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三品目

 人神の使徒が転生を遂げる、数時間ほど前の話。



 見渡す限り砂漠。

 生命を全く感じさせない不毛の大地を一人の男が彷徨っていた。

 おぼつかない足取りでふらふらと進むその姿は、今にも倒れそうだ。

 行先も目的もないまま男は進み続ける。進んで、進んで、進み続ける。


 進んで――――


 進んで――――


 進んで――――


 倒れた。


 

 ……ところで、男から一定の距離を置いてついて行く、というよりつけて行く少女が一人。真っ赤な髪色に薄汚いマント、片手には彼女の身長を優に超える長さの杖が握られている。しかもその手は漆黒の肌に鉤爪という禍々しい様相を成していた。


 男が倒れると、少女はそーっと近づき男の体を杖でツンツンつつく。

 男は動かない。どうやらしかばねのようだ。

 しばらくそうしていると、少女はようやく覚悟を決めて男の体をまさぐり始めた。

 

 その時。


 突然跳ね起きた男が少女の両足を掴むと思いっきり引っ張ってひっくり返し、その上にのしかかった。杖が少女の手から離れて砂の上を転がっていく。

 乱暴に少女のマントを剥ぐと、その全身があらわになる。

 手と同じく全身漆黒の肌。

 他は大体人間の女性と同じ形だが、関節に近い部分には爬虫類のような鱗がびっしり並んでいる。


 「おえ」


 男は顔を歪めると、少女から離れた。少女は慌てて杖を拾うと怯えと羞恥とによる憎しみのこもった目を男に向ける。

 男が話しかけると、少女はそれに答えた。

 また幾つか言葉を交わす。ぽつぽつと。

 さらに言葉を交わしていく。つらつらと。


 すると会話の流れの中、ある一点でがらりと空気が変わる。


 男は少女に再び襲い掛かり、杖を奪い取ると、転生した。


 あとにポツンと残された少女は茫然としている。近くに放り棄てられていたぼろマントに気づいて、拾う。男が消えた場所にフラフラと歩いて行き、何やら足元を調べるが何も見つからない。

 少女はしゃがみ込み、膝に顔をうずめた。

 

 彼女は魔神。


 話し相手が欲しくて異世界から人間を呼び寄せた、孤独な少女。

 その人間に杖を奪われ逃げられ力を失った、間抜けな少女。






 ▽△▽△▽△▽



 「お兄ちゃーん! 起きてー、もう朝ご飯できてるよっ!」


 ……むぅ、妹かこの声は……うっさいな…………ハッ!



 ガバッとベッドから跳ね起きると、周囲を確認する。

 そこは六畳程度の一部屋であり、知っている誰かの(、、、)部屋だった。

 僕は箪笥の扉を開いてその裏に取り付けてある姿見の前に立つ。

 僕は鏡がそこにあるの(、、、、、、、、、、)を知っていた(、、、、、、)

 鏡に映る自分の姿を確認する。

 その中では華やかさの無い地味な顔をした少年が僕を見つめ返していた。


 僕の名前は駒沢 宗一。十六歳。趣味はゲーム、漫画、ラノベ、アニメと、専ら二次元方面に嗜好が傾いている。家族構成は両親と二男二女の六人家族。僕はその家庭の次男であり、姉と弟妹を持つ。両親共働きなため家族四人で分担して家事を切り盛りしている。が、大半を妹がこなしてくれているため僕がやっていることはせいぜい洗濯物を干して取り込むことくらいだ。学校生活はそこそこ充実、仲のいい友達も何人かいるが、最近僕は悩んでいることがある…………

 と、そこまで考え、


 気付く。


 何で僕はこんなことを(、、、、、、、、、、)知っているっ(、、、、、、)!?

 

 ……いや、知っているのはまだしも納得できる。

 なぜなら知っているのだから。そうとしか言えない。

 

 でも


 確かに転生を遂げた僕(、、、、、、、、、、)には決して知りえない(、、、、、、、、、、)はずの情報を僕は知っ(、、、、、、、、、、)ていて、しかもそれは(、、、、、、、、、、)当然そこにあるものの(、、、、、、、、、、)ように既に存在してい(、、、、、、、、、、)るのに僕は全く違和(、、、、、、、、、)感を感じていないとい(、、、、、、、、、、)うことに不気味な恐怖(、、、、、、、、、、)を感じている(、、、、、、)


 うーむ、つまりそういう事か。


 僕は神の力を強奪して転生した。そしてその力はまだ僕に宿っているようだ。だから分かるのだが、一応この世界は僕が最初いた所とは別の世界のようだな。ほとんど変わらないけど。

 そして僕の今の姿――駒沢宗一君の体は僕に乗っ取られた、という事になるらしい……どうやら。僕は転生したら文字通り生まれ変わるのだと思っていたが、こういう転生もあるのか。

 

 そういう訳で僕はこの体の前所有者が歩んできた人生を自分が歩んできた道のりとして納得出来るし、よって妹に起こされても何の変哲もない日常生活の一幕として捉えることができる。


 あ……妹。

 早くいかないと……ヤバい……!

 慌てて扉のレバーを下げて部屋を出――


 バガンッッッ!!!!


 妹に扉ごと蹴飛ばされ、部屋の端まで転がる。

 思いっきり腹打った……超痛え……。

 うずくまったまま顔だけ向けると、ニコニコと夏の花のように満開の笑顔を浮かべた妹が僕を見下ろしている。その右足がゆっくりと上げられて行く。

 命の危険を感じ、とっさに横へ転がる。

 

 バゴッ!!


 さっきまで僕の頭があった場所を、妹の足が本気で踏み抜く。血の気が引いていくのを感じる。

 グリンッ、と妹の首が回り、菩薩の笑みが僕を捉える。


 「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待てっ!! 早まるなっ、落ち着くんだうおっ!? だからっ、怖えんだよ無言でその顔で襲ってくんのっ! ホント勘弁、許してグハッッ!!!! ……ああそうかよ、ならやってやろうじゃねぇか……! くらえっ! 八百屋のオッチャン直伝アルゼンチンバックブぐっはあぁぁぁぁ!!!!」


 満身創痍で迎える朝だった。



 朝食。



 「……ふぃ~~ホれじゃ、ヒってきまフ。」

 

 僕の美顔をボコボコにしてくれた妹様は満面の笑みで「いってらっしゃーい」などと言っている。

 自分の情けなさに背を丸めながら歩道を進み、信号で止まり、横断歩道を渡って、また進む、を繰り返していくと学校が見えてきた。

 さて、僕――駒沢宗一にはやるべきことがある。


 最近僕はある問題を抱えている。


 それを――


 解決しに、行こうぢゃないか。

『僕』の名前が変わってました、すいません。


紙って意外としょっぱい。

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