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七品目

 地表を波打つ巨木の根を跨ぐ。懐から鋭く尖った形の石を取り出し、通り過ぎざまに幹に印をつける。

 それは何度も繰り返した行為だ。

 そして何度も繰り返していく。

 つける。つける。つける。

 つける。つける。つける。つける。つける。つける。

 つける。つける。つける。つける。つける。つける。つける。つける。つける。つける。


 シェパート大樹海に突入してからおよそ一か月。食料はとっくの昔に尽き果て、木の根や魔物の死体などを食い食い樹海を彷徨い続けている。

 常に薄暗いこの森では時間の感覚は完全に狂ってしまい、昼なのか夜なのか、正確にどれくらいの期間を彷徨い続けているのか全く分からない。


 石ナイフで木印を付けつつ進み続け、もう精も根も尽き果てようとしていた――

 ――その時。


 「あ…………」


 微かな光。


 まさか…………まさか、まさか、まさかまさかまさかまさかまさか!


 自然、足の進みが速くなる。駆けだす。

 ともすれば消えてしまいそうなそれは、近づくにつれてだんだんと大きくなり視界いっぱいに広がっていく。

 遂に光の中に飛び込み、樹海を抜けた。


 「う……眩し……。」


 陽の光に目が眩む。

 この肌に突き刺さる日差しも、頬を撫でる風も久しく感じていなかったものだ。

 涙が溢れ、視界が歪む。生き延びたという安堵で胸が張り裂けそうになり、うめき声が漏れる。

 ようやく……ようやく地獄から抜け出せた……。

 しばらくすると明順応した両目が視界を取り戻してきたので、あたりを見渡そうとする。

 しかし。

 その視線は目の前の『威容』に一瞬で釘付けになる。

 否。

 目の前にはその『偉容』しか広がっていなかった。


 眼前に広がっていたのは灰色の岩壁、のように見える超巨大な塔だった。


 樹海の切れ端から塔まではかなり距離があると思う。よって眼前、という表現は正確ではないのだが、しかしそれでも眼前(・・)に、と錯覚を起こすほどその塔は巨大だった。


 塔の上方に目を向けてみるが、頂上は見えない。雲一つない空を貫いてそびえ立っているようだ。

 息が詰まる。その巨大さに圧倒されて言葉が出ない。


 しばらく呆気にとられ、それから今度は足元に目を向ける。

 地面は短い草に覆われて緑の絨毯のような草原が広がっている。その上に陽光が燦々と降り注ぎ、ぽかぽかと暖かい。

 その寝転がりたくなるようなのどかな空気が、何となく目の前の塔とは不似合な感じがする。


 周囲の把握が完了すると、ゆっくりと歩いて塔へ向かってみる。

 十五分ほど歩くと外壁にたどり着いた。その表面を撫でる。

 グレーの超巨大ブロックは風化し、その周りを緑の苔が所々覆っている。

 見るからに太古の産物だと分かる。


 「どこの国の遺跡なんだこれは……」


 ダルシアン王国にこんな塔が存在するなんて話は聞いた事が無い。

 それどころか近隣国家でさえ聞かない。

 ダルシアン王国の他四つの大国をこの大陸は含んでいる。そしてその中心にシェパート大樹海は広がっていて、その周りを取り囲むように五大国が位置している。

 近衛騎士団の一員としてそれぞれの国の内情には精通しているが、この塔の情報を持っていた国は無かったと思う。

 腕を組んで考え込む。

 ダルシアン王都を出発してからおよそ一か月。シェパート大樹海を徒歩で四週間ほど歩いてたどり着ける国は…………隣国だけだ。その更に隣の国は四週間歩いた程度では直線距離でもたどり着けない。

 それにこの高さの塔だったら国内全域から見えるんじゃないのか……? だが、左右どちらの国でもこんな遺跡を見たことは無い……。


 「入口はどこだ……」


 見たことのない遺跡に興味が湧く。


 ――中に入れば何か分かるかもしれない。


 そう思い、ぼろぼろの体に鞭を打つと、入口を探すため塔の周囲を反時計回りに私は歩き始めた。

今回文字数少ないですすいません

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