SSパッケージ 7
刃が振り下ろされた。
砂利道のように歪な刃には、人を切り裂くだけの力はない。
ましてや、魔力を通わせるだけの、術具としての輝きもない。
――すなわち。
『神の守護者』は、その刃からの一撃から、主を守ることが出来なかった。
あらゆる魔術を拒絶するだけのポテンシャルを秘めたその力は、魔力に反応することによって初めて意味を成す。
――魔力を内包している。
この一点で、核弾頭でさえも和川奈月にとっては痛覚を刺激する以上の物にはならない。
だが、そうでないとしたら。
刃毀れの酷い刀であったとしても、それが切れ味のないものであったとしても、躰を抉る凶器足り得、かつ魔力を通さない単なる『武具』であった場合、それは和川にとって致命傷を与えるだけの凶器となるのではないか。
その刃は、魔力を通さなかった。
『風裂』、『波断』は、武具ではあれど術具ではない。
肉を斬るだけの切れ味がなくとも、鋸のように抉ることは出来る。
和川の左肩から、小さな肉が飛散した。
血飛沫が舞う。
和川は叫んだ。
痛みしか感じない時にはない、躰に傷が付いているという感覚。死が目視出来るかのような血肉の飛散。
「馬鹿め。鈍と油断するからだ」
作間は嗤って、その隙を逃亡の好機とみてか、倉田を追うようにその場からの離脱を図っていた。
不知火と出海が作間を捕らえるべく空き地に入ったが、そこにまたしても邪魔が入る。
人と同じだけの大きさを持った球体が、周囲に風船のように漂い始めたのだ。間違いない、大嶋愛生の魔術、〈砕球〉だ。
「こちらにはこちらの都合がありますので」
どこからともなく聞こえた大嶋の声に、出海は歯噛みした。その歩を止めるほかにないことを悔やんでいるのだろう。
不知火は咄嗟に、自身と出海に防御魔術を張った。
「衝撃に備えるんだ」
そう言うと、小さく火を灯した赤石を撒き、寒空を泳ぐ球体にその炎をぶつけた。
その瞬間、起爆装置に触れたように爆発が飛散する。爆音と熱風が二人を包み、冷えた空気を引き裂くように連続して爆ぜた。
たたきつけるような音が鼓膜を痛めつける中、その余韻の中を、表情一つ変わらない、ともすれば感情さえもないのではというような双眸で、大嶋愛生は立っていた。
大嶋さらにブロックを投げつけ、
『残虐、故に輝かしくあれ――〈輝球〉』
その一つ一つを美しい黄色い球体へと変貌させた。それは不知火や出海にとってはさらなる障害となって先を阻む。
「それでは、さようなら」
大嶋は、女性にしては高い背で相沢甲次を肩で支えていた。重たそうな気配は欠片もない。綿でも抱えているくらいに涼しい顔だ。
ポケットから一つのブロックを取り出し、大嶋は呟く。
『得てしてカラスは蔓延るものなり――〈闇夜に烏、雪に鷺〉』
先程倉田が使用した目眩ましの術を、大嶋もさも当たり前のように使用した。その姿は、暗闇に溶けるように消えていく。
舌打ちをしながら、不知火は幾つもの球体を炎で散らす。障害物の破壊を急ぎ、
「和川を頼めるか。僕は探索魔術で追ってみる」
冷静に努めながら焦りを滲ませる不知火に、出海はゆっくりとかぶりを振る。
「いいえ。もう、追えません。彼らは、もう鉄堂光泉の工房に入っていくでしょう」
「……どういうことだ」
「説明は後で。まずは、和川さんの治療を。もう、焦っても仕方がないですから」
陰を落とす出海の表情に何があるのかも知れず、不知火は反論を控えて、和川の元に駆け寄った。
大嶋愛生……一体何者なんでしょうか。
次回もよろしくお願いします!




