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【第一分隊】2

 第一分隊こと和川奈月と不知火オーディン大和は、駅から二キロも離れていないような近場で喫茶店に入った。洒落た店内はまさしく大人の雰囲気といった感じで、不知火はともかく、和川には身の置き場がない。目の前の金髪男の怪しい恰好が主な原因ではあるが、仕切りがあるにせよ、喫茶店などという学生の身には余る空気に、店員からの好奇の目が痛い。……実際、そこまで見られているという訳でもないのだが。


「さて、せめて手掛かりくらいは掴まないとどうにもならない。少し考えてみようか」


「か、考えるって何を?」そわそわしつつ和川は返した。


「鉄堂光泉がどこにいるかだよ。魔術師が探しても探しても見つからない隠れ家ってやつが一体どこにあるのか、ここで考えてみようじゃないか。ピンポイントで分からなくたっていいんだ。でも、十ヶ所くらいには絞りたいね。僕らはじっくり考えにふけ、次のターンで虱潰し、そして、今回の目的の一つを達成したいかな」


「それ考えて分かるようなことか?」


「闇雲よりは幾分かマシさ」


 不知火は腰元から赤石を二粒出した。魔術媒体――つまりは魔術を使う為のアイテム。


「ここで魔術使うのか?」


「ああ。いざという時に動けるよう、準備はしておかないと」


「準備?」


「気にするな。まずは鉄堂光泉だ。さ、どこから推考しようか。考える所は、まあ、色々あるけれど」


 そう言うと、不知火は目を閉じて黙ってしまう。


 和川も頭の中をこねくり回そうとするが、そもそも手掛かりがないから困っていたのであって、なんの取っ掛かりもなければ考えることも出来ない。どうして不知火が「考えればどうにかなる」と思ったのかすら理解できていないのだから。


 突然、不知火の懐から電子音が鳴った。和川は目を見開く。


「おいおいおい、珍しいな大和が携帯の電源入れてるなんて」


「今日はなんとなく、こうやって連絡してくると思ったんだ。――どうやら、また彼女は迷ったらしいね」


「あー、まーた和奏か」


 和川は額を片手で覆う。


「何を今さら。彼女が迷子になることくらい想定済みだっただろう、頭を抱えることじゃない」


「だったら和奏の方向音痴の酷さを知らない出海と組ませるなよ」


 不知火は慣れない手つきでメールを送り、二つ折りの旧型携帯端末を懐にしまう。


「いいや、だってその方が動きやすいだろう?」


 あっけらかんとした不知火の表情に、和川は、


「こっわ! 他人のことを考えねえとかこっわ! 自分が和奏と行動するのが面倒だからってそれを出海に押し付けたんだな。依頼主のことはどうでもいいってか」


「そうは言ってないだろう。出海夕夏という魔術師が自由にやりたいことをやれるよう、つまり動きやすいよう、一人で行かせようとしたんじゃないか。番場さんの手前、班分けをすること自体は致し方なかったしね」


「出海には単独行動の方が向いてると?」


「どうだろうね。今日に関しては、その方がいいかなと思っただけだよ」


「……ワケわかんねぇ」和川は表情を小さく歪めた。


 不知火のこういうところが、和川はいけすかない。


 和川はいつも、不知火の言っていることが理解できない。不知火はそれを分かった上で、それとなくしか伝えてこない。


 和川はそれをよく思っていないし、不知火はそうするしかないからそうしている。


 不知火が腹積りを全て明言してしまえば、和川は直情的に動くだろう。それでは困るのだ。この世界において、真っ直ぐすぎるというのは命取りなのだから。


 不知火は細く息を吐く。


「じゃあ、ヒントをやろう」


 和川の不貞腐れた顔に、不知火が折れる。


「いいかい。どんな物事もそうだけれど、全てを額面通りに受け取ってはいけない。常に裏を見る癖をつけておくことだ。そして、一つの謎に一つの方向からアプローチするのも、現実ではやってはいけない。もちろん視点がばらついては何も見えはしないけどね」


 またも、迂遠な言い回しだった。少なくとも和川はそう受け取った。


「全っ然分かんねえよ」吐き捨てるように和川は言う。


「前にも言ったと思うけど、君はそれでいいんだよ。今のままの方が、君は君らしく振舞えるだろう? 和川奈月という男が変に知識をつけたら、さすがに手に負えなくなるしね」


「お前は俺の飼い主か」


「そういう気分になる日もあるというだけだよ。直情的な奴はともすると傍若無人になってしまうからね。程程にしてもらうには、手綱はきっちり握っておかないといけないんだ……。さあ、そろそろ本題に戻らないか? 鉄堂光泉の居場所について推考する為にここに来たんだから」


 和川はむすっとしたまま、「おう」と言い、首を縦に振った。


「いらっしゃい」と店員が机の横に立つ。「すみません遅くなりまして。ご注文はお決まりですか?」


 不知火はメニューをチラッとだけ見て、「ブレンドを二つ」と言うと、「ちょい待ち」と、和川が不知火を止めた。


「俺ケーキセットがいい」


「……は?」


「頼んでいいか?」やたら笑顔がきらきらしていた。


「待て、確かに払いは持つと言ったが、それはあくまでコーヒー一杯を想定したものであってケーキまでどうこうというのは話がちがっ――」


「ケチなこと言うなよ大和ぉ、前ゼリーの飲み物奢ったじゃねえか。それに比べりゃ安いもんだろ?」


「ぐっ……」不知火は言い返せない。


「んじゃ決まりな! すいません、一つはケーキセットで」


 すると、


「いいや、待ってくれ」不知火が目を閉じながら制止する。


「なんだよ、歳上のくせしてケチ臭いこと言うなよ」


「ケーキセット……二つだ」


「お前もかよ!」


「目の前で君一人に食べられるのは気分がよくない」


「普段甘いものなんて食わないくせに!」


「うるさい。それは君もだろう。僕は食べたいものは食べる主義というだけだ」


「性格わるっ!」


「どこがだ!」


 店員が小さく笑いながら「かしこまりました、お二つですね」と言った。


 不知火は、「申し訳ありません、騒がしくしてしまって」と謝ったが、店主は、「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」と微笑み、キッチンへと向かって行った。


 クリスマスイヴの前日の祝日。夕方も過ぎ。さぞ賑わっているだろうと思っていたが、さすがに皆自宅でパーティータイムだろうか、意外と店内は閑散としていた。気を使うべき客はほぼいないが、空気を壊すのは不服だ。


 不知火は息を吐き、


「静かな雰囲気のお店なんだし、あまり長話も良くないかな」


「いいだろ別に」


「聞かれていい話ならそれでもいいが、裏の話はさすがに気を使うよ」


 不知火は赤石をさらに取り出した。


「僕ら二人の会話が漏れないよう、この半個室に結界を作るよ。結界内なら、大声を出しても問題ない」


 そして手際良く結界を張り、二人の間で、闇の世界が繰り広げられる。


次回もよろしくお願いします!

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