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始まりの村へ

7 始まりの村へ

 草原を延々と歩き続け、ようやく村が見えてきた。

 魔物にはその後も所々で襲われたが全て色違いのゼリー状魔物で、魔法併用の攻撃で仕留めていくことができた。


“ようこそ、始まりの村へ”と書かれたゲートをくぐり村の中へと入っていき、商店街を通り過ぎ、見慣れた大きな建物へと入っていく。


「ようこそ学びの館へ・・・、ここへ冒険者が訪れるのは本当に久しぶりのことです。

 ここでは説明書では書ききれなかった、この世界の事情を説明いたします。

 皆さんが、この村へたどり着くまでに、この星の生命体と接触しましたか?


 皆さんがともに旅してきたメンバーの事ではありませんよ、この星の動物や植物たちとの接触です。

 あるいは、この村の中の入り口付近に商店街がありましたね。

 店に並べられていた、野菜や魚などを手で掴もうとしてみましたか?・・・」

 館の中へ入るなり照明が付き、どこからか声が聞こえてきた・・・。


「ああ・・このゲームの説明なら、俺は以前このゲームをやった経験があって、その時に聞いているから不要だ。

 とりあえず、このゲームキャラの保存だけしてほしい・・・保存が終わったら、すぐに東の森へ戻らなければならないんだ。


 じゃあ・・、いいかい?」

 声がどこからするのか、よくわからないので、きょろきょろと辺りを見回しながら少し大きな声で問いかける。


「ほお・・・説明は不要と・・・、よほど取扱説明書を熟読されたと思われますね・・・感心感心・・・ですが、それだけでは説明しきれなかった・・・。」

 なおも天からの声は説明を続けようとする。


「だから・・・いいんだって・・・ゲームキャラを保存したら、俺は急いで戻らなければならないんだ・・・、

急いでいるの!

 ここに来ればキャラの初期設定は終了ってことでいいよね?


 じゃあ、行くよ!」

 俺は、天からの声の返事を待たずに、部屋を出ていこうとした。


 ゲームが保存されたら俺は目覚めるはずだ・・・、ぐずぐずしているとレイの奴が次に来てしまう。

 娘を一人ぼっちにさせるわけにはいかない、東の森へ戻らなければ・・・。


「お急ぎのようですが、まだあなたのキャラクターが保存されたばかりです。

 まずは一休みいただいて、次のアクセスまで作戦を練っていただくのはいかがでしょうか?

 通常は初期設定保存をした後は、休息をとっていただいております。」

 天の声が突然、冒険の継続をたしなめるようなコメントを始めた。


「そんなわけにはいかない・・・これから娘がやってくるんだ・・・、だから迎えに行かなきゃならない。

 悠長に休んでなんかいられないんだ・・・、だめだといっても俺はいくぞ!」


 誰が話しているのかもわからない、顔も見せない相手のいう事など、はなから聞くつもりなどないわけだ。

 ここで天の声を怒らせると、キャラの保存をしてもらえなくなるかもしれないが、その時は源五郎を先に行かせて、次にレイで俺は最後にもう一度アクセスすればいい・・・まったく構わないわけだ。


「仕方がありませんね・・・安全に楽しくゲームを進行させるための説明を行う必要性があるのですが・・・、本当に説明は不要なのですね・・・?」

 天の声は疑い深そうに、しつこく確認してくる。


「ああ、ああ・・・、まったく問題ないから・・・保存してくれ。

 じゃあな・・・。」

 ぐずぐずしていると間に合わなくなりそうなので、そう言い残して俺は館を出ていき武器屋へ向かった。



『ガァッ』自動でゲーム機の上蓋が開くと同時に、俺も目覚める。


「ふあー・・・やったぞ、アクセス成功だ。

 始まりの村へ行って学びの館に到着した記憶があるという事は、キャラづくりに成功したはずだ。」

 上半身を起こし、源五郎たちを見回しながら笑顔で伝える。


「おおそうですか・・・、強烈な魔物は出現しませんでしたか?」

 すぐに源五郎が確認してくる。


「いや・・・やはりいたよ・・・、巨大なねばねばが・・・。

 初期キャラだから武器も何も装備していなくて、仕方がないから木の枝を拾って斬りつけてみたら、あっさりと折れた・・・。


 もう少し太めの木の枝を拾って、今度は先端を魔物の体に突き刺してやったら何とか折れずに済んだけど、なかなか倒せない。

 それでも相手の攻撃をかわしながら、しつこく突き続けてようやく倒した。


 すると上級魔導書が出現して、その魔法を次からは使うことができて楽になったよ・・・、レベル差が結構あるようだし、魔物も武器を持っていなかったから何とかなったけど、装備というか何か道具がないとやはり不便だよな・・・。」

 頭をかきかき、状況説明をする。


「あれ・・・、武器は装備していかなかったのですか?

 支度金は支給されていたはずですけど・・・。」

 源五郎が、とんでもないことを口にする。


「えっ・・・だって、10年前の時だって、最初は何も装備していないで始まりの村に行ったはずだけど・・・。

 その後、村の中のクエストをこなして金をためて、ようやく薬草なんかと武器を手に入れたんじゃなかったか?」

 ゲームの進行手順を源五郎に確認する。


「そりゃあ・・・初期状態では魔物が出現しないことが分かっていたからで・・・、武器なんか購入してしまうと100Gの支度金をすべて使ってしまうような金額だったから、危険性の少ないクエストを重ねて経験値とGを貯めてから、ようやく装備や道具を購入しましたよ。


 でも・・・今回の場合は初期キャラ出現の場に、魔物が潜んでいることがある程度予想できたわけですから、支度金で武器を購入して装備してから向かうのだとばかり思っていましたけど・・・?」


 さらっと言ってくれる・・・、支度金のことなど思いつきもしなかった。

 確かに100G最初に持っていることは覚えていたけど、初期キャラづくりの時に武器を購入して装備しておくこともできたのか?


「そうだったのか・・・、わざわざ危ない橋を渡ったようだな・・・、レイにはきちんと装備をさせることにしよう・・・、っと・・・レイはどうした?」

 ふと見ると、ゲーム機の周りには綾瀬たちもやってきていたのだがレイの姿が見えない・・、トイレにでも行ったのか?


「いえ、あの・・・寝てしまいました・・・。」

 源五郎が少し言いにくそうに、ショールーム部分に設けられた応接用のソファーを指さす。

 そこには幼い娘が横たわってすやすやと眠っている。


「ありゃりゃ・・・そりゃそうだな・・・、普段ならとっくに寝ている時間だ。

 うーむ・・・最初に行かせてやればよかったのか・・・?

 いや、それじゃあ始まりの村へも辿り着けなかったかもしれないし・・・、うーん、まいったねえ・・・。」


 仕方がない、俺と源五郎と2人だけで行くことになりそうだな・・・、まだ終電にはぎりぎりで間に合いそうだし、だめならタクシーでも・・・源五郎には申し訳ないが、ここらで退席させていただくとするか・・・。


「すごく楽しみにしていたようで・・・僕の説明を目をキラキラ輝かせながら、一生懸命聞いていました。

 どうでしょう・・・眠ってはいますが、このままゲーム機の中に入れては・・・?」

 突然源五郎が、おかしなことを言い始めた。


「いやでも・・それじゃあキャラ設定なんか何もできないし・・・、寝たままだと向こうで活動も何もできないだろ?

 それに終電ぎりぎりの時間だ・・・、明日も学校があるからレイを連れて悪いが俺は帰るよ。」

 そういって、ゲーム機から起き上がる。


「大丈夫ですよ・・・どんな職業を目指したいかとか、キャラ設定なんかも僕は聞いていますから・・・、細かいところはわかりませんが、まあレイちゃんがある程度満足できるくらいの設定はできるはずです。

 それに・・・、眠ったままでも向こうの世界でキャラ作成は行われますよね?」

 源五郎はそういいながら、後ろへ振り向く。


「ああ・・・あまり深い眠りについていると、向こうの世界でも最初は目覚めない可能性はあるが、朝になれば目覚めるはずだ。

 始まりの村に辿り着くことさえできれば、キャラ作成も入力通りに行われる。」

 綾瀬が大きくうなずきながら答える。


「そうですよね・・・?

 どうでしょう、僕は車で来ていますから始発前でも送って行けますよ。

 あんなに楽しみにしていたのですから、レイちゃんも送り込んであげてはいかがでしょうか?」


 源五郎が、レイも一緒に送り込むことを勧める。

 確かに、このまま家へ連れて帰ったら、レイは当分の間不機嫌なままだろう。

 俺が迎えに行く約束をしているわけだから、何とかなるかもしれない・・・だがしかし・・・。


「うーん、しかし、レイが寝ている間に代わりに決めてしまうというのは・・・、それに源五郎も忙しいのだろうから、送ってもらうというのも申し訳ない。」

 やれキャラの髪型が気に食わないだの、いろいろと愚痴をこぼされてもたまらないのだ。


「大丈夫ですって・・・、僕が責任を持ちますから。」

 源五郎は何としても、レイの参加を押し通したい様子だ・・・、俺としてもレイを連れて行ってやりたいという気持ちは同じだ。


 なにせ、ことあるごとに、あのゲーム機での体験を超えるゲームに出会ったことはないと、夫婦でレイに話してきたわけだ。

 だからこそレイには、何とかその雰囲気だけでも味あわせたいと考えて、今日連れてきたわけだからな。


「でも・・、結局は寝ているわけだろ?

 これじゃあ、さわりも味わえないんじゃあないか?」


 なにせレイはすでに熟睡状態なわけだ・・・、いくら寝ているときにデータ通信するとは言っても、起きた状態でゲーム機に横たわるから、向こうの世界でも起きているわけだ。


 寝たままゲーム機に入れられれば寝たままじゃないのか?ましてや今は夜時間だ、朝まで目が覚めないのであれば、レイには向こうの世界にアクセスした記憶はないということだろう。

 それでもいいのか?


「とりあえず向こうの世界へ送り込まれたという事実があるだけでも、レイちゃんの気持ちは違うと思うのですよ、だから・・・。」

 源五郎が、なおも押してくる。


「おお・・・こいつの車で送ってもらうことが嫌なら、俺様たちが乗ってきた車で送ってやってもいい。

 だがまあ会社が倒産して失業中の身の上だからな・・・、軽だが我慢すれば4人乗れるさ。」


 なぜか、定男も源五郎の後押しを始めた。

 ありがたい申し出だが、こいつと一緒の車で帰るくらいなら始発を待つ。


「大丈夫ですよ・・・僕は明日から海外出張なので、朝から空港へ行くだけです。

 ですから、リーダーたちを送ってからでも十分に間に合います。」


 源五郎はそういって深々と頭を下げる。

 もうこうなると断る理由を探すのが面倒になってくる。


「分かった・・・レイも送ってみよう・・・、でもうまくいくかどうかわからんぞ・・・。

 それと、あくまでも子供だから・・・、足手まといになることも・・・。」

 源五郎の目を見ながら告げる。


「大丈夫です、きちんとフォローします。」

 すると源五郎が真顔で答える・・・、ううむ・・・なんか立場が逆になっているような気が・・・。


「じゃあ、レイをゲーム機の中に寝かせよう。」

 応接のソファーに向かい、レイを抱き上げてゲーム機まで運び寝かせる。


「じゃあ、レイちゃんに聞いた通りの設定を入力します。

 お母さんのレイさん同様・・・、攻撃系魔法使いになりたいそうです。

 まあ経験値全部を攻撃系に振っても何ですから、いつものように8割だけで、2割は回復系に回しましょう。


 キャラは・・・女子高校生キャラで、ショートカットで目が大きめで・・・。」

 綾瀬がレイのアンケート結果を入力したデータをゲーム機に送る傍らで、源五郎がゲーム機の横でレイのキャラ設定を次々と入力していく。


 モニターを取り出せることが分かったのは大きな収穫だ。

 だがしかし・・・、本当にレイの望んだキャラなんだろうな?源五郎の好みではないのだろうな?

 そんなことを思っても俺のセンスで設定すれば、後で文句が来るのは必須なので、ここは見守っておく。


「では・・・、設定が終わりました。

 強力な魔物がいるのですから、100Gで購入して炎の杖を装備させておきました。

 呪文を知らなくても炎が出るから、経験値が設定どおり大きければ初期アイテムでも威力はあるでしょう。」


 源五郎がそう言いながら、モニターをゲーム機内に戻す。

 何から何まで・・・、お世話になります。


「では、行ってらっしゃい。」

 ゲーム機の上蓋が閉じ、レイのアクセスが始まる。


「じゃあ時間がありますから、10年前の僕たちの冒険の様子を聞きませんか?

 リーダーがアクセスしているときに、綾瀬さんからレイちゃんと一緒に聞いていて、最初に魔神を倒したところまでは聞けました。」


 ほうそうか・・・昔話をな・・・、そういえば彼らは通信異常の時の向こうの世界の記憶があるといっていたな・・・、その話を聞くことができるのはありがたい・・・源五郎と綾瀬と一緒に応接のソファーに向かう。



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