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三月の向こう側  作者: むっきー
1、鈴虫は泣かない
2/2

1-A

立秋を過ぎれば太平洋高気圧は南下するため、気温は次第に下がっていき、早めの秋雨前線の到来で雨が続くでしょう、という米国海軍の気象予想はその信頼性を裏切るようにことごとく外れた。


日が昇る前から既に二十五度度を記録した黒岩市は正午には三十度を超えていた。雨は一切降らず、顔に当たる乾いた風は春風を思い起こさせるほどの暖かさに湿気含んでいた。九月なのにも関わらず季節ボケした蝉が煩く啼き散らしている。疲労困憊の心身にさらなる追い打ちをかけるようなものである。


 背中に太陽の刺さるような日差しを受け、長い長い上り坂を、スーパーのレジ袋を前カゴに乗せた自転車を押しながら登っていた。二輪車では登り切ることが困難な坂であるてめ、自転車を押して歩いているが、勿論徒歩で登るにもかなり過酷なものであるほどの角度と距離を有していた。


一歩一歩登るたびに、両二の腕、両ふくらはぎに力を込め、息を止めながら自転車を押す。足が着くたびに大きな息を吐く。口は常に半開きとなり、湿度の高いため額からは汗が大量に流れる。風通しをよくするため肌着なしでシャツを身に着けたのは失敗だった。汗がシャツに染みこんでしまい、肌にへばりついてくるためベタベタとした感触が常にまとわりついてくる。


蝉の鳴き声が耳に何度も何度もこだましてくる。ここらの住宅街はもともと開けた丘に作られたため、樹木は殆どない。コンクリかセメントの塀にでもへばりついて啼いているのであろうか。


坂を上り終えるころには体力は限界に近かった。心臓が音を上げ、肺が酸素を求めてくる。若干過呼吸気味になり、自転車に両腕をつき自転車に体重を傾けて息を整える。吸って吐いてを繰り返し痛みが治まるのを待つさすがに五年近くまともな運動はしていないためかつてのような持久力は持ってない。普通にアスリート並みの運動神経の妹がうらやましいと思える。


五分ほど休むことで体が落ち着いてきた。家はすぐなのだが、さすがに歩く気力はない。自転車にまたがり漕ぎ出す。サドルが若干低いがどうでもいい。どうせ数百メートルだけなのだから。



生ぬるい風が駆け抜けていく。蝉の鳴き声は少し低く遠くなっていった。



どうも第一話投稿です。最低週一で投稿するつもりです。

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