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四品目

※同じシリーズです

 ……どうしてこんなことになってしまったのだ……。


 私――ゴールド・R・リーバーは自問する。

 

 ここは鬱蒼と生い茂る樹海の中。緑の天蓋が頭上を厚く覆い、陽の光が全く差し込まないため森の中は薄暗く、肌寒い。

 遠くからは甲高い魔物の声が聞こえる。

 

 ロングソードを構えて周囲を警戒したまま、ゆっくりと、極力物音をたてないように森の中を進んで行く。一度でも魔物に見つかれば終わりだ。仲間を呼ばれるか、倒したとしても戦闘音と血の匂いで他の魔物が即座にやって来るだろう。際限なく襲い掛かってくる魔物を蹴散らしながらこの樹海を無事抜けられるとは到底思えない。


 呼吸は浅く、冷汗が頬を流れ落ちる。

 小枝を踏み折る音がやたらと大きく聞こえる。

 割と前方近くから魔物の不気味な声がして、ビクッと体を震わせる。素早く近くの樹に背中を張り付けて、息を殺す。……気付かれたか……?

 じっと身を潜めていると、次第に声は遠ざかって行った。ホッと胸を撫で下ろし、そのままズルズルとへたり込む。


 ……突入してから、かれこれもう五日か。


 ダルシアン王国王都から北西に真っ直ぐ進むと四日ほどでこのシェパート大樹海にぶつかる。大陸きっての危険区域であるこの樹海は、本来なら最低でも百人以上の大部隊で突入して、拠点を設置しながら徐々に奥地へ探索、というよりも攻略していく方法をとる。

 のだが、私たちが突入した時の人数は、わずか17人。王子専属近衛騎士団のメンバー全員だ。皆それなりに腕は立つのだが、いかんせん人数が少なすぎる。

 とても樹海攻略に行ける人数ではない。

 しかし王子の命令とあらば我々近衛騎士団は命を投げ打ってでも従わなければならないのだ。

 

 ――シェパート大樹海に飛んでいったドラゴンを討伐せよ。


 そんな指令が下された。

 それがどんなに無謀でも、王子がどんなに馬鹿でも。

 我々に選択肢は無いのだ。そういうものなのだ。逆らえば死刑なのだから。


 命令が下された時の仲間の表情が思い出される。皆顔を真っ青にして、まるで死刑判決を下されたようだった。私もあんな表情をしていたのだろうか。

 樹海への道中、皆意気消沈していた。それは私もだった。団長でさえそうだった。


 結果、突入してから数時間でギガントオーク――大きく、強い――に運悪く遭遇してしまい部隊は壊滅。

 小回りの利かない敵なので、魔法の遠距離攻撃による攪乱があれば、あそこまでの被害は食い止められただろう。だが、その名の通り我々は騎士団であって、魔法は使えないのだ。

 私は必死に逃げた。オーガの歩幅なら簡単に追いつかれてしまうだろうが、それでも逃げた。


 ……オーガは追ってこなかった。他のメンバーの方に向かって行ったのだろうか……。

 とにかく私はそのとき助かった。

 

 その後はずっと、五日ほど一人でこの樹海を彷徨っている。


 ぼんやりと正面を見てみるが、先は暗くて見通せない。それはまるで、『闇』が大きく口を開けて私を飲み込もうといるように感じられた。

 自嘲的な笑みを浮かべて、思う。


 ……まるで冒険者みたいだな……。


 そう、冒険者。


 世の中には酔狂な奴がいるもので、自分を冒険者と名乗り、単身、もしくは数人でパーティを組んでこの樹海に潜り込むアウトローな連中がいる。しかしそういう奴らほど腕が立ち、魔法を駆使してうまく魔物との遭遇を回避したり、遭遇しても逃げ切ることができるのでたちが悪い。


 数は力であって、それは魔物に対しても同じだ。群れる習性のある魔物ほど相手が群れている時には手を出さないのである。しかしそれでも安心できる訳ではなく、何かの拍子で集団から離れてしまうと、そんな個体を虎視眈々と狙っている魔物たちの餌食となってしまう。

 部隊が壊滅する一番多いパターンは、単体、もしくは数体で群れる強い魔物と遭遇してしまい、隊形が崩れたところを雑魚に襲われて全滅、というパターンだ。それは奥地へ進むほど確率が高くなる。


 そんな危険な場所であるため攻略は滅多に行われず、王都から近いこの樹海に一般人が近寄るのは法で禁じられている。

 のだが、連中は上から法で押さえつけられるのを良しとしない。国籍も持たず、基準も定めず、規律も守らずにやりたい放題やる連中なのだ。


 ……あんな連中なんてそこらの盗賊やら殺人者と同じだ。


 そんなことを考えていたら、だんだんイライラして気力が湧いてきた。


 周囲をまず確認する。魔物の気配を感じないことがわかると立ち上がる。


 そして右手のロングソードを見つめる。

 一瞬の逡巡の後、思い切って剣を置いていくことにした。どうせ持っていても仕方が無い、生き残る確率を少しでも上げるのなら身は軽い方がいいはずだ。

 鞘に収めて、さっきまでもたれ掛かっていた樹の幹に立て掛ける。これで身を守るものが一切無くなった。そう考えると多少の不安はあったが、意外なことに迷いは吹っ切れた。


 ……とりあえず真っ直ぐ進んでみよう。


 そう決意して、足を踏み出した。







 ◯◯◯◯◯◯◯


 シェパート大樹海の中心。

 そこには一本の高い塔が天に向かってそびえている。それは、樹海を織り成す一本一本が百メートル近い高さを持つ樹々が、その塔と比べればほんの苗木程度に見えてしまう程だ。

 その塔の輪郭は不規則にぼやけ、揺らめいて、ある程度距離が離れると完全に見えなくなる。


 その塔に辿り着けた人間は今だ一人もなく、存在を知る者すら皆無だった。


 塔の周囲一キロメートルには一切の樹々は生えてなく、ドーナツ状に広がる平地を短い草が覆い野原となっている。


 バサリ。


 突然風が巻き起こる。低い草草がその突風に翻弄される。


 バサリ。


 地上に巨大な影が落ちる。


 バサリ。


 陽の光を遮り、地響きを立ててその巨体が舞い降りた。

 草は押しつぶされ、一瞬にしてその空間の支配者となったその存在は、塔を見、天を仰ぐと、咆えた。


 「ギャオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンンン!!!!!!」

自分の意思で迷走してます。

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