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アクセス開始・・・と思ったら

4 アクセス開始・・・と思ったら

「うーん、そうか・・・一方通行というわけだね?

 俺と源五郎はいいとしても・・・。」

 ちらりとレイに目をやる。


「いやよ、あたしも絶対一緒に行く・・・。」

 レイは源五郎の腕をつかんで、てこでも動かない構えだ。


「でも・・・向こうへ行ってしまったら、ママにもう会えなくなってしまうんだぞ、それでもいいのかい?」

 こっちのレイは家へ帰れば妻が待っていてくれるわけだが、向こうで発生したレイの分身は、こっちへ帰ってくることはできないわけだからな。


「いいの!ダーリンが一緒だから、さみしくなんかないわ!」

 レイは、絶対引かないつもりのようだ。


「僕も面倒をできるだけ見るようにしますから・・・、一緒に行きましょう。」

 源五郎が自分にすがりつく小さな存在の頭を、いとおしそうに優しくなぜる。


 だがしかし、恐らくレイには向こうの世界での長く孤独な冒険を想像できないだろう・・・、といっても俺だってそんな経験がないわけだが・・・、なにせ俺には実体化してからの冒険の記憶は何も残ってやしないのだから。


 それでも壮絶な冒険をしたのだろうなあというのは、戻ってきた体に最初にアクセスしたときに、なんとなく感じることができた・・・気のせいかもしれんが・・・。


 まあでもいいか・・・ホームシックにかかって本当にどうしようもない時は・・・、そんなときは父親として、妻に成り代わって甘えさせてやればいいのだ、うん、そうしよう。


「分かった、行くだけで戻ってこられないのは承知の上で、ゲーム機を使う許可をお願いする。」

 そういって綾瀬に深々と頭を下げると、源五郎とレイも続いて頭を下げているようだ。


 なにせ、夢の中で助けを求められたなんて突拍子もない話を信じていただいて、こんな夜遅くに準備して待っていてくれたのだ。

 一方通行じゃ気に食わないから行かない・・・、などと言えるはずもない。


「了解・・・では一人ずつ順に装置に入って・・・、一度は眠っていただかなければならないので・・・、結構時間がかかるよ。

 どうする?お子様から最初に行くかい?


 それと・・・これが10年前の時のシメンズメンバーのアンケート記録だが・・・、こちらはパソコンで入力したデータをゲーム機に組み込むわけだけど、すぐにアクセスできるようパソコンには既に入力済みだ。


 だが・・・レイのデータが・・・、恐らく変更になるよね?

 そうなると入力し直しになるな・・・。」

 綾瀬が、数枚の紙片を俺たちに見せながら説明してくれる。


 ゲーム機の申し込み時に書き込んだ、自己診断というか性格診断用のアンケート用紙だ。

 俺の場合は高所恐怖症なのに木登りが得意だの、金づちの癖に水泳が得意だのと実際とはかけ離れた好き勝手なことを記入しまくったんだったな・・・探してくれていてよかった・・・、あれと同じことをもう一度書けと言われたら、困ってしまうところだった。


「ああ・・・そうだね・・・、レイの分は書き直した方がよさそうだね・・・娘とはいえ別人だからね。」

 レイのために新しいアンケート用紙をいただく。


「あの・・・僕も以前は高いところが苦手だったのですが、ボルダリングなどで鍛え上げて今では高所恐怖症を克服しています。

 そのため以前とはアンケート記載が変わっていますので・・・。」

 源五郎が嬉しそうにしながら以前のアンケート用紙を受け取り、それを訂正すると言い出した。


「じゃあ、まず俺が一番手としてアクセスするよ。

 その間に2人はアンケートを埋めて、それを入力してもらっておけばいい。

 源五郎・・・、悪いがレイの分も面倒見てやってくれ・・・。」


 俺はあの時のままでもう十分なので、訂正する必要性を感じない。

 そのまま、アクセスだ・・・。


「りょうかい・・・、ではサグルが一番だね・・・。

 ではゲーム機に入って、キャラ設定から始めてくれ。


 一度きりのアクセスになるので、向こうの世界で最初に行う動作くらいは、入力しておいた方がいいかもしれないね・・・なんとか始まりの村までいかないと記録できないから、ゲームキャラが消滅してしまうからね。」


 綾瀬がショールーム奥の細長の繭のようなゲーム装置の電源を入れる。

 そうしてノートパソコンのケーブルを繋げて、データ通信を始めた。


「いいかい・・・これがあのゲーム機の取扱説明書だ・・・、まずはゲーム機に横たわるんだけど、すぐには寝ちゃいけない・・・、自分に合ったキャラを選択するんだ・・・。」

 源五郎が取説片手に、レイにゲームの設定方法を説明してくれている。


 奴は理論派だし説明がうまいから、レイのような小学校低学年でもわかるような説明をしてくれることだろう。

 まあ、設定がうまくいかなかったらいかなかったで、それでも俺と源五郎でサポートして、経験値を積ませてやっていけば問題ない。


 初期設定のうまさでゲームに入ってからのやりやすさは変わるだろうが、行きつくところはみんな一緒なので、問題はないわけだ。

『ガーッ・・・』ゲーム機の上部がガバッと大きく開く・・・、うーむ・・・久しぶりだ・・・。


「では、サグル・・・、始めてくれ。」

 綾瀬に促されて、ゲーム機の中で横になる。


 さて、ここからが一仕事だ・・・、なにせゲームキャラの外観を選択しなければならない。

 一度作った外観は、気に食わなければあとから再設定できるのだが、今回は一度しかアクセスできないため、外観の変更はきかないわけだ・・・。


 まあ基本設定とほとんど変わらない状態のままのキャラで後悔しまくっていた割には、寝る前にいちいち設定を修正することが面倒なこともあって、結局そのまま過ごしていたのだから、キャラの外観がどうのという性格ではないのだが、やはり俺の性格から行くと一度作ったキャラを途中変更することをやりそうもないため、今回はそれなりのキャラを作り上げようと、帰りの電車でいろいろと試行錯誤していたのだ。


 さて・・・まずは体形など外観を選択・・・ふうむ・・・、男キャラだけでも身長や体重、筋肉質か細身に太めなど・・・それだけでも数十種類はあるな・・・更に髪型まで含めると・・・、さてどうするか・・・?

 ここからさらに顔の形に目や鼻、口に眉毛なども選択していかなければならないわけだ。


 ええい面倒だ・・・、ここはやはり前回の履歴データを出しておいて、そこから自分なりの改善を加えていこう。

 人のをパクるみたいで申し訳ないが、俺なりのアレンジを加えるつもりだから、許してもらうことにしよう。


 えーと・・・入力データ参照とすると・・・、前回の時は俺が初めての使用者だったから、基本設定のみのダミーデータが出てきたんだったよな・・・、どれどれ・・・???


 あれ?なんじゃこれ・・・、最高の農民、経験値99999999だって?一体どういうことだ?

 すぐにゲーム機の扉開ボタンを押す。『ガーッ』


「あれ?どうした?まだ眠りについていないよね?」

 ゲーム機わきでモニターしていた綾瀬が、驚いた表情を見せる。


「いやあ・・・ちょっとおかしなことが・・・、ゲームへの登録だから経験値は00000001のはずなのに、全て9の数値が入っている。

 これはどういった事だい?」


 このゲーム機を最後に使い終えた人が、ここまでのレベルに達していたという事だろうか・・・?

 まさかそんなことはあり得ない・・・なにせ再開後2週間だったわけだからな・・・、先行していたはずの俺のレベルはRくらいで、経験値だって恐らく1万行っていたかどうかだったはずだ。


 それだってツバサが加入してくれて、ずいぶんと楽にクエストをこなせるようになったことが大きかったわけだから、その様なフォローなしで俺たち以上の経験値を獲得するなんてことはちょっと考えられない。

 それが・・・、その1万倍なんてどう考えてもおかしい。


「ええっ・・・そんなはずは・・・。」

 綾瀬が俺の体越しに、ゲーム機のモニター画面を確認しようと身をかがめる。


「まあ、どうぞ中に入った方が見やすいだろうから・・・。」

 すかさず俺はゲーム機の中から出て、綾瀬に譲る。


「あれ?本当だな・・・でもこれって・・・、冒険者の登録画面ではないようだね。

 一般市民用・・・、すなわちゲームのわき役キャラ設定用の画面だな・・・。


 一応、それなりのレベルを与えておこうという事で・・・、セカンドステージからは魔物たちが市民に襲い掛かる場面も出てくるため、少しは戦えるキャラを作り出すために、経験値もあらかじめ設定できるようにはなっていたわけなんだが・・・。


 実際のところ、冒険者であろうが市民であろうが光の民でも魔物でも皆経験値レベルで強さが決まる。

 だから・・・この数値だとゲーム史上最強だろうな・・・、ゲームを簡単には攻略させないために、魔神の強さレベルは流動的になっていて、勇者のレベルプラス4の強さで目覚めるが、彼らは市民であり勇者ではないから、魔神の強さレベルに干渉しないからな。


 こんなのが何人も作り出されていたとしたら、冒険者なんか不要になっちまうな。」

 綾瀬が、ため息をつきながら教えてくれる。

 ほう・・・ラスボスの魔人の強さは流動的・・・と・・・、覚えておこう。


「でも・・・、どうやってこんな経験値を?

 どれだけの魔物たちと戦えば、これだけ獲得できるのだい?」

 短期間でここまで経験値を伸ばすための方法を知りたい。


「いやあ・・・、これは裏コマンドだろう・・・。」


『裏コマンド?』

 この言葉には俺だけではなく、少し離れていたところで取り扱いの説明をしている源五郎やレイたちも、同じく反応した。


「ああ・・・ゲームの出来を評価するために、最初は全ての魔物たちと戦って見なければならないわけだが、普通の冒険者よろしくレベルをあげながら進んで行っては時間がかかりすぎてバグ取りも進まない。

 そのため最初から強いキャラを作り上げておいて、それでゲームを最初から最後まで進めてみるわけだ。


 そうして一応の流れを評価してから個々のサブボスの強さレベルが、それぞれのダンジョンに達する平均冒険者レベルに対して、極端に高かったり低かったりしていないかなど・・・、細かく評価していくわけだ。

 そのために、初期状態の経験値を設定できるようになっているわけだね。


 このレベルまで達してしまうと流石の魔神ですらこのレベルプラス4という事はなく、同レベルとして目覚めることになる。


 それでもこれ以上経験値が増えないかというと・・・、実は数値が00000001に戻ってそこから増えていくみたいだな・・・、あたかも9桁目に数字の1が入っているかのような挙動を示すようだね。

 それでもレベルとしてはそれ以上、上がっていくことはない。


 うーん・・・それにしてもどうしてこのようなことを・・・、このゲーム機は販売用であって評価用ではなかったはずなんだが・・・、気になるのでちょっと待っていてくれ。」

 そう言い残して綾瀬は、ショールーム奥へと消えていった。


 ふうむ・・・すでに最高レベルにまで達していたということなのか・・・、しかも一般市民・・・というか農民レベルなのに・・、一体どうしたいわけだ?

 一度に何十ヘクタールもクワひとつで耕して見せるとかか・・・?


「ちょっと待っていてくれ・・・俺もゲームの中身の細かな部分となるとあまり詳しくはないから、プログラマーを呼ぼうとしたんだが・・・、やはり10年も経っちまうとなかなか捕まらない・・、なにせもう夜も遅いしね。


 仕方がないので直接のプログラマーではないが、基本設定などをしていたやつを呼んでみた。

 すぐに来るので待っていてくれ。」

 携帯電話をポケットにしまい込みながら、綾瀬が戻ってきた。


 仕方がない・・・何か事情があるのであれば、分かってからアクセスした方がいいだろう。

 なにせ10年も経っていてその間ゲームは中断されているのだから、向こうの世界がどうなっているのか、おそらく誰もわからないのだ・・・。


 少しくらいは待つのも仕方がない・・・、一度きりのアクセスなら慎重に行う必要性がある。

 それはそうとちょっと気になることが・・・。


「あの・・さっき少し気になることを言っていたよね・・・?

 アンケート用紙の書き直しの話になってしまって確認しそびれたんだが・・・、一度は眠らなければならないって・・・、それって一人何時間も寝て目覚めなければならないという事なのかい?


 それだと、今晩一晩だけでも終わらないんじゃあ・・・、それに始まりの村まで到達しなければならないって・・・、そんな条件があるのかい?」

 アンケート修正に話が飛んでしまったのでうやむやになってしまったが、とりあえず中断のうちに聞いておこう。


「ああ・・・それなら僕たちも経験しましたよ・・・、10年前の発売前の説明会のデモで、アクセスして始まりの村まで一緒に冒険したではないですか。


 どうやらキャラを向こうの世界に作るには、あのような作業が必要なようですよ・・・僕らはデモの時にキャラを作っていたから、ゲーム機が来た時にはすでに分身が存在していたわけです。

 あとはそれを自分好みにカスタマイズしただけで・・・。」

 綾瀬より先にゲンゴロウが説明してくれる。


「そうなのかい?だったらあのゲーム機はデモの時に俺が使ったゲーム機という事に・・・。」

 振り返ると、綾瀬がこっくりと大きくうなずいていた。


「高額なゲーム機をきちんと使いこなすことができるかの、見極めも兼ねたデモだったようだね。

 キャラも作れない・・・つまり始まりの村まで到達できない冒険者は、ゲームの契約ができなかったわけだ。」


 ありゃりゃ・・・そうだったのか・・・あれをもう一度ね・・・、だったら一度のアクセスに2時間はかかるはずだ・・・、3人いるわけだから、そうなると・・・ううむ・・・・。


「明日っていうわけには、もうならないよね・・・?」

 参った・・・30分くらいで設定を終えて帰れば、11時にはレイをベッドに追いやることができると考えていたのに・・・。


「うーん・・・申し訳ありません・・・、僕は明日は海外へ出張なもので・・・。

 恐らく明け方になってしまうでしょうから、リーダーの家まで僕の車で送っていきますから、何とか今晩のアクセスを・・・。」

 源五郎に頭を下げられてしまうと、断れないな・・・。



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