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アクセス完了

8 アクセス完了

「魔神役の定男がゲームの世界を、次元を超えて実体化させようと計画したことが、そもそもの発端だった・・・。」

 綾瀬が、俺にも簡単に魔神との戦いの場面の説明をしてくれる・・・、そういやさっきもそんなことを言っていたな・・・、ふと後ろを振り返る。


「いや、まあ・・・悪事を企んだわけでもなんでもなくて、ただ俺様の持論を証明したかっただけなのだがね。」

 定男が少し顔を赤らめながら言いつくろおうとする。


 だがしかし・・・こいつのおかげで通信障害が発生し、そのためにあの星が願いの叶う星であることが公に知れ渡ることになり、各国政府に危険視されて最終的に没収となってしまったわけだ。

 こいつが諸悪の根源であることに間違いはない・・・。


「俺たちはシメンズメンバーとは、竜王が開催する闘技会で知り合った。

 勇者になるべき冒険者を決める戦いで、普通なら冒険者ごとに繰り返し発生するイベントのはずだったが、あの時は1度きりの大会だった。


 俺は魔王軍の仲間と竜王を魔神の手から守るために向かったのだが、魔神は俺たちの予想を裏切り過去にさかのぼって竜王を倒して幽閉してしまった。

 俺たちは仕方なく、勇者に一番近いシメンズメンバーと冒険の旅を続けることにより、魔王を復活させて魔神に対して優位に戦えるよう画策したのだ。


 しかしそんな苦労をしなくても、シメンズの戦い方を見ていたら、レベル4の差があっても十分に魔神に勝てると考えられるようになり、最後はシメンズにすべてを託したわけだ。


 いやあ・・・あの戦いはすごかったぞ・・・、なにせ圧倒的な力の差がある魔神との戦いで・・・、しかもリセットは効かず、シメンズメンバーは倒されたら終わりだった。

 超人たちに協力はしてもらっていたものの、最終的にはレイが考え付いた奇策によって・・・。」


 最初の冒険のいきさつを説明してくれる綾瀬の口調が、だんだんと熱を帯びてきた・・・・。

 ううむ・・・ゲームの世界での俺たちって、そんなに凄かったのか・・・?


「2回目は・・・俺はシメンズと冒険の旅をすることはなかったし、あくまでも敵同士として勇者が魔王城へ向かうときに相対して、倒されただけだ。

 まあ俺たちの強さレベルは設定が決まっていたし、うまく戦われたという事もあり、魔王軍を率いて戦ったのだが、3チームほどの勇者パーティに敗れてしまったわけだ。


 実体化したので、個別に冒険が進んでいくわけではないことを利用した、共同戦線にしてやられたというわけだな・・・、うまい作戦だった。」

 綾瀬が悔しそうにしながらも、笑顔を見せる。


「魔王との戦いはわからないが魔神との戦いのときは・・・、複数のパーティは同時参加できないから、最初はシメンズとの対決になった。

 後ろには2チーム控えていたようだがね・・・。


 勇者のレベル+4のレベルで目覚めるはずが・・・、ツバサはともかくサグルも源五郎もレイも・・・、俺様の強さレベルを超えていた。

 超人を連れてきたわけではないのだが、それこそボコボコにされてしまった・・・。


 一体どういうことかと疑ったよ・・・レベルの低いやつを勇者に仕立てて、シメンズメンバーは勇者にならずに挑んできたのだろうかとか・・・、切り刻まれながら色々な仮説が頭をよぎった。


 だがしかし・・・そんなことはできないはずだった・・・、なぜなら勇者でなければ魔神は目覚めないし、戦いのステージにも上れないからだ。


 しかも勇者個別にレベル設定されるわけだから、戦う相手に対して魔神のレベルは切り替わる・・・、魔神が目覚めるときにはその時の最高の勇者レベル+4で目覚めるのだが、戦闘に際しては調整されるわけだ。

 ところが・・・だ・・・シメンズの奴らは、実体化したという事実を最大限に利用しやがったのだ。」


 定男の奴が綾瀬の隣に腰を下ろし、悔しそうに歯ぎしりする。

『実体化という事実を利用した・・・?』

 俺と源五郎だけではなく、綾瀬や大空翔までもが聞き返す。


「ああ・・・なにせあのゲームはバーチャルとはいえ、現実世界に則して作り上げているから、何でもリアルにできている。

 しかし所詮はバーチャル・・・、いくら願いが叶う星で行っているとはいえ、あくまでもバーチャルという事でゲームが成り立っている。


 それがために魔物たちは倒されても倒されても復活するし、冒険者たちもリセットは効くし、死んでもGが半分になってもよければ死ぬ寸前までの経験値を獲得して、次のアクセスで生き返ることができるわけだ。

 ところが現実世界に実体化してしまうとそうはいかない。


 魔物たちも限られた命だし、冒険者たちだってそうだ・・・、倒されても復活できるのは、魔王と魔神である俺様達くらいのものだ。」

 定男は、どうだとばかりに胸を張って自慢する。


「そんなことはわかっている・・・だが、それと実体化という事実を利用したという事が、どう結びつくんだ?

 実体化してリプレイが効かなくなるわけだから、不利なことばかりじゃないのか?」

 定男の言っていることは、俺にはさっぱり理解できないでいた。


「そうだ・・・実体化して不利なことが多い・・・、そのほかにも強いやつと一緒にパーティを組んでダンジョンをクリアしていけば経験値を獲得することができて、見かけ上はレベルが上がって行っているように見えるが、実際にはそうとは言えない。


 実体化しているのだから特になのだが・・・実際にクエストをこなして経験を積む・・・、つまり戦って技能を磨くか、若しくは毎日の訓練で身体能力をあげていかなければ、実際には強くなっていかないわけだ。


 逆に言うと、クエストを最小限にこなしてとりあえず勇者の資格を得るまでにとどめ、レベルをさほど上げなければ・・・、身体能力をあげるには毎日の特訓だな・・・、冒険者同士の模擬試合を繰り返して技術をあげていったと、俺様が倒された後に解説してくれた。


 それもこれも、ただ一人前回の冒険の一部始終を記憶しているツバサの存在が大きかったのだが・・・、彼女だけはゲームキャラが実体化したわけではなく、あの星に住んでいた住民だからな・・・。

 俺様の力を使って時間をさかのぼる際にも、ツバサは記憶を持ったまま魔神が目覚めるときに戻っていたらしい・・・、あの星の住民たちと一緒にね・・・。


 戻った当初は何も覚えていないふりをしてとぼけていたらしいが、途中からは前回の冒険で得た知識を披露して、いろいろとアドバイスをしていたようだ。

 各ダンジョンのクリア方法など細かいことは忘れていても、大筋の進め方を覚えていただけで大きな経験値だ。


 俺様があの星にハーレムを作ろうと考えて画策したときに呼び寄せた愚かな仲間たちのことを覚えていて、そこからたどり着いた作戦だったとサグルが言っていた。


 その事実を通信回復後に知った俺は、急いでプログラマーたちにバーチャル世界でも実行可能かどうか聞いたが、バーチャル世界で行うことは、どの行動も経験値につながるので、クエストに属さない特訓でも経験値としてカウントされて、レベルが上がっていくはずだと教えてくれた。


 まさに実体化した事実を利用した奇策だよ・・・、よくぞそんなこと思いついたものだ・・・。」

 定男はあきれたとばかりに万歳ポーズをして見せる・・・こいつが困った姿を見せるのは、なんかうれしい。


「ふうん・・・なんか参考になりそうだったけど・・・、実体化したとき限定の話か・・・。

 今回は使えそうにないな・・・。」


 まあ攻略法など簡単に教えてくれるはずはないだろうが・・・、ちょっと残念・・・なにせ思いついたのは、俺たちの中の誰かのわけだから、有効なのであれば堂々と使ってもいいわけだ。


「もちろん・・・バーチャルでも有効であれば、すぐに開発チームに命じてプログラム修正を行ったさ、残念だったな・・・。

 それに・・・今回に関しては、魔神も魔王も・・・恐らく敵ではないぞ。


 さっきも言ったはずだが・・・必ず役に立つはずだ・・・、だから勇者の資格を得て俺たちを目覚めさせてくれ・・・。」

 定男が、妙にまじめくさった表情で告げてくる・・・、ううむ・・・信じていいものだろうか・・・。


『ガァッ』ショールームの奥の方で音がして目をやると、ゲーム機の上蓋が開いている・・・。

 妙に早いな・・・まだ1時間ほどしか経っていない・・・、失敗か?


「ありゃりゃ・・・眠ったままか・・・、こりゃあ向こうでも目覚めていないだろうな・・・。」

 様子を見に行った綾瀬がため息をつく。


「キャラづくりは失敗かい?」

 レイの体を持ち上げながら確認する。

 もう時間はないから、源五郎を入れるしか余裕はない。


「うーん・・・分からんねえ・・・。

 一応アクセスはできているようだがね・・・、寝たままだから寝入るまでの時間分早かったというだけのことだ。

 だがしかし、向こうの世界でねばねばの魔物と戦えたのかどうか・・・、本人が眠ったままだからわからないな。


 朝になって目覚めたら聞いてみるしかないね・・・向こうの世界に行っても寝ていて、覚えていないかもしれんがね。」

 綾瀬がゲーム機につないだノートパソコンで、アクセス履歴を見ながら告げる。


 ううむ・・、向こうでも寝たままだったらどうなってしまうのだろう・・・、ずっと目が覚めなかったりして・・・、なんてことはないのだろうが・・・。


「では、最後に僕が行きます。」

 すぐに源五郎がゲーム機の中に横たわり、自分のキャラ設定を入力していく。

 また自分とは異なる、ちょっと小さめの青年にするのだろうか・・・?


「じゃあ、頑張ってきてくれ・・・、レイが成功したかも見てきてくれ。」


「分かりました。」

『ガァッ』上蓋が閉じてアクセスが始まる・・・、これで2時間は待っているだけだ。

 眠ったままのレイを応接の長ソファーに寝かせてやる。


「明日は平日だし・・・、学校があるといっていたが仕事もあるのだろ?

 一人掛けのソファーだが、クッションは柔らかいから寝られるだろう・・・、少し寝ていた方がいい。」


 ショールームの奥から、綾瀬がビニールにくるまれた何かを持ってきて手渡してくれた。

 開けてみると薄手の毛布のようだ・・・、ガタイの割にずいぶんと気が利くな・・・。

 毛布は2枚あったので1枚をレイにかけてやって、俺もそれにくるまってソファーで仮眠をとることにした。



「ふあ・・・・。」

 肩をゆすられて目を覚ます・・・、見上げると長身の青年が顔をのぞき込んでいた。


「おお・・・、源五郎か・・・、アクセスはうまくいったのかい?」


「はい・・・ばっちりです、レイちゃんも無事でいました。

 ですが・・・、レイちゃんは向こうの世界でも夜だったせいか寝たままでした。

 ですが・・・全員がギルドでデータ保存しましたから、明日の朝になれば目が覚めるでしょう。


 レイちゃんも向こうの世界で冒険の旅に向かうことができますよ・・・。」

 源五郎が笑顔で教えてくれる。


 だが・・・寝たままという事は・・・、肝心のレイが何も覚えていない可能性もあるな・・・、まあその場合は仕方がないな・・・、事実は事実として説明して納得させるしかないか・・・、ううむ・・・寝たままだったという事だけでも、通信で伝わっていないかな・・・夢の中で寝ている自分を見るみたいに・・・。


「では・・・、帰りましょうか・・・?

 車を持ってきましたから、レイちゃんも乗せましょう。」

 借りていた毛布をたたんでソファーの上に重ねて置くと、レイの体を抱き上げて源五郎の後に続いていく・・・。


「じゃあ、お世話になりました・・・。」


「ああ・・・また何かあったら、連絡してくれ・・・。」

 綾瀬と大空兄弟に礼を言って、青空商会ビルを出ていく。


 玄関先には大き目のセダンが停車していた・・・、流石IT企業の代表取締役だ。

 助手席にレイを座らせ、シートベルトをきつめに掛ける。


 後部座席で横に寝かせた方がレイは楽なのだろうが、万一の事故の時に危ないので、助手席に座らせ軽くリクライニングを傾ける程度にしてシートベルトはきつめにする。

 そうして俺は後部座席に乗り込む。


「じゃあ行きますよ・・・。」

 そういいながら源五郎はナビの案内を起動させる・・・、うん?俺の住所が登録済みなのか・・・?

 そういや・・・、何度も家には遊びに来ているものな・・・。


「そういえば・・・、海外出張って言っていたよね?

 俺の家に寄ってからだと、源五郎の自宅へ戻るのは大変なんじゃないのか?

 飛行機の時刻には余裕があるのかい?」


 海外だと羽田か成田だが・・・、羽田だと俺の家を経由すると少し周りに道になる程度だが、源五郎の自宅は全くの逆方向だ。

 先に源五郎の自宅に戻った方がいいくらいだ。


「朝の便ですが・・・、荷物はまとめてトランクに積んであるので家に戻るつもりはありません。

 空港近くに会社が契約している駐車場があるので、そこに車を置いてそのまま空港から出発しますので、時間的には十分余裕がありますよ。


 少ししか寝ていませんが、飛行機の中で寝ていけば問題ありませんからね。」

 そういえば源五郎は、俺がアクセスしている間はレイの相手をしていて、レイがアクセスしている間は俺と一緒に綾瀬や定男たちから、俺たちの冒険話を聞いていたんだった。


 源五郎がアクセスしていた時間には、俺はすっかり眠りこけていたというのに・・・、申し訳ない。

『ガチャッ・・・バタンッ』始発前の時間で道も混んでいないせいもあり、20分ほどで俺の家に到着した。


「悪かったね・・・、また遊びに来てくれ。」


「はい・・、寄らせていただきます。

 それに、お礼を言うのは僕の方ですよ・・・。」


 団地の棟の前で車から降り、レイを背負ってから源五郎に別れを告げると、意味深な言葉が返ってきた。

 何のことかわからないが・・・、とりあえず手を振っておく。

『ブロロロロロロロ・・・』車が走り去るのを見送ってから、中央の階段を上がっていく。



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