真実を知る鏡
この世界にはとても珍しい、魔法具というものがある。
遠く離れた人でもボタンを一つ押すだけで会話することができたり、日の落ちた真夜中でも街を明るく照らすことができたりと、用途は様々。
全世界に何百万もの種類を持つ魔法具は私たちの生活を長きに渡って支え続けてきた。
そんな魔法具の中でも特に貴重性の高いものを最高魔法具と呼び、現在では悪用を防ぐためにと国が厳重に保管されている。
つい最近まではその存在すらも公にされていなかったが、今では最高魔法具の中でも特に危険性が少ないとされている魔法具を限定し、年に数回だけ一般公開されていた。
「鏡よかがみ。私は漫画を書くことが大好きなんですが、漫画家になれる日が来るのでしょうか」
「残念ながらそれは無理でしょう。近い将来、あなたは漫画を書くことを断念して筆を置くことになります」
今まで噂にすら上ってこなかった最高魔法具が使えるとあって、公開期間日は国中から多くの来場客が押し寄せてくるのだが、その中でも特に人気なのが真実を映すと言われている鏡。
この鏡に質問を投げかけると、鏡がそれに関する未来を見て答えを返してくれる。
人々はこの鏡を真実を知る鏡と呼び、いつしか国の最大国宝となっていた。
「鏡よかがみ。私たちは今年の春に結婚するんですが、ずっと夫婦円満で暮らしていけるでしょうか」
「何聞いてるんだよ、香我美。そんなこと聞いても意味ないだろ」
「意味ないわけないじゃない。これからの新婚生活がもっと楽しみになるでしょ」
「確かに、言われてみればそうだな」
「残念ながらそれは無理でしょう。あなたたちは結婚を目前に浮気がばれ、結婚を待たずに別れます」
「「・・・・・・」」
真実を知る鏡は偽りを言わない。それはこの国に住んでいる人ならば誰もが知っていることで、至極当たり前のこと。
「・・・・・・そんなことないよね。私たちに限って」
「あ、当たり前だろ。今だってこんなに幸せじゃないか」
「そうよね。いやー、真実を知る鏡でも間違えることだってあるんだね」
そして、真実を知る鏡から応えが帰ってきた々の反応も様々である。
そんなことはないと怒り狂う人。これからの人生に歓喜する人。真実を受け止めきれずにその場に泣き崩れる人。中にはこれから起こりうる現実から逃げるために自殺する人もいると聞く。
しかし、人々は知らない。真実を知る鏡が、ほんとうはただの鏡でしかないことを。