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後日譚

 十二月二十三日。


 つまりは、事件終結の翌日。俺たちが過ごす日常は何ら普段と変わりないものになった。


 クリスマス間近の国民の祝日に、多くの若者はデートやらクリスマスパーティやらでお楽しみの様子だが、俺たちはと言うと、相も変わらず大魔術廃絶部に屯して、くだらない時間を過ごしていた。


「そういえば、和川くんは恋人とかいないんですか」和奏がそんなことを訊いてくる。


「お前こそどうなんだよ、彼氏とか」


「いません。いないからここにいるんです」


 なるほど。じゃあわざわざ訊かなくても答え出てるよね?


「大和は? お前クール気取ってるからモテんじゃないの」


「気取ってるとは嫌な言い方だね」


「で、どうなの」


「魔術が恋人だ」


「うわ、気持ち悪」ガチで気持ち悪かった。


「僕はいいんだよ。自分の色恋には無頓着というか、興味がない」


「おお、最近の若者ですね不知火先輩」


「正直、色恋に騒いでいる人間を見るとなんて幼稚なんだと馬鹿にしたくなるね。結局は、最後まで一緒にいてくれる一人と出会えれば良い訳で、そのプロセスに何故皆がこだわるのかが分からない。クリスマスはそもそもそういうイベントではない筈だし、なんというか、イベントごとにやれ恋人がどうしただのと騒ぐ人間を少々見下している」


 ひねくれてんなぁこの金髪。


「それより、聞いたかい。松来(まつき)さんからの報告」


「ん? 何それ」


「和川くんそれくらいはチェックしておきましょうよ」


「リオウ=チェルノボグが雇っていたとされる魔術師は、本人の証言も合わせて、ざっと十五人。皆、監獄に一時収監。処遇は追って……と、色々事後処理をしてくれている松来さんが、わざわざ僕らの為に報告をくれたんじゃないか」


「え、あいつらの仲間そんなにいたの?」


「仲間、というよりは雇われただけの使いっぱしりだけどね。確か、事件中に対処出来たのは八人……だったかな。事件後に逃亡を謀った残りの魔術師は、防衛会議が終わって帰って来た小木曽(おぎそ)さんが怒り狂って、昨日の内に捜し出して全員捕まえてしまったらしい。笹見(ささみ)も無理矢理連れ出されていたよ。あれには少し同情したね」


 笹見は小木曽さんには逆らえないのだ。怖いからね、あの人。


「リオウ……あいつはどうなるんだろうな」


「死刑かな」


 さらっと言ってくれるぜこの金髪。


「他国の魔術結社ならそうだろう。死刑制度のない国でも魔術師は例外だったりもするしね。戦争になったらどんな国でも敵軍人を殺すだろう。そういう感覚さ。まあ、今回のケースは未遂だから、情状酌量の余地はなくとも、一生塀の中で拷問地獄、の可能性もあるかな」


「ざ、残酷ですね」


「そういう世界ってことさ、僕らの世界は」


「……だろうな」


 言われなくたって、そんなことくらい、俺たちはよく知っている。


 だって、そういう世界だからこそ、俺たちはここに集っているのだから。


「なあ、大和」


 闇である俺たちは、闇に呼び寄せられ、闇に飛び込み、闇に生きることを選んだ。


「なんだい」


 でも、だからと言って――


「リオウ、助けてもいいか?」


 そこらの闇と一緒になる気はない。


「わ、和川くん!?」


「はぁ……ま、どうせ君はそう言うんだろうとは思っていたけどね」


「まずいですよ和川くん。確かに和川くんは今回の事件の功労者ですけど、うちらの一存でテロリストをどうこうしようなんて無理ですって」


「大丈夫。今すぐ出してくれってんじゃないんだ。ちょっと情状酌量を求めるだけ」


「だからそれが難しいと……」


「まあ涼風、和川の好きなようにやらせてみようじゃないか。どうせ徒労に終わる」


「やってみなきゃ分かんねえだろ。あんだけのことしたってのに、なんの償いもなしに簡単に死なせてやるかってことだ」


「おっと、拷問宣言かい?」


「馬鹿。反省と更生のチャンスをやろうってこと」


「確信犯は厄介だよ」


「だからって諦めるかっての」


 俺は、俺たちは、闇のルールになんでもかんでも従うつもりは毛頭ない。


 抗ってみせる。逆らってやる。無理だと言ってたんじゃ何も出来ず何も変わらず終わってしまうんだ。


 無理と言われようがやる。駄目で元々。


 俺たち、日本魔術協会中部支部、大魔術廃絶部は、諦めの悪さこそ真骨頂なのだ。


「よし、とりあえず中部支部に行って、お偉いさんに、会えるようアポ取るか!」


嘉多蔵惟親(かたくらこれちか)さんなんかいいんじゃないか。貸しはあるだろう」


「ゲスいですね先輩」


「使えるものは使う。上手く世を渡るには、そんな力が必要な時もあるんだよ涼風」


「お、覚えておきます……」


 と、三人の心が一つになった(?)その時。


 廃絶部に備え付けの通信札が反応を示す。


『和川くん不知火くん涼風さん聞こえますかー、松来ですけど』


「「「はい?」」」


『事件翌日に、そしてクリスマス直前になんですが、お仕事です。至急向かってもらいたい所が――』


 無下に出来ないと分かっているのか、足下をみるかのような言い方で松来さんは俺たちにこう告げた。


『じゃ、お願いします』


 断る権利はなさそうだ。


「さ、出鼻を挫かれたよ和川奈月」


「どうしますか和川くん」


 むむむ。これは困った。


 でもまぁ、別に悩むことでもあるまい。


「片方選ぶってのは柄じゃねえ。今回それがよーく分かった!」


 平和を求める為に誰かの笑顔を犠牲にする――いいや、そうじゃない道だって、絶対にないって訳じゃない。


 駄目でもともと。二兎追ってやろうじゃないか。


 いつだってそうやって生きて来たし、これからも、俺は、和川奈月は、それを曲げるつもりはないのだ。


連載開始から九ヶ月ほど経ったのでしょうか。長い間お付き合い頂き、本当にありがとうございました。ようやく第一部完。週一更新とはいえ、なかなか大変でした。


ですが、まだまだこの作品は続きます!


少しだけ時間を頂いて、第二部を始めたいと考えています。七月中の更新を予定していますので、その際には是非、よろしくお願い致します。


次章は、国内勢力に不穏な動きが……お楽しみに!

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