか?」

「え!?」


 フェーネが問い掛け、フジカは上擦った声を上げた。


「『え!?』じゃないッス。今、チャレンジするかどうかって話ッス」

「え? え? ええ!?」


 肩越しに背後を見ると、フジカはパニック状態だった。


「次でもいいぞ」


 マコトが声を掛けた直後、カチャカチャという音が聞こえた。

 スケルトンの足音だ。

 次の機会を待った方がいいような気がするが――。


「や、やります!」


 フジカは錫杖を握り締めて叫んだ。


「分かった。メアリ、壁際に寄って射線の確保だ。アンは待機だな。フェーネはフジカのバックアップを頼む。俺は背後からの襲撃を警戒する」

「「はい!」」

「了解ッス」


 メアリは壁際、フェーネは最前列、マコトは最後尾に移動する。

 アンはその場で待機だ。

 通路の奥に芥子粒のように小さな点が見えた。

 それは徐々に大きくなる。

 その姿は骨――やはり、スケルトンだ。

 幸運にもというべきか、武器は持っていない。


「フェーネ、指示も頼む」

「ど、どうすればいいのみたいな?」

「まずはおいらが足を潰すッス。あとは煮るなり、焼くなり好きにするッス」

「ひ、一人で?」

「分かったッス。危なくなったら助けに入るッス」


 フェーネはうんざりしたように言い、スリングショットを取り出した。

 そして、ミスリル合金製の弾を放つ。

 狙っているようには見えない。

 それほど素早い。

 何かが割れる音が響き、スケルトンが転倒する。

 スケルトンは立ち上がったが、脚を引き摺っている。

 見れば膝蓋骨――要は膝の皿の骨だ――が吹き飛んでいた。

 ほぅ、と思わず声を漏らす。

 スケルトンは三十メートルほど離れた所にいた。

 にもかかわらず、一発で当てたのだ。

 凄い腕だ。


「も、もう一発!」

「両膝を潰したら練習にならないッス」

「そんな~」


 意外にスパルタなフェーネの言葉にフジカは情けない声を上げた。


「負けてもいいけど、水薬で治せる範囲の怪我をして欲しいッス」

「そ、そうなる前にバックアップを……」

「根性ッス」

「答えになってないし!」


 フジカは悲鳴じみた声を上げた。

 だが、漫才をしていても仕方がないと分かったのだろう。

 錫杖を構える。


「ペリオリス様、邪悪を退ける力を与えて下さい、祝聖刃」


 フジカが祈りを捧げると、魔法が発動した。

 錫杖が光に包まれる。

 足を踏み出し、動きを止める。


「ペリオリス様! お願いします! 聖光弾ッ!」


 フジカが魔法を放つ。

 接近戦を挑もうとして思い直したのか。

 それとも先に接近戦の準備をしたのか。

 多分、前者だろう。

 聖光弾がスケルトンの胸に当たる。


「頭ッス、頭を狙うッス」

「狙ったし! もう一発! 聖光弾ッ!」


 フジカが再び魔法を放つ。

 だが、今度は肩に当たった。

 う~ん、とマコトは唸った。

 ユウカはガンガン当てられるのに――。

 魔法使いのジョブスキルに照準補正があるのか。

 それとも腕の差か。

 いや、間合いが遠い可能性もあるか。

 いずれにせよ、気になる所だ。


「昇天ッス! 昇天を使うッス!」

「まだ距離があるし!」


 スケルトンとの距離は二十メートルほど。

 これだけ離れていたらダメージは見込めない。

 いや――。


「昇天で足止めするんスよ!」

「わ、分かったみたいな! 昇天ッ!」


 フェーネが苛立った様子で叫び、フジカは魔法を使った。

 昇天の光を浴び、スケルトンが動きを止める。


「今ッス!」

「聖光弾!」


 フジカが魔法を放つ。

 聖光弾が胸に直撃し、スケルトンが倒れた。


「一気に畳みかけるッス!」

「聖――」

「錫杖でぶん殴るッス!」

「分かったし!」


 フジカが錫杖を抱えて駆け出した。

 バックアップのためだろう。

 フェーネもその後に続く。

 だが――。


「ひぃぃぃぃッ! た、立ち上がろうとしてるしッ!」

「昇天で動きを封じるッス!」

「しょ、昇天!」


 錫杖から光が放たれ、スケルトンが再び動きを止めた。


「だりゃ!」


 フジカは裂帛の――いや、やや気の抜けた声と共に錫杖を振り下ろした。

 錫杖が見事にスケルトンの脳天を捉える。

 だが、頭蓋骨は無事だ。


「効いてないし!」

「とにかく振り下ろすッス!」

「だりゃ! だりゃ! だりゃッ!」


 フェーネのアドバイスに従い、フジカは錫杖をスケルトンに振り下ろした。

 何というか、滅多打ちという感じだ。

 その甲斐あって頭蓋骨が割れる。

 フジカは錫杖を構えたまま荒い息を繰り返している。


「なかなか割れないものなんですね、頭蓋骨」

「……メアリ」

「はいはい、どうせ私はスケルトンに殺されかけた女ですよーだ」


 アンがぼそっと呟き、メアリは拗ねたように言った。


「とりあえず、二人の所に行こうぜ」

「は、はい、すみません」

「……すみません」


 マコトはメアリとアンに声を掛け、フジカとフェーネに歩み寄った。


「お疲れさん。一人で戦った感想はどうだ?」

「凄く疲れました、みたいな」


 フジカは錫杖に寄り掛かりながら答えた。

 戦いを終えたばかりだからだろうか。

 顔色があまりよくない。


「少し休むか?」

「まだ大丈夫だし」


 マコトはフジカを見つめた。

 やはり、顔色が悪い。

 ユウカがいれば迷わずにダンジョンを脱出するのだが――。


「体調が回復するまで戦いに参加させなければいいんじゃないッスかね?」

「それでいいか?」

「はい、それで」


 マコトが確認すると、フジカはこくこくと頷いた。


※


 マコト達は隊列を組み直してダンジョンの探索を再開した。

 真っ直ぐに伸びた通路を抜け、広い空間に出る。

 マコトは足を止めた。

 すると、フェーネが声を掛けてきた。


「どうしたんスか?」

「嫌な感じがしねぇか?」


 肩越しに背後を見る。

 フェーネがきょろきょろと周囲を見回し、メアリ、アン、フジカもそれに倣う。


「またモンスターハウスですか?」

「……警戒しすぎでは?」

「うう、勘弁して欲しいし」


 メアリとアンが訝しげな表情を浮かべ、フジカはぶるりと身を震わせた。


「特に何も感じないッスけど……。何かあるんスか?」

「前もモンスターハウスが連チャンしたことがあったからな」

「兄貴の予感が正しかったらマズいことになるッスね」


 フェーネは声のトーンを落として言った。


「中央に移動してアンデッドが出たらいつかの結界を張るのはどうッスか?」

「それが一番か」

「とりあえず、初撃をやり過ごせば何とかなるッス」

「すまないが、少し付き合ってくれ」


 マコト達は空間の中央に移動し、円陣を組んだ。

 もちろん、中心に立つのはマコトだ。

 静寂が舞い降りる。

 考えすぎだっただろうかと考えたその時――。


 ホォォォォォッ!


 壁から、地面から、天井からゴーストが飛び出した。

 空間を埋め尽くすほどのゴーストだ。

 ゴーストの群れが動きを止める。

 マコト達に気付いたのだ。


 ホァァァァァァッ!


 ゴーストの群れがマコト達に殺到する。


「兄貴!」

「点火(イグニッション)!」


 フェーネが叫び、マコトは足を地面に振り下ろした。

 圧力に屈して放射状の亀裂が走る。

 さらに漆黒の炎が噴き出して亀裂を押し広げる。

 その真上に到達した途端――。


 ホァァァァァァッ!


 ゴーストは弾かれ、身を捩るようにして消滅した。

 ゴーストの群れがマコト達から離れる。


「昇天、いけるか?」

「頑張るみたいな」


 フジカは深呼吸し、錫杖を握り締めた。


「昇天みたいな!」


 魔法が発動し、光がゴーストとダンジョンを照らす。

 ゴーストが金切り声を上げて消滅する。

 といっても消滅したのは全体の一割程度だ。


「もう一回! 昇天みたいなッ!」


 再び魔法が発動する。

 だが、今回の光は弱々しい。

 金切り声が上がるが、ゴーストは消滅してない。


「ちょっと無理しすぎたみたい」


 そう言って、フジカはその場にへたり込んだ。


「ど、ど、どうするんですか?」

「……打つ手なしでしょうか?」


 メアリとアンが慌てふためいた様子で問い掛けてきた。


「心配しなくても切り抜ける手段はある」

「そ、そうだったんですか」

「……安心しました」


 マコトの言葉にメアリとアンは胸を撫で下ろした。


「どうするんスか?」

「結界を広げて押し潰す」

「いつの間にそんなことができるようになったんスか?」

「……」

「ぶっつけ本番ッスか」


 マコトが黙っていると、フェーネは顔を顰めた。


「だ、大丈夫なんですよね?」

「……まだ死にたくないです」

「うん、まあ、できるんじゃねーかな?」


 やれる自信はあるが、試すのは今日が初めてだ。

 やっぱり、駄目でしたとなる可能性もゼロではない。


「うう、兄貴がリブみたいなことを言い出したッス」

「反論しにくいことを言いやがるな」


 下手に反論したらリブの株が下がりそうだ。


「……打つ手があるのなら、どうして実行しないのですか?」

「俺が範囲攻撃したらお前達のレベルが上がらないからな」

「れ、レベルのことを心配してくれるのはありがたいんですけど……」

「……高レベルの冒険者は考えることが違いますね」


 メアリは呻くように、アンは呆れたように言った。


「……でも、私とメアリの武器はゴーストに効かないと思います」

「そこは俺とフェーネで何とかできると思う」

「確かにそうッスね」


 フェーネは頷き、アンに視線を向けた。


「矢が欲しいッス」

「……どうぞ」


 アンが矢筒から矢を抜いて差し出す。

 フェーネは矢を手に取り――。


「狐火ッス」


 ぼそっと呟く。

 すると、鏃に漆黒の炎が灯った。


「これを使ってみるッス」

「……分かりました」


 アンは弓に矢を番え、ゴーストに向けて放った。

 矢はゴーストの群れを貫き、壁に突き刺さる。


「次は俺の番だな。メアリ、ポールハンマーを」

「どうぞ」


 マコトはメアリが差し出したポールハンマーの柄を握り締めた。


「点火!」

「――ッ!」


 右腕から漆黒の炎が噴き出し、ポールハンマーに纏わり付く。

 突然、炎が出たことに驚いたのか。

 メアリが手を放す。

 重量が増す。

 元の世界なら取り落としている所だが、マコトのステータスはカンストしている。

 軽いものだ。


「悪ぃ、びっくりさせたか?」

「私こそ、すみません」


 メアリは恐る恐るポールハンマーに手を伸ばす。

 熱くないと気付いたのだろう。

 ポールハンマーの柄を握り締める。


「炎なのに熱くないんですね」

「一応、精霊術だからな。格好悪いが、結界から出ないように攻撃してくれ」

「はい!」


 メアリは元気よく返事し、ポールハンマーを結界の外に突き出した。

 ゴーストが金切り声を上げ、消滅する。

 ふと視線を感じ、足下を見る。

 すると、フジカが恨めしそうな目でこちらを見ていた。


「どうかしたのか?」

「折角、祝聖刃を覚えたのに……」


 は~、とフジカは深い溜息を吐いた。

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