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象るもの Ⅰ

 寒そうに丸まりながら眠る少女は、可愛らしい寝息を立てながら言葉にもならない寝言を呟いていた。


 躰を起こすにはまだ痛みの残る体だったが、ただ床に寝転がって天井を見上げていられるような無責任を、神田川英明(かんだがわえいめい)は備えていなかった。


 壁にもたれ掛かりながら、眠る少女を見つめる。


 不知火により張られた結界は、空きテナントの中を守るようにしっかりと機能している。だが、長時間この場に居続ければ、近くのビルから漏れだす魔術鉱石の魔力を防ぎきれず、少女にも害を及ぼしてしまうかもしれない。


「……救援はまだか」神田川は呟いた。


 彼の中に浮かぶ救援とは、一人の魔術師の存在だけだった。通信もまともに取れず、携帯の類も今日に関してはさほど意味を成さないだろう。ならば、一人の魔術師にしか、今は期待が持てない。すると、


「なんだ……これは……」ぽつりと言って、神田川は自分の手のひらを見つめた。


 力も入らなくなっていた神田川の躰に、再び魔力が宿っていたのだ。


 じわじわと戻ったとか、時間経過によって湧きあがってきたとか、そういう当たり前の感覚ではなく、それは宿るように、突然別の何かが入り込んで来るように、氷を作るのではなく既に出来上がった氷を放りこまれたかのような感覚だった。


 初めての感覚――いや、神田川には覚えがあった。以前にも同じ経験がある。


 そして、少しだけ、人間味のある頬笑みを神田川は浮かべた。


「嘉多蔵、広瀬、さすがはお前達の娘だよ」


 神田川は少女の頭を、大きな手で優しく撫でた。


「寂しい想いさせるんじゃないぞ、ってことだよ、馬鹿野郎」


 少女が、閉じた瞳から零れ落ちた一雫。


「おと……さん、おか……さん」


 丸まるように躰を縮込ませて眠る少女は、一番欲しかった温もりを夢の中で探しているのだろう。


 守りたい儚いものが、確かにこの世界にはあるのだ。


 例えば、少女の心。

 例えば、かけがえのない時間。


 魔術は、傷付けるためではなく、守る為にある。


「全部終わったら、叱りつけてでも二人を連れてくる。それまで待ってろよ。……いや。きっと飛んででも会いに来るさ。きっと、な」



     ○



 ふう、と息を吐いた。


 神田川は、自分の中へと入り込んで来てくれた魔力を使って、さらに結界を三重四重に張った。


 ――外に、魔術鉱石以外の魔力がある。


 救援ではない。間違いなく悪意を持った、禍禍しい魔力だ。


 敵。


 そう判断するのが賢明だろう。


 魔力があるからといって万全ではない。交戦は避けるに限る。なにより、今の神田川に少女を守るだけの力はない。敵は複数の可能性もある。


 大方、すぐ近くのビルに配置された魔術鉱石の護衛、またはなんらかの術者だろう。ここで叩けてしまえれば、と神田川は思う。だが、人任せを嫌うような責任感も、最善から外れるならばそれは愚かだ。


(あとどれくらいかかる……)


 希望はやはり、一つしかなかった。


 神田川英明。嘉多蔵亜里沙。


 二人に残された時間は、さほど長くはない。


次回は、和川・不知火VSリオウ!

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