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序章 幼竜爆誕

 

「クソ、なんで私がこんな山登りなんて」


 深紅の髪の美女は歩きながら一人愚痴る。


 一年前魔王との戦争が終結した。勇者の一人である英雄アーサーによって魔王は討伐され、魔族との和平により世界は平和になった。


 しかし一週間まえ王国バンクリフトの預言者ルトラールの見た予知夢により、竜種の誕生が伝えられた。


 竜種とは太古に存在した生物の頂点、暴力と破壊の化身、生きる災害などと物騒な伝承ばかりが残る生命体だ。

 もう大昔に理由は謎であるが絶滅したとされる生物でもあった。


 そして預言者ルトラールの予言はとてつもなくよく当たる。

 そんな預言者の竜種の誕生の予言。長かった戦争もやっと終わり、順調に平和に向かっている世界には寝耳に水どころの騒ぎじゃなかった。


 王国バンクリフトはその報告を受けてすぐ、城に魔物討伐の報告に来ていた勇者の一人にその予言の確認ともし竜種の存在があればその討伐を命じたのだった。


 そんな訳で深紅の髪の美女、勇者アメリアは予言された場所である大山脈オーヤイカデマを登っていた。


 命令を受けて愛馬のユニコーンであるコニーちゃんをほとんど休まず走らせ、馬の歩けぬ山道を歩くこと二日。もう少しで山頂だった。


「何でこんなに急がねばならんのだ、竜種だったら力をつける前に倒さねばならぬなどとあの死に損ないの賢者め」


 未知の脅威である竜種、その情報は古い古〜い文献でしか残って無い。なので王と賢者や貴族達の会議で早急な対処が決められたのである。

 そのせいで出立してから一週間ろくに眠らずここまで急ぎで来たのだ。そのため勇者アメリアはとてつもなくイラ立っていた。

 そのあまりのイラつきっぷりに殺気の様な物が体から溢れ、動物どころか魔物さえ寄ってこない。


 そのお陰でこんなに早くオーヤイカデマの山頂に着いたのだったから良かったのかも知れないが。


「クソ、なんであのタイミングで私しか王都にいなかったのだ。いつも城にいるグランはどうしたのだ!どうしてあの時だけ実家に帰っているのだ⁉︎」


 アメリアはそんなグランに理不尽な事を思いながら山頂を進む。


「あー頭が痛い、眠い。この任務が終わったらしばらく王都に戻ってやらん!大体こんなにフラフラの寝不足でそんなに危ない竜を殺せなどとヴァカではあるまいか!」


 イラつくアメリアは愚痴が止まらない。

 そんな感じで王国上層部に対する愚痴、他の勇者への悪口、お見合いが全然成功しない事に対する愚痴などをぶつぶつ呟きながら竜種を探す。


 アメリアはしばらく探したが生命体の気配が全くなく、予言は外れたのかと思い出したその時、近くの地面の割れ目が突然光だし少女の泣き声が聞こえ始めた。


 その穴を覗いたアメリアは言葉を失った。


 穴の中では裸の少女が赤い縞模様の割れた卵の中で泣いていた。


 しかしアメリアが言葉を失った理由はそこでは無い、確かにこんな山の山頂に少女がいれば驚くがそうでは無い。

 アメリアはその少女の容姿に言葉を失ったのだった。

 炎の様な紅い色の髪に透き通る様な白い肌と琥珀色の瞳、均整の取れた顔のパーツはまるで史上最高の人形師がその生涯をかけて手掛けた人形のよう、しかしその顔には生きていることを主張するように頰は赤く色づき、ぷっくりとした唇も紅を塗ったかのように赤く艶があった。そのせいかまだまだ少女のそれだと言うのに蠱惑的な色気を放っていた。

 その少女の泣き顔も目に毒であった。そのあまりにも美しい顔をくしゃっと歪めて泣く様は、心配になり泣き止ませなければと言う使命感がおこるが、いけない事だと分かるがもっと見ていたいと嗜虐心をくすぐられてしまう。


 それはまるで神が自らの手で作り出したかのような、あまりにも可憐で、魅惑的で、美しすぎる存在だった。


 アメリアは意図せず鼓動が速くなるのを感じた。

 それはまるで恋に落ちたかのよう、いや実際に恋に落ちたのだ。

 アメリアの性別は紛れも無い女性。今までだって同性に恋に落ちた事は一度も無いし、今はいないが恋人も男性だった。

 しかしアメリアは恋に落ちた。あまりにも美しいその少女に一目惚れしてしまったのだ。


「な、泣かないで、どどどうしたのだい?」


 さっきまでのイラつきは何処えやら、アメリアは自分でも驚く程の優しい声だった。

 声を掛けられ気づいたのかその少女は泣くのを一旦止めアメリアを見つめる。


 アメリアは心臓を高速で何かに撃ち抜かれたかと思った。

 まだ涙で濡れるその瞳に見つめられ、アメリアもまた下腹部が濡れてしまうかと思った。


「あー、あ、ゔーー」


 素敵な声だった。耳に心地よくずっと聞いていたくなるかのような。


「あ、えっ?あ、あー喋れないのか?よし分かった。まずはそうだ!こんな所に居ては風邪をひいてしまう、服も必要だろう。よし親もいないようだし山頂に一人など捨て子だな。こんな所に幼子一人残して行くなど勇者としてできない、だから私の家に連れて行こう!」


 そうだそうだいい考えだ、などとアメリアは誰に言い訳するでもなく、そう独り言を言いながら荷物から一番綺麗な布を出して少女を包み大切そうに優しく抱える。

 そう誘拐である。


 アメリアには竜種の任務の事、一週間ろくに寝ていない事などなどもう頭の中には無い。その腕の中の少女の事しか考えていなかった。


 そしてアメリアはオーヤイカデマの山頂に登ったその一週間より大幅に時間を縮めて王都へと帰還するのであった。







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