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八品目

 薄暗い空間。

 縦横高さ全てが均一なその立方体の空間は、一辺百メートルほどもある。

 入口は側面の一つの丁度真ん中に、そこから対となる面まで真っ直ぐと道が敷かれている。

 道の左右には燭台。等間隔で灯っている。


 進んだ先には王座。

 そこにはすでに男が座に就いているが、その顔は暗闇に隠れて窺がえない。

 長い杖が王座に立て掛けてあり、男は肘掛けに頬杖をついて退屈そうにしている。


 突如、

 王の間の扉が開かれる。

 ピクリ、と一瞬眉をひそめると男は入口に目を向けた。


 入ってきたのは、男、女、女、女。

 まだ若い青年を先頭に、同じく若い女――左から猫耳、幼女、巨乳――が三人並んで追従する形だ。

 

 青年は不敵な笑みを浮かべながらずんずんと王座の前まで歩いてくると、


 「ふうん。ここがアンタの居城かい? 随分いいとこ住んでんだな」

 「…………」

 「やれやれ、近隣諸国を襲うドラゴンを退治してくれ、っつー依頼を受けて追って来てみれば……まさかこんな塔があったとはな。しかもその塔に龍が入ってくと来たもんだ、ったくめんどーなことになったぜ」

 「…………」

 「ま、こー見えて俺は魔術も剣術もランクS+だからよ、一階から攻略すんのはめんど―だったからドラゴンの気配をサーチしてその階までジャンプして爆裂神空剣スカイゴッドエクスプロージョンで壁を破壊して滅鬼聖光波デビルスレイホーリーライトでチャチャっと雑魚どもを蹴散らしながらここまでたどり着いた、って訳よ」

 「…………」

 「あんたがドラゴン使役してんだろ? そいつさえ退治させてくれればあんたと戦う必要はないんだが……へっ、素直に差し出しちゃくんねーよな」


 言って、剣を構えると後ろの女たちもそれに従い各々武器を構える。

 男は退屈そうにしている。


 最初に飛び出したのは後ろの巨乳だ。剣を振りかぶって飛びかかろうとするが、勢い余って転ぶ。


 「ふぎゅ!?」

 「おいおい大丈夫か、巨乳。ほら、立てるか」


 青年が駆け寄って助け起こそうとする。しかしその手が彼女の肩に触れた途端、


 「は、はひっ! だ、だだだ、だいじょぶです!」


 巨乳はピーンと跳ね起きるともう二人の女の所まで慌てて下がる。真っ赤な顔に両手を当てて「はわわ」と呟いている。

 青年は訳がわからないようにそれを見て、ポリポリと頬を掻いた。


 男は本当に退屈そうだ。


 青年は男に向き直ると、


 「あー、悪りぃな待たせちまって。……そんじゃ、仕切り直しと行きますか!」





 三分後。



 「がっ!?」


 青年の体が弾き飛ばされる。

 ズザザ、と転がった先にはすでに三人の女が倒れている。

 男は頬杖をついたまま相も変わらず退屈そうにしている。


 「ば……馬鹿な……こんなこと今まで……」


 青年の前に立ちはだかるドラゴン。

 その双眼は暗闇の中でも青い光を湛えていて、口からは青白い光がチラついている。

 ギロリ、と睨まれた青年は青ざめて飛び退き、その世界には存在しない言語を唱える。


 「す、ステータス・オープン! ――! ――! ――――――! ――――――――――――!」

 「…………」


 男の眉が動く。

 唱え終えた青年が勝ち誇ったように笑う。


 「は、はは……悪ぃな……これで終わらせてもらうぜ! くらえ! 絶対確定勝利(キットカット)!」


 赤い魔力が渦巻きながら青年の右腕に収束していく。

 対するドラゴンは大きく口を開くとその中に青白いエネルギーがパリパリと電気的な音を立てて集約されていく。

 二つの圧縮されたエネルギーが部屋全体をビリビリと震わせる。

 そして、

 解放された。


 轟音。


 片方のエネルギーが、塔の外壁を貫いて伸びていく。

 彼方まで放たれた『力』の束は徐々に細くなっていき、消えた。


 王の間。

 その中は現在砂埃が舞い上がり、一切を隠してしまっている。

 しかしそれもつかの間、爆風が巻き起こるとそれは一気に吹き散らされ、外壁に開いた巨大な穴から一匹のドラゴンが飛び立っていった。


 部屋の中では三人の女たちの前に青年が蹲っている。その右肩から下には何も無い。


 「……っく……そ、そんな……異世界勇者補正は都市伝説だったのか……!」

 「…………」


 男は無言で立ち上がり杖を手に取ると、青年に近づいて行く。


 蹲っている前で立ち止まり、杖を向ける。


 バーン。


 あっけなく異世界勇者は弾け飛んだ。





 ===


 「な……何ぃーーーーーーーー!!!?」


 思わず夜空に叫んでしまった。

 なぜだ。なぜこの場面で変わり身ギャグを!? 手際の鮮やかさにビックリだ。

 大体どこから用意してきたんだこの子。まさかとは思うがまた何処か別の世界から転移させたんじゃないだろうな。


 「おーーーーーーい」


 とりあえず呼んでみる。反応はなし。

 

 「だよな……」


 うん、もちろん僕も本気でこれが変わり身ギャグだなんて思ってない。

 だが確かに変化は一瞬だったはずだ。でなきゃ大人が子供に逆移行する大イベントを僕が見逃すはずがない。


 「うーん……」


 目の前では七、八歳くらいの少年が泣いている。纏っているのはやっぱりあの衣。

 衣も一緒に縮んでいるのが気になるが。


 「………………」


 やっぱりこの子が神様なのかな……。

 突然の事に理解が追いついてないが、まず知っておくべきことが二点。

 一つ目は、この子が神様なのか。

 イエスなら二つ目は、元に戻れるか、もしくはこの状態で力を使えるのか。ノーならば神様はどこにいるのか。

 

 まあこの子に直接聞いてみるのが最善の手だと思う。

 のだが、弟も妹ももたない僕にとって、泣いている子を宥めるという行為はちょっとばかしハードルが高いシチュエーションだ。

 少しだけ頭を捻って考えてみた結果、害意が無いことを分からせられれば問題ないと結論付ける。

 という訳で話しかける。


 「あー……きみ、神様……だよね?」

 「うわーん。うわーん。」


 ふむ……どうやらアプローチの仕方が間違っていたようだな。ストレート過ぎたか……? 全く泣き止む気配が無い……が、泣きながらも寸分違わぬ正確さで僕の脛をガスガス蹴ってくるんだが。どんな局面でも確実に人体の急所を狙うよう躾けられた殺し屋みたいな奴だな、まったく。

 さて、どうしたものか……

 しばらく考えて、ぽん、と手を叩く。

 子供と話す時は目線の高さを合わせるんだった。その上で優しく問いかけてみよう。諦めるにはまだ早い。

 さすがの僕も子供相手に秘伝体術をぶっ放すのには忍びないものがある。

 と、いう訳で屈んで少年と目の高さを同じにする。リトライ。


 「ねえきみ。ちょっと教えて欲しいことがあるんドゥワッッ!!!!?」

 「うわーん。うわーん。チッ。うわーん。」

 「おいコラてめぇっ!! 今舌打ちしたの聞こえたぞ! やっぱお前バ神だろ! でなきゃいくら僕でも見ず知らずの子供に突然目潰しされる訳ねーもん! そんな人生歩んできた覚えねーもん!」


 このガキ、隙あらば僕を殺そうとしてやがる。


 眼前にはむせび泣く小さな子供。だが僕はもう騙されない。この涙だって、そう、さっき僕の目を潰し損ねたことに泣いているに違いない。

 心なしか、泣き声も嘘泣きのように聞こえてくる。


 ……ま、そっちがその気なら仕方ないよな。

 両手の指をゴキゴキ鳴らす。

 ま、むこうが先に手を出してきたんだし? 実際僕じゃなかったら死んでもおかしくないほどの殺人拳だったし? ここはひとつ長幼の序、ていうかやっていこと悪いこと、を教えてやるのが年長者としての務めだよね。ま、子供の躾けは体に叩き込むのが一番手っ取り早いからそうさせてもらうけど……決して最近妹だとかキチゲイだとかに負け続けて鬱憤が溜まってるとかじゃなくてだね、ただ単純に責任感溢れる僕の父性本能が働いてるだけだからさ。PTAでさえ「何も言えねぇ」と言わんばかりの殺戮ショーを繰り広げるわけじゃないから安心して。…………さて、どの技からいこーかなー。やっぱモンゴリアンチョップかなー。でもロシアンフックも捨てがたいなー。ここは意表をついてヤクザ蹴りとか……


 顎に手を当て、開幕一番にかける技を決めあぐねていると突如――


 「のわっぷ!!?」


 ――目の前で青い爆発が起こった。一瞬遅れて落雷のような破裂音。

 至近距離でくらったため僕とバ神はもんどりうって倒れるが、意外と衝撃は小さい。


 臀部を天に突き出してうつ伏せに倒れた格好で呆然とする。さっきから想定外のことが起こりすぎて脳の情報処理回路がパンクしそうだ。

 出し抜けに頭の上から声をかけられる。


 「おい、お主」


 聞き覚えの無い声。「ほえ?」と倒れたまま顔を上げる。

 するとそこにいたのは真っ赤な髪に漆黒の肌を持つ幼い………………誰だ?


 「お主、あの小童が転移させた人間じゃな」

 「……はあ」


 小童? なんかもう訳分からなくてこの状況に全く実感が湧かない。


 「うむうむ。儂はあいつに用があって来たのじゃが……お主どこにおるか知っておるか?」

 「……はあ」


 少女? の背後を指さしてやる。

 彼女は振り返って、少し離れた所に転がっている少年に気付くと嬉しそうに近寄る。


 「おお! 久しぶりじゃな、バ神よ」


 あ、やっぱそう呼ばれてるんだ。


 ただ気になるのはバ神のほうが全然嬉しそうにしてないことか。

 奴はムスッとした顔で返事をした。


 「何しに来たんだよ、姉ちゃん」

 「ちょっと待て」


 思わず割り込む。

 何だ今のセリフは。

 咳払いを一つ。どうやら聞かねばならんことがあるようだ。


 「よし。取りあえずこれだけは言っておこう、これ以降お前にどんなオプションがついていようが僕は決して驚かない。いいな、絶対だ」

 「お……おう」

 「その上で一つだけ聞いておこう。お前、口調はどうした」

 「あっ!!」


 あ、じゃねえっ! ロシアンフック!!


 「つまりお前はこっちの子供の姿に子供っぽい口調が本当のお前って訳なんだな?」

 「は……はイ」

 「ということは……、つまりだな……、今まで僕はこんなガキの悪戯につき合わされていた、って訳なんだな?」

 「おいおいお主、それは言い過ぎじゃろう。悪戯だったのは本当にせよお主を死の淵から救ったのもこの弟なのじゃから感謝されこそすれ、恨まれるのは筋違いじゃろう。それともお主死にたかったのか?」


 シャラップ!! ……と、言いたいとこだが確かにその通りだ。こいつのうざいキャラ設定のあまり人の道を踏み外す所だったぜ。……いや、こいつの衣奪った時点で踏み外している気がするけど。まあいいや、盗賊として生きていけば。


 「まあ……そうだな。」

 「そうじゃ」


 この姉、なかなかどうして聡いじゃないか、バ神の姉と言う割には。ていうか全然似てないけど本当に姉弟なのかこいつら。ていうか生態からして違う感じがするんだが。

 ちょっと申し訳なくなる。


 「あー……えーと、お姉さまがいたとは知らなかったなー。てっきりぼかぁこいつと僕しかここにはいないと思ってましたよー」


 なぜか敬語で棒読み口調になってしまった。

 何となく僕はこの少女が苦手だと思う。


 「いや、確かにここにはお主と我が弟しかおらかったよ」

 「へ?」


 予想外の返事。ってことはどこか別の世界から来たってってことだよな。どこから来たんだ……?


 そう思った次の瞬間、その答えが少女の口から放たれる。


 「儂は魔神。死んだ魔人の魂を導く者じゃ」

矛盾、破綻のオンパレードです

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