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神の魔術師~Fall MOON and Golden FLAME~  作者: 壱ノ瀬和実
掟破り

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象るもの 5

 夜の月は悪魔のように妖しく佇み、闇に浮かぶ白い闇もまた、畏れを抱かせる程に美しく輝いていた。


 リオウ=チェルノボグは、全身からスプリンクラーのように撒き散らす殺気を自ら抑え込み、静かな口調で二人の若き魔術師に語りだす。


「目的は何か。金髪は、そう訊いたな」


 視線までもらうが、不知火オーディン大和は答えなかった。が、別にリオウも答えを求めていた訳ではないので構わなかった。


「そうだな、どこから話すか……貴様らが今回の件に関わることになったきっかけ、つまり、嘉多蔵亜里沙の拉致から説明した方が良いか?」


 その言葉に思わず反応したのは和川だったが、不知火が手で制止し、リオウは嗤いながら言葉を継ぐ。


 和川や不知火、日本魔術協会中部支部の魔術師が事件に触れた最初の出来事。嘉多蔵亜里沙誘拐事件についてだった。


「俺がサミュエルとかいうのに拉致を依頼したのには、一つの目的があった。魔術鉱石の配置と時間稼ぎが主ではあったがな。拉致に関してサミュエルには、確か『中部支部管轄内の理事の孫をさらえ』としか伝えなかったが、中部支部にいる理事の孫など嘉多蔵惟親の孫だけ。そして、魔術師未満の下っ端たった二人の護衛だけで楽しげにピクニックを予定しているというじゃないか。拉致するのにこれほど容易なことがあるか? あんな貴重な人材を放って、熟々平和ボケしている国だと呆れたものだよ」


 なんの結論も出さないまま、リオウは話題を変える。


「次。協会の魔術師を次々に襲う襲撃者がいた筈だ、しかも各地に。だがその場所は限定的だった。違うか? もしも魔術師があちこちで暴れ回るなら、もっと広範囲に、なんなら大きな管轄を持つ中部支部全体で魔術師を暴れさせることも出来た筈なのに『滝公園』や『中部港』など、極一部の地域でしか魔術師と遭遇していない。これも、言わば嘉多蔵亜里沙の拉致と理由としては同じ」


 違う話題の中に急に現れる亜里沙の名前に和川も不知火も途惑うが、それをわざわざ気に留めるリオウではない。


「そして気になるだろう、魔術鉱石。まああれは、当然大きな魔術を使う為の儀式な訳だが、それについては置いておくとして、何故五ヶ所にあるのか、は、これも置いておくか。

 大切なのは、魔術鉱石を扱い魔術を発動させるには莫大な魔力が必要になるということ。それくらいは分かるだろう。ではその魔力をどこから調達するか、それが鍵になってくる。俺一人で用意出来る分は、中部支部の近くのビルにある巨大魔術鉱石を魔力貯蔵庫としても機能してもらうことで数日分を貯め込んでおけるが、それでもやはりじゃじゃ馬を使うのは簡単じゃない。せめて数人分を一気に流し込まなければ、発動すらしなくなる」


 魔術に関して無知に近い和川は、言葉を追うのに必死だった。が、ここまで言って、察したのは不知火オーディン大和だった。


「なるほど」


 そう呟いたのだ。


「分かったか? 金髪」


「金髪呼ばわりは癪だが、つまり君は、魔力が足りない所に自ら魔術師を派遣し、そこに中部支部の魔術師を誘い込むことで魔術を使わせ、溢れだした分を全て利用し、不足を補おうとした訳か」


「ほう、これだけでよく分かったな……ご名答だ。非の打ちどころのない答えだな」


 溢れだす魔力を利用するなんてことが可能なのかどうかは、不知火にも分からなかった。そもそもが縁のない魔術鉱石のこと。だが、それでも推測に難くない。常識で測れる領域は既に超えているなら、その外で想像してしまえばいい。


 魔力が足りないなら補う。誰から補う? 現地の魔術師、つまり、日本魔術協会の魔術師から。


 そこに、和川奈月が口を挟む。


「ちょっと待て。その、魔力を集めたかったのなら、どうして亜里沙ちゃんをさらう必要があるんだ。俺達を誘い出すだけなら、さらわなくたって、サミュエル=ジョーンズの存在だけで十分だっただろうが!」


「ふん、直情的な馬鹿は嫌いだが、せっかくだ、答えてやろう。さっき言ったよな。貴重な存在を放って平和ボケも甚だしいと。それは、嘉多蔵亜里沙の秘めた力に関係する訳だ。調べてみれば両親共に魔術師というじゃないか。確か母親は引退し医者になっていたんだったか。その母親というのが特殊な力の持ち主だった。大量の魔力を内包し、それを実に簡単に他人に移譲することの出来る特殊で稀有な力。今回の作戦にこれほど適した能力はない。だが問題があった。その母親を利用しようにも、今日という日に限ってその母親は中部支部圏内から出てしまっているというじゃないか。何故かは、お前達にも分かるだろう?」


 何故か。


 二人は訊かれるまでもないと思いながら、一日を振り返る。


 様々なことが起こる中で、一つ、相当に苦しめられたことがある。


 今日、日付が変わっているので、正確には昨日から今日にかけて。和川や不知火が所属する日本魔術協会では重要な会議が開かれており、そのせいで中部支部の人員は減り、さらには通信札を除く通信機器の一切の使用を禁止されているおかげで、本部の力を借りることも出来なかった。敵、つまり目の前のリオウ=チェルノボグはこの日を狙って今回のテロ行為を行ったと不知火らは推測したのだ。


 そして嘉多蔵亜里沙の母が元魔術師であるということから、可能性はもうこれしかない。


「嘉多蔵亜里沙ちゃんの母も、防衛会議に出向いていた、ということだな」


 ――防衛会議。


 全国の支部から多くの魔術師が中枢である東京の日本魔術協会本部に集まり、日本を守るべくあらゆる問題を話し合う、年に一度の大イベントだ。中部支部からも多くの魔術師が出張しており、人員が不足していた。


「ご名答。防衛と冠していながら、各地方の防衛力は目に見えて落ちる本末転倒会議だ。おかげで動きやすかったよ。この日を選んだ甲斐はあった。だが、動きやすさを選んだ結果、そのせいで魔力の宝庫を諦めるのは癪じゃないか。ならばと目をつけたのが、その実子ということだ」


 特殊な力を有していた嘉多蔵亜里沙の母のことを何故リオウ=チェルノボグが知っているかはさて置いて、その力がもし、母子の間で引き継がれていたならば……そう考えたのがリオウだった。


「今回の作戦を準備する中で、色々と調べさせて貰った。おかしいと思うことがいくつもあったからだ。何故協会理事の孫が、協会のある東京に住んでいないのか。父は単身で東京にいるのに何故母子だけは田舎に暮らしている? 地元でも何でもないこの中部支部圏内にだ。俺は、その特殊な能力に起因していると推測した。まあ願望有りきだったが。どうせ子供一人さらうだけならさほど労力もかからん。嘉多蔵亜里沙に特殊な能力があるかどうかは賭けでもいい。やらないよりはやった方がマシだ。能力があればラッキー、なくても、子供をさらえば確実に魔術師は釣れる、現にお前達は餌にかかった」


 リオウの言葉をそのまま受け取れば、その意味はこうだ。


 片手間に、一応、ついでに、一人の少女をさらった、と。


 肩を上下に揺らしながら、似合わない沈黙で話を聞くだけの和川が激昂するのに、リオウの言葉は十分すぎた。だが、それを制するように不知火は和川の服を掴んだ。まだ待てと和川に伝える。リオウの言葉に、まだ騒動の核心はないのだ。


 リオウ=チェルノボグは和川と不知火の様子を小さく嗤い、天を仰ぐ。和川たちには、どうにも自分に酔っているようにしか見えないが、崇高を気取ったその思想にだろうか、恍惚の表情だった。


「そして、運は俺に味方した」


 その一言は狂気と禍禍しさを携えて、闇は一層深さを増す。


「魔術師の戦闘だけでは得られないであろう馬鹿げた量の魔力が、滝公園から最も近い、駅前十七階建てビル屋上の魔術鉱石に注ぎ込まれた。サミュエルは確かナイジェリアかどこかの出だったか……そんな国の二流魔術師にそれだけの力があるか? 紛れもない、嘉多蔵亜里沙の力だ。あの量はそこらの魔術師ではあり得ない。賭けは俺の勝利だったという訳だ。海側でやや不足していた魔力は、爆破魔術を乱発して魔力を撒き散らすことに特化した魔術師、リチャード=ドレークと、それに対した魔術師で補えたし、十七階建てのビルは言わずもがな。他三ヶ所は特に不足もなかったし、さて、これで下準備は完了だ。五ヶ所に配置した魔術鉱石による儀式場は完成した」


 五ヶ所――。


 一つは、西側、十七階建てのビル屋上。

 一つは、南西、展望タワー頂上。

 一つは、南東、中部支部近くのビル屋上。

 一つは、東、タワーマンション屋上。


 そして、もう一つ。


 それは北側に位置する、黄色い建物の屋上だった。


 不知火オーディン大和が魔術鉱石から放たれる魔力を辿って導き出したこの場所こそ、


「大魔術廃絶部、この場こそ頂点」


 不知火の中に明確に浮かんだ図形。


 魔術の世界でも、稀に使われるこの形。


 北側、大魔術廃絶部を頂点とし、全てを線で結び、出来あがるものこそが、リオウ=チェルノボグが創り上げた災厄。


「五角形の儀式場が、今ここに完成したのだ」


 リオウの言葉によって、和川にも、もちろん不知火にも別段の驚きはなかった。


 不知火はその形を知っていた。魔術によって辿ったからだ。和川もそれを聞いていた。


 そして、それによって引き起こされるであろう最悪のシナリオは、二人の間で共有されていたのだ。


 ――それは、この五芒星を不知火が見抜き、この場所にやってくる前のことだった。


 敵が何をしようとしているかは分からない。だが、この可能性は捨てきれないんじゃないのか――不知火は呟いた。


 これだけ広範囲に儀式場を構築していた、貴重な魔術鉱石をいくつも配置してまで。


 ここまでしておいて、実は花火を打ち上げたいと思っていただけなんです、なんてことはあり得ないだろう。


 不知火は和川にこう伝えたのだ。



「つまり……最も考えたくないことだけれど、これは、

 ――禁じられた大魔術――

 それを発動する為の儀式場……ということになるのかな」


象るもの……その意味がようやく――。


次回は5-2です。よろしくお願いします。

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