Quest36:新生ダンジョンを攻略せよ その1
城門の外――リブと手合わせする時に使っている更地でマコト達はユウカを中心に円陣を組んだ。
「皆、準備はいいわね?」
「ああ、準備OKだ」
「準備はOKッスけど、質問があるッス!」
「何よ?」
フェーネが手を挙げ、ユウカがきょとんとした顔で尋ねる。
「なんで、リブとローラさんがいるんスか?」
「なんだよ、あたい達がいちゃ駄目なのかよ」
「今回は兄貴、おいら、フジカ、メアリ、アンの五人だけだと思ってたッス」
リブがムッとしたように言い、フェーネは拗ねたように唇を尖らせた。
そこにユウカが割って入る。
「もちろん、ダンジョンを探索するのはアンタ達だけよ」
「じゃあ、なんでリブとローラさんがいるんスか?」
「あたしの護衛に決まってるじゃない。街に戻ろうと呪文を詠唱している時にモンスターに襲われたら洒落にならないわ」
「ま、そういうことだ。安心したか?」
「そういうことはわざわざ口にしなくてもいいッス」
リブが勝ち誇ったように言い、フェーネは呻くように言った。
「もういいわね。リュノ・ケス――」
「ちょっと待ったみたいな!」
ユウカが詠唱を始めるが、フジカが遮る。
「生憎、あたしはアンタに付き合うほど暇じゃないのよ」
「私はマコトさんとユウカの漫才に嫌ってほど付き合ってるし」
「頼んでないわ」
「そうだけど! そうだけどッ!」
ユウカが小馬鹿にするように言うと、フジカは口惜しげに地面を蹴った。
「それで準備は……」
ユウカは視線を巡らせた。
マコトとフジカはいつもと同じ格好だが、フェーネは短剣を新しくした。
刀身は緩やかなカーブを描き、先端の方は幅が広くなっている。
ネパールの伝統的武器ククリ――グルカナイフとも呼ばれる――によく似ている。
アンも同じ武器を持っている。
どちらも『黄金の羊』亭の地下室に保管されていた短剣だ。
「メアリ、大丈夫?」
「少し重いですけど、多分」
ユウカが心配そうに声を掛けると、メアリはポールハンマーを握り締めながら答えた。
このポールハンマーも『黄金の羊』亭に保管されていた武器だ。
ユウカはリブに視線を向けた。
「どうなの?」
「基礎は仕込んでやったけど、こんな仕事だからな。保証はできねーよ」
リブは頭を掻きつつ答えた。
「……まあ、そうよね」
「お前が文句を言わないなんて意外だな。今日は雨か?」
「意外って何よ、意外って」
マコトが軽口を叩くと、ユウカはキッと睨み付けてきた。
顔を背け、拗ねたように唇を尖らせる。
「これでも、それなりに修羅場を潜ってるんだから準備や努力はいくらしても足りないってことくらい分かってるわよ」
ユウカはぼそっと呟き、メアリとアンに視線を向けた。
「二人とも、いい? 油断しちゃ駄目よ」
「はい!」
「……はい」
ユウカの言葉にメアリとアンは神妙な面持ちで頷いた。
「二人にこの言葉を贈るわ。トラブル一発、腕が飛ぶ」
「俺をディスるなよ」
マコトは顔を顰めた。
トラブル一発、腕が飛ぶとは葛葉と戦った時のことを言っているのだろう。
「ディスってないわよ。高レベルの冒険者でも油断すると、腕が飛ぶって言いたかったの。それはさておき、準備はできたわね」
「さっきちょっと待ったって言ったし」
「トイレならその辺でしちゃいなさいよ」
「トイレじゃないし!」
「じゃあ、何なのよ」
フジカが声を荒らげ、ユウカが心底うんざりしたように言った。
「ちょっと心の準備が――」
「さっきも言ったでしょ。準備や努力はいくらしても足りないの」
「嫌がらせの意思をひしひし感じるし」
「は~、酷い言い様ね。アンタの戦闘スタイルを確立するなんて名目であたし達は足止めを食ってるのに。もう少し迷惑を掛けている自覚を持ちなさいよ」
やれやれね、とユウカは首を振った。
うぐぐ、とフジカは呻き、がっくりと肩を落とす。
「わ、分かっ――」
「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、繋がれ繋がれ回廊の如く、我が歩く道となれ! 顕現せよ! 転移!」
フジカが頷く間もなく、ユウカは呪文を唱えた。
心なしか、いつもよりテンポが速い。
浮遊感がマコトを包み――。
「きゃッ!」
可愛らしい声が響いた。
見ればフジカが尻餅をついていた。
あわわ! と顔を真っ赤にしてスカートを押さえる。
尻餅をついた拍子にスカートが捲れたのだ。
「チッ、なんてあざとい女。きっと、練習してるわよ」
「そんなヤツいねーよ。つか、あざとい通り越して怖ぇよ」
舌打ちするユウカにマコトは突っ込んだ。
「分かってないわね。女は計算高い生き物なのよ」
「そんなの人によるだろ」
「なんで、男のマコトに分かるのよ?」
「お前を見てりゃ分かるよ」
「そうね。あたしみたいに美人で、頭もよくて、気立てのいい女もいるわね」
「そーだな」
「突っ込みなさいよ!」
相槌を打つと、ユウカが声を荒らげた。
「ダンジョンに置き去りにされる女が言っても説得力がないとか色々あるでしょッ?」
「分かった分かった」
マコトは両手を上げ、降参の意思を示す。
流したら流したで突っ込みを要求するなんて面倒臭い女だ。
とはいえ望むなら突っ込んでやるべきだろう。
俺は人が好いな、と思う。
「美人で、頭もよくて、気立てのいい女とか何様だよ」
「そこは突っ込まなくていいの!」
「ダンジョンに置き去りに――」
「それはあたしが言ったから結構よ!」
「面倒臭ぇ女だな」
マコトは深々と溜息を吐いた。
「つーか、なんで突っ込みを要求してくるんだよ」
「最近、何か、こう、キレがなくなってるような気がするのよ」
「逆ギレ芸人だもんな」
「誰が芸人よ!」
ユウカは顔を真っ赤にして言い、小さく溜息を吐いた。
「何て言うか、最近、穏やかな気分なのよ」
「いいことじゃねーか」
「駄目よ!」
ユウカは鋭く叫んだ。
「世の中に対する怒りがなくなったら戦えないわ。それに、『こういうのも悪くないわね、ふふ』と思ってる自分が嫌なの。昔の自分を取り戻さないと」
「ベ●ータみたいなことを言ってやがる」
「そうね。今ならベ●ータの気持ちがよく分かるわ」
ユウカは呻くように言い、手の甲を擦った。
そんなユウカを見ながらフジカが口を開いた。
「指輪を――」
「あ、それは却下」
「多分、穏やかな気分になっているのは指輪の――」
「却下って言ってるでしょ!」
ユウカは声を荒らげた。
「男から指輪をもらったことのないアンタには分からないだろうけど! 男から指輪をもらったことのないアンタには分からないだろうけどッ! マコトの気持ちを蔑ろにしちゃ駄目だと思うのよ」
「二度も言ったし」
「大事なことだから二度言ったのよ」
ふん、とユウカは鼻を鳴らした。
「何だか、努力せずに痩せたいみたいな調子のよさを感じるし」
「喪女にあたしの苦悩は分からないわよ」
「うぐぐ、恩返しの指輪で何処まで……」
「じゃ、あたし達は帰るから」
ユウカは髪を掻き上げ、少し離れた所に移動する。
リブとローラがその後に続く。
ユウカが杖を構え、リブとローラが武器を構えて視線を巡らせる。
「ああッ! まだ、マコト様とお別れがッ!」
「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、繋がれ繋がれ回廊の如く、我が歩く道となれ! 顕現せよ! 転移!」
ローラが声を上げるが、魔法が完成する方が速かった。
ユウカ、リブ、ローラの姿が掻き消える。
「護衛は必要なかったような気がするッス」
「念を入れたんだろ。つか、ここは何処だ?」
マコトは周囲を見回した。
鬱蒼とした森が広がっている。
「群体ダンジョンの近くッスよ」
「分かるのか?」
「これでも、盗賊ッスからね」
ふふん、とフェーネは自慢げに胸を張った。
「新しいダンジョンは?」
「それはこっちッス」
フェーネが歩き出し、メアリ、アン、フジカ、マコトの順で後に続く。
乗合馬車の乗り場に出て、再び森に入る。
しばらくしてフェーネが立ち止まった。
「ここが新しいダンジョンッス」
フェーネはこちらに向き直り、空間に空いた穴を手で指し示した。
穴の向こうはダンジョン――岩が剥き出しになった通路だ。
「隊列は打ち合わせ通り、前衛が俺とメアリ、真ん中がフジカ、後衛がフェーネとアンだ。問題ないよな?」
「はい、問題ありません」
「……はい」
「大丈夫みたいな」
「もちろんッス」
念のために確認すると、メアリ、アン、フジカ、フェーネの四人は頷いた。
「よし、行くぞ」
そう言って、マコトはダンジョンに足を踏み入れた。
※
マコト達は隊列を組みながらダンジョンを進む。
何処も似たような感じだな、とダンジョンの壁に手を突き、そんな感想を抱く。
もちろん、内部の構造は違うが、壁の質感などは同じに感じる。
ふと骸王のダンジョンにあった神殿――その壁画を思い出す。
あの時はアンデッドの起源に関するものだと思った。
いや、実際にその通りなのだろう。
だが、何のために壁画を残したのか。
ひょっとして、あれは――。
「兄貴、どうかしたんスか?」
「悪ぃ、ちょっとボーッとしてた」
背後からフェーネに声を掛けられ、マコトは頭を掻いた。
しまった。いくら何でも今のは油断しすぎだ。
今回の探索はいつもと違うのだ。
マコトとフェーネでメアリ、アン、フジカをフォローしなければならないのだ。
余計なことに意識を割く余裕はない。
ボーッとしていたせいでチームのメンバーが死んだら後悔してもしきれない。
とはいえ――。
「随分、通路が続くな」
「他のダンジョンなら道が分かれたり、広い空間に出たりしてもおかしくないんスけどね」
マコトが正面を見て呟くと、フェーネが同意した。
彼女の言う通り、ダンジョンに入ってから真っ直ぐな通路が続いている。
アンデッドも出てこない。
集中力が途切れやすい状況だ。
ふとメアリが気になって隣を見る。
彼女はポールハンマーを構え、じっと前を睨んでいる。
集中しているように見えるが――。
「……フェーネ」
「なんスか?」
マコトはフェーネに見えるように両手を掲げ、手を打ち鳴らすふりをする。
直後、パンッという音が響いた。
フェーネが手を打ち鳴らした音だ。
「――ッ!」
メアリは息を呑み、きょろきょろと周囲を見回した。
アンデッドがいないことに気付いたのだろう。
ホッと息を吐く。
「メアリは緊張しすぎだな」
「すみません」
「いや、俺もボーッとしてたからな」
メアリが申し訳なさそうに言い、マコトは苦笑した。
その時、首筋がチクッと痛んだ。
「敵だ。フェーネ、人数は?」
「二体ッスね。聞こえるのは骨の音だけだからスケルトンの可能性が高いッス」
「分かった。一体は俺が引き受ける。もう一体はメアリ、アン、フジカで対応してくれ。フェーネはトラブルが起きた時のバックアップだ」
指示を出している間にアンデッドの姿が見えてきた。
鎧や武器を装備していない。
フェーネの推測通り、二体のスケルトンだ。
スケルトンはカチカチと歯を打ち鳴らしながらこちらに駆けてくる。
「じゃ、一体は任せるぞ」
マコトは一足飛びに距離を詰め、拳を繰り出した。
頭蓋骨が吹き飛び、スケルトンは地面に倒れ込むと同時にバラバラになる。
もう一体のスケルトンはそのままマコトの脇を駆け抜ける。
目標はメアリ達だ。
さて、メアリ、アン、フジカの三人はどう対応するのか。
骸王のダンジョンの十階層をさまよっていた頃の自分達――マコトとユウカなら距離を詰められるまでに魔法でダメージを与え、その後は近接戦闘に移行するだろう。
三人の場合、フジカが魔法でダメージを与え、メアリが戦い、アンが周囲を警戒しつつ援護するという感じだろうか。
「ペリオリス様、邪あ――ッ!」
フジカは祈りを捧げることができなかった。
メアリが飛び出したのだ。
「ハァァァッ!」
メアリが裂帛の気合いと共にポールハンマーを振り下ろす。
だが、スケルトンが距離を詰める方が速かった。
ポールハンマーの柄を肩で受け、メアリに掴み掛かる。
メアリは距離を取ろうとしたが、やはりスケルトンの方が速かった。
肩を掴むなり、大きく口を開く。
「――ッ!」
メアリが声に鳴らない悲鳴を上げた。
スケルトンがメアリの首筋に噛み付いたのだ。
メアリは血を流しながら何とか引き剥がそうとする。
だが、引き剥がせない。
助け船を、いや、アンとフジカの様子を確認する方が先か。
今回の目的はフジカの戦闘スタイルを確立させること――経験を積ませることだ。
もちろん、フジカだけではなく、メアリとアンに経験を積んで欲しいとも思っている。
マコトはアンとフジカに視線を向けた。
二人は黙ってメアリとスケルトンを見ている。
パニックに陥っているのだろう。
その時、スケルトンがメアリを壁に叩き付けた。
「かはッ!」
よほどの衝撃だったのだろう。
メアリが咳き込む。
それで我に返ったらしくアンが短剣を抜いてスケルトンに襲い掛かる。
背後から短剣を頭蓋骨に振り下ろすが、わずかに骨が削れただけだ。
さらに短剣を振り下ろすが、スケルトンはびくともしない。
結構、強いんだな、とマコトは場違いな感想を抱いた。
いや、レベル3の戦士とレベル2の狩人ならこんなものか。
ついでにいえば最初の対応も上手くいっていなかった。
シャランという音が響く。
錫杖の音だ。
直後――。
「た、た、昇天!」
フジカが叫び、光がダンジョンを照らした。
スケルトンがバラバラになって崩れ落ちる。
自由になったメアリは壁に背を預け、荒い呼吸を繰り返した。
首筋を押さえようとして動きを止める。
どんな酷い傷なのか。
怖くて触れないのだろう。
マコトはメアリの首筋を見た。
首の肉が抉れかけている。
致命傷ではないが、無視できるような傷でもない。
「……水薬を」
「待つッス。水薬は節約すべきッス」
アンがポーチから水薬を取り出そうとするが、フェーネが待ったを掛ける。
「……でも、血が出ています」
「フジカ、頼むッス」
「わ、分かったみたいな。ペリオリス様、癒やしの奇跡を。治癒」
フジカはメアリに歩み寄って魔法を使った。
魔法の効果によって瞬く間に傷が塞がる。
「し、死ぬかと思った」
そう言って、メアリはへたり込んだ。
「死にかけた所、悪ぃが……」
「……はい」
マコトが声を掛けると、メアリ、アン、フジカの三人は背筋を伸ばした。
「今のは戦術ミスだ。折角、アンとフジカって飛び道具を使えるヤツがいるんだから距離を詰められるまではダメージを与えることに専念すべきだと思う。なんで、前に出たんだ?」
「……敵を足止めすべきだと思いました」
メアリはしょんぼりとした様子で呟いた。
恐らく、彼女はもっと上手くやれると考えていたのだろう。
まあ、現実には上手くやれなかった訳だが――。
「そんなに落ち込むなよ。練習と実戦は違うし、最初から上手くやれるヤツなんてそうそういねぇんだからさ。次に活かせばいいさ」
マコトは頭を掻いた。
若い頃の自分を見ているようで何とも気恥ずかしい。
「ところで、アンとフジカはどうして動けなかったんだ?」
「……邪魔になると思いました」
「咄嗟に動けなかったみたいな」
アンはぼそぼそと、フジカは申し訳なさそうに言った。
「三人とも判断力に難があるみたいッスね」
「判断力か。ロールプレイとかやっておけばよかったな」
「兄貴が指示したらどうッスか?」
「俺が指示したら自分のスタイルを確立できないんじゃねーか?」
「今の三人はスタイル云々ってレベルに達してないッス」
フェーネの言葉にメアリ、アン、フジカの三人は首を竦めた。
「辛辣だな」
「死んで欲しくないッスからね。厳しい意見も言うッスよ。おいらとしては兄貴の指示をきちんとこなせるようになってから自分のスタイルを模索した方がいいと思うんス」
実際に対応できなかったので、もっともだと頷かざるをえない。
三人は自分で判断できるほど経験を積んでいない。
試行錯誤して学んで欲しかったのだが――。
腕を組み、三人に視線を向ける。
すると、フジカがおずおずと手を挙げた。
「どうした?」
「私はマコトさんに指示を出して欲しいし。さっきの件で自分が立ち回りを全く分かっていないことが分かったみたいな。これじゃ、スタイルを確立するなんて夢のまた夢だし」
マコトが問い掛けると、フジカは呻くように言った。
「メアリとアンは?」
「私もお願いできれば……」
「……よろしくお願いします」
メアリとアンはしょんぼりした様子で言った。
いや、アンはいつも通りか。
「分かった。慣れるまで俺が指示を出していく」
マコトはフェーネに視線を向けた。
「俺が手一杯になった時はフェーネに指示を引き継いでもらう」
「マコトさんが手一杯の時は、私達は死んでるような気が……」
メアリが呟くと、アンとフジカはこくこくと頷いた。
※
マコト達は隊列を組み直し、ダンジョンの探索を再開した。
隣を見ると、メアリがポールハンマーを担いで歩いていた。
そっと手を上げる。すると――。
「マコトさん、見えてます」
「視野は広く、音にも注意するんだぞ。ゾンビは呻くし、スケルトンは音を立てるからな。聞き逃すなよ」
「はい、分かりました」
マコトのアドバイスにメアリは素直に頷いた。
「アンとフジカもな」
「……分かりました」
「分かったみたいな」
肩越しに視線を向けると、アンとフジカは神妙な面持ちで頷いた。
マコトは正面に向き直り――。
「気配探知を取得すると呻き声や音がする前に敵がいるって分かるようになるけどな」
「スキルか~」
「……どんなスキルを取得するのか悩み所ですね」
メアリはしみじみとした口調で、アンが溜息を吐くように言った。
首筋がチクッと痛んだ。
前を見ると、道が二手に分かれていた。
「敵だ。フェーネ、何体だ?」
「一体ッスね。声が聞こえるからゾンビっぽいッス」
「鮮度は?」
「速度的にジューシーな感じッス」
「メアリ、壁際に移動してアンとフジカの射線を確保」
「「了解!」」
「……できれば矢を使いたくないのですが」
メアリとフジカが元気よく返事をし、アンが呻くように言った。
「なんでだ?」
「……臭いが矢に付きます」
やはりアンは呻くように言った。
そういうことなら仕方がないか。
先はまだ長いのだ。
マコトも腐敗臭に耐えながらダンジョンを探索するのは嫌だ。
「フジカ、ゾンビが出てきたら聖光弾を放て」
「了解みたいな!」
フジカが錫杖を握り締め、マコトとメアリは壁際に寄った。
「おぉぉぉぉ――ッ!」
「「「――ッ!」」」
ゾンビの声が響き、メアリ、アン、フジカの三人がびくっと体を震わせる。
ビシャ、ビシャと水っぽい音が響く。
ゾンビの足音だろう。
音は徐々に大きくなり、右の通路からゾンビが姿を現す。
予想通り、ジューシーな感じだ。
元冒険者らしく革鎧を身に着けている。
「あぁぁぁッ!」
ゾンビが声を上げ、よろめくように近づいてくる。
動きは鈍い。
「ペリオリス様、力をお貸し下さい! 聖光弾みたいなッ!」
フジカが錫杖を構え、魔法を放つ。
聖光弾がゾンビの肩に直撃し、肉が抉れる。
心なしか悪臭が強くなったような気がする。
「あぁぁぁぁッ!」
ゾンビが声を上げる。
戦意、いや、生者への殺意は失っていないようだ。
ビシャ、ビシャと音を立て、近づいてくる。
「もう一発だ」
「聖光弾ッ!」
マコトの指示に従い、フジカが再び魔法を放つ。
聖光弾が腹部に直撃し、内臓が溢れ出る。
悪臭が増した。
ゾンビはズル、ズルと内臓を引き摺って近づいてくる。
「で、できればあと一発で仕留めて」
メアリが懇願するように言った。
ゾンビとはまだ距離がある。
二回分くらいなら魔法を放てるだろう。
だが、まあ、気持ちは分かる。
ジューシーなゾンビと戦うのは衛生的にも、生理的にもキツい。
「もう一発!」
「聖光弾ッ!」
フジカが三度目の魔法を放つ。
聖光弾がゾンビの頭部に直撃する。
ビシャリという音を立てて、ゾンビが前のめりに倒れた。
「やっ――」
「まだッス!」
フジカの声をフェーネが遮る。
「おぉぉぉぉッ!」
ゾンビは声を上げ、地面を這う。
先程よりもさらに遅い。
「フジカ、トドメだ」
「聖光弾!」
「――ッ!」
フジカが魔法を放つ。
聖光弾が顔面を捉え、ゾンビの頭が吹き飛んだ。
ゾンビは動かない。
今度こそ死んだようだ。
ゾンビに死んだという言葉を使っていいのか悩んでしまうが――。
「一発で頭を粉砕するって訳にはいかないんだな」
「これが聖光弾の仕様みたいな」
フジカはがっくりと肩を落とした。
「その分、精度を上げていこう」
「分かったし」
フジカは錫杖を握り締めて言った。
「さてと、隊列を組み直して先に進もう」
「「「了解!」」」
「……了解」
フェーネ、メアリ、フジカが元気よく返事をし、アンがぼそっと呟いた。





