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東方刃之抄  作者: ミカミ
4/11

血戦

 夜は、昼と入れ替わりにやってきた。

「事前に身体を清めておきなさい」と言われ、伊織は霊夢に風呂を借りた。初めてまじまじと見た女性としての自分の裸体。水面に映る嘘のような少女の風貌。いよいよもって伊織は、この幻じみた現実を受け入れねばならない気がしていた。

「はあ……何でこんなことになったんだろ」

 もちろん、ゆっくり浸かることなどできるはずもない。伊織は早々に湯船からあがり、玉のような肌のあちこちからしずくをしたたらせつつ、風呂場を後にした。

 大変なのは、むしろ風呂を出た後だった。

 まず髪の結い方がわからない。いまだかつて髪を伸ばしたことのなかった伊織は、鏡に映る自分の長髪に怖れをなしてしまった。その先端はあろうことか背中にまで届く。十分あまり格闘した伊織だったが、ついには諦めて、着物の着つけともども霊夢に世話してもらった。

「今までどうして髪を縛ってたのよ」

 いぶかしげな顔をされたが、まさか男でしたと言うわけにもいかない。精一杯の笑顔で伊織はごまかす。

「お母さんにやってもらってたんです」

「その年で?」

「恥ずかしながら」

 嘘と知ってはいながらも、伊織は熱くなる自分の頬をどうにもできなかった。

 その後、伊織は霊夢と食事をともにし、さらに夜更けを待ってから、博麗神社を出立した。

「念のために聞くけど、伊織、あんた空飛べないわよね」

 夜半、月光に照らされた境内で、霊夢はそんなことを聞いてきた。

「あ、当たり前じゃないですか」

 無論、羽根も生えていなければプロペラもついていない伊織にできる芸当ではなかった。

「まあ、それもそうか」

 伊織の返答に、霊夢はしばし腕を組んで考え込むと、

「じゃあいいわ。とにかく私についてきなさい」

 その場でふわりと宙に浮き、伊織が声をかける間もなく、彼方の空に飛び去ってしまった。

 ひとり残された伊織には、いかなる道しるべも残されていない。

「あ、え、うぇ? ちょっと霊夢さん? 霊夢さん!」

 返事などあろうはずもない。おそらくは、ここでいくら待ってもその事実がくつがえることはないのだろう。

「…………」

 こうなったら、走ってでも追いかけるしかない。

 そうと決めれば行動は早い。腹をくくり、胸いっぱいに息を吸い込んで、伊織は神社の石畳を力強く蹴った。

 爆発的な跳躍が生まれた。

「……え?」

 気がついた時には、伊織は博麗神社を取り巻く濃い緑の林の、そのもっとも高い木の頂上に立っていた。遠く向こうの空の切れ目に、宙を滑空する霊夢の姿が小さく見えた。

「ここは……木の上? いや、そんなはずは、」

 そんなはずはない。伊織は確認の意味を込め、ゆっくりと自身の足元を覗き込み、

 そして、気づいた。

 樹木の海が、その黒々とした水面に、無尽蔵の枝を隠していた。

 心臓が止まるかと思った。

 その光景に嘘はなかった。自分は今、まさしく、見上げれば視線が及ばないほどの深い森を鳥の視点から見下ろしているのだ。

「……ひ」

 危うく腰が抜けそうになるも、何とか持ちこたえる。駄目だ、ここで少しでも体勢を崩そうものなら即真っ逆さま。地面との激突が導くのは不可避のデッドエンド。

「な、何で、どうしてこんなところに私は」

 身体の震えが止まらない。カチカチと歯の根が合わず、少しでも強風が吹こうものなら命はないという事実が、伊織の心臓を鷲掴みにする。

 いや、これは風ではない。吹きすさぶのは圧倒的なまでの恐怖だ。この場所には、いつの日も恐怖が吹いているのだ。

 そして伊織は、その恐怖の中に、幻の声を聞いた。

『走りなさい』

「え……は、走る?」

 伊織は足元の闇から再び前方の空へと視線を転じる。

 霊夢の姿は、今や星の光点よりも小さくかすんでいた。完全に見えなくなるまで、おそらく、もうそれほど時間は残されていないだろう。

 声は、伊織に走れと言った。

 それはつまり、木から木へと飛び移り飛び移りして前に進めということだろうか。

『そうよ』

 伊織の心の声を先取りするかのように、幻の声は告げた。

『あなたにはその力が宿されている。後はそう、決断だけ』

「そ、そんなこと言ったって」

 やれと言われて即座にできることではない。

 がしかし、今こうしている間にも、霊夢と伊織の距離は開いていく。

 命の分水嶺ぶんすいれいがあるとすれば、まさにここだ。

「ううう……もう、もうどうにでもなれだ!」

 伊織の瞳に、決断の光が宿った。

 霊夢の姿はまだギリギリで目視できる。

 その影を追って、伊織は跳んだ。

 漆黒の髪を振り乱し、少女は月下の空をゆく。眼下には千の森。吹きゆくは一陣の風。眼前に立ちふさがる枝をひらりひらりと舞いかわし、伊織は幻想郷の夜を駆ける。

 一歩でも踏み外せば命はない――伊織はそうと知りながら、しかし微塵も恐怖を感じてはいなかった。怖れに代わって胸中を支配する感情の名は、懐旧。

「……懐かしい」

 思わず口をついて出た言葉に、伊織自身がもっとも驚いていた。これはそも、誰の感情か。

 気がつけば、霊夢の背中はすぐ近くにあった。一心に目的地を目指すその後ろ姿に声を飛ばす。

「霊夢さん!」

「遅いわよ」

 霊夢はこちらを振り返りもせずに言った。風を裂いて飛ぶその姿は、まさしく空に撃ち込まれた一発の紅い弾丸だった。

 幹を蹴り、小枝をいなし、伊織はようやく霊夢の隣に並んだ。

「妖怪はどこにいるんですか?」

 その声に答えたのは霊夢ではなかった。

 直後、獣にも似た咆哮が幻想郷に響き渡る。

 空が震え、風が震え、森が震え、夜が震えた。

「……お出ましね」

 霊夢がつぶやくと同時に、今まで視界を満たしていた森が途切れ、代わってふたりの視界に深い谷川が姿を現した。

 互いに大きな水しぶきをあげ、ふたりは着地する。

 声の主は、こちらに背を向ける形で、その流れの半ばに立ち尽くしていた。

「…………」

 伊織と霊夢が、ほぼ同時に息を飲んだ。

 その非日常は人型を為していた。上半身には何も身につけておらず、頭には三本のツノが生えており、下半身にはずたずたの布が巻かれているのみだったが、何より異様なのはその体格だった。

 馬鹿でかいなんて言葉では到底片付くはずもない。周囲の木々がミニチュアに見えるほどの圧倒的な巨体だった。下手なビルなら片手でなぎ倒してしまうだろう。すべてが停止した意識の片隅で、伊織はふとそんなことを考えた。

 こんなの、昔話にだって出てこない。

 大柄で、頭にツノがあって、腰巻きを巻いている。

 それは確かに伝承の『鬼』には違いなかったが、ここまで大きいなんて反則だ。

 妖怪退治って、まさかこんなやつを相手に立ち回るのか。

 伊織は努めて冷静であろうと心がけたが、目前にうごめく筋肉の塊が身じろぎをするたびに、原始的な恐怖が彼女を襲った。そのうえ、この状況にうろたえているのは彼女だけではなかった。

「嘘でしょ」

「え?」

 見れば、霊夢は山と見まごうばかりの鬼を見上げて呆然と立ち尽くしていた。

 なぜだ。この人は妖怪退治に慣れているのではなかったのか。だからこそ伊織の盾になってくれるのではないのか。

「霊夢、さん?」

「何で、こんな、大きいなんて……」

 しかしその当惑も一瞬だった。

 まなじりを決した霊夢は、どこから取り出したのか指と指の間に幾枚ものおふだを挟み、腕の一振りでそれらを空にばらまくと、一息で鬼の背中まで跳躍、ぴたりと空中で静止した。

 両手を組み合わせ印を結び、そっと目を閉じてから口中に呪文を唱えると、ばらばらに宙を漂っていた呪符が光り輝き、鎖のように連なって、鬼の周りを幾重にも取り巻き始めた。

 ことここに至って、ようやく鬼は自分がただならぬ異変の渦中にいると気づいたらしい。巨体に似合わぬ俊敏な動きで辺りをきょろきょろと見回し、背後を振り返ったその視線の先に、霊夢の姿を発見する。ただでさえ強力な眼光がいっそうその輝きを増し、伊織は全身を虫が這い回るような怖気おぞけにさいなまれた。

「……うっ」

 醜悪なその面相を、伊織は直視することができなかった。大きく腫れ上がった顔面に人の面影はなく、口の端からしたたる唾液は川面に落ちるたびにおぞましい煙をあげ、鼻をく悪臭を周囲にもたらす。あの口に呑まれれば、おそらく噛み砕かれるより先にその瘴気でやられてしまうだろう。霊夢はあの近距離にいながらよく耐えられるものだ。

「がんばってください、霊夢さん」

 伊織はただ自分が死なないことで精一杯だった。安全圏から霊夢の無事を祈ることしかできない。飛び出しても邪魔になるだけとはいえ、あまりに歯がゆい立場だった。

 鬼神は、霊夢をその視界にとらえると、ただでさえ醜い顔をさらに醜く歪めて笑った。羽虫風情が、みすみす命を捨てに来おったわ。かの鬼に人の言葉が操れたなら、必ずやそう言ったに違いない。

 霊夢の詠唱は続く。薄雲が、満月をその背中に隠した。

 いつ鬼の拳が飛んでもおかしくはない状況で、彼女はその目を開くことすらしない。時間の経過とともに光の鎖はその数を増し、すでに鬼の身体の半分以上が、球状の網と化した光の束に包まれていた。

 月光を失った宵闇の中で、霊夢の術だけが地上に降りた月のごとく煌々と、その輝きを失わない。

 やがて呪文の声がひっそりとやみ、同時に中天の空から再び満月が姿を現した。幻想郷に仮初めの沈黙が降りるも、すぐさま続く霊夢の声にかき消される。

 それは、裂帛の気合を声に託した、霊夢渾身の叫びだった。

「夢想封印!」

 光の渦が急速に回転を速め、その内から伸びかけていた鬼の腕をも巻き込んで、大爆発を巻き起こした。

「ああっ!」

 鬼を中心とした全方位に、水しぶきをはらんだ強大な爆風が吹き荒れる。渓谷は爆煙と瓦礫のちまたと化し、おのが身をかばう間もなく伊織は吹き飛ばされた。崖に張り出した茂みに叩きつけられることでどうにかことなきを得たが、これが岩肌だったなら自体はより深刻だったに違いない。

「ケホ、コホッ……れ、霊夢さん……」

 背中を襲う鈍痛に顔をしかめつつ、伊織は霊夢の名を呼んだ。何せあれだけの爆発だ。さしもの鬼も倒れただろうが霊夢だって無事ではすまないはず。助けなければ。

 煙は一向に晴れてくれない。ゼロに近い視界の中、伊織は水しぶきを蹴立てつつ懸命に歩く。

「霊夢さん……くそ、この煙さえなければ……」

 伊織が悪態をついた、まさにその時だった。

 鼓膜も破れんばかりの雄たけびが、伊織の間近でさながら暴風のごとく轟いた。そのあまりに強大すぎる声は物質的な風をも巻き起こし、川原に立ち込めていた濃霧のすべてを空の彼方に吹き散らしてゆく。

 唐突に視界が開け、伊織はそこに、信じがたい悪夢の具現を見た。

「う、嘘だ……」

 鬼神は、雲をかすめんばかりの巨体を揺らし、その背後に月を隠して、伊織の小さな身体を睥睨へいげいしていた。彼我の間合いは三メートルにも満たない。手を伸ばせば届く距離に、四肢を持った恐怖が君臨する。伊織は今にも気を失いそうになりながら、必死で生存の糸を手繰り寄せようと試みた。

「あ、あ、うあ……」

 助けを求めようとして言葉にならず、逃げようとして腰が抜ける。見たくないはずなのに、視界をいっぱいに満たす鬼の姿から逃れられない。

「伊織! 走って!」

「……ぇ?」

 声は、鬼の手元から聞こえた。

 焦点の合わない目を必死で動かし、伊織はその握られた右の拳に、

「れ、霊夢さん!」

「早く! このままじゃふたりとも助からない!」

 悲痛な叫び声が響く。霊夢は自身も鬼の手に囚われた状態で、しかし懸命に伊織を逃がそうとしていた。

「そんな……何で、霊夢さん……」

 このまま霊夢を置いて逃げる?

 そんなこと、できるはずがなかった。

 あんな女のことなんて知るか、早く逃げろ、逃げてしまえ――伊織の本能は言う。確かにそれが最善策だ。たとえ自分がこの場に残ったところで、霊夢を助けて自分も逃げるなんてことはできない。誰に祈ろうともその結果は変わらない。神様なんて偶像で、ヒロイズムなんて空想だ。

 しかしいざ自分を逃がそうにも、この身体は少しも動いてくれないのだった。

「何してるのよ! 早く逃げなさい! 伊織!」

「はは……駄目です霊夢さん。身体が、身体が動かなくて……」

 霊夢の瞳が絶望の色に染まった。

 ああ、もうおしまいだ。ゲームオーバーだ。このまま鬼に食われるか、あるいは身体を握りつぶされるかして、自分は死んでしまうのだ。

 鬼の左手が、伊織に伸びた。

「あ、ああ……」

 情けない声が口から漏れた。何だよ、せっかく刀なんか差したって、全然武士っぽくない。こんな情けない最期ってあるか――、

 ――刀?

 伊織はちらと自身の腰に目をやる。

 黒漆の鞘に収まった、夜の闇より黒い刀。博麗神社の境内の、その茂みに落ちていた本物の剣。

 いざとなれば護身用に使えるかもしれない。そう考えて身につけた真剣。護身とは身を守るということ。

 その「身を守る時」というのは、まさに今なのではないのか。

「……!」

 伊織の脳裏を冷たい風が吹き抜け、刹那、その瞳に紫電が宿り――、

 白銀の光が閃いた。

 霊夢の瞳がその輝きを捉えた時には、すでに、鬼の左腕が肘の先から消失していた。

 鬼の絶叫が響く。赤黒い血が周囲に撒き散らされ、川面に無数の波紋が生まれる。

 鬼神は、おのれの身に起きた異変をいまだ測りかねていた。なぜだ、なぜ腕がない。

 している間に、二度目の激痛が鬼を襲った。

 今度は叫び声も出なかった。轟音を立てて水面に落ちる自分の右腕を、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。

 これはそも、誰の仕業か。

 その答えを示すのは、自身の正面に立つ、あまりにも小さい人間の姿だった。

「…………」

 伊織は、先ほどまでの志野崎伊織ではすでになかった。だらりと下ろされた右腕に血塗られた刀身を持ち、眼前に立つ巨体を決然と見上げ、静かなる殺意をその瞳に燃やしている。

 射るようなその視線に、知らず鬼の全身が震えた。それは、無敗の妖怪だった名もなき鬼が、初めてその身に感じた等身大の恐怖だった。

「…………」

 伊織は極めて無駄のない所作で刀を切り払い、汚れた血を飛ばすと、輝くその刀身を元の鞘に収めた。

 やがて、ゆらりと向き直った伊織は、ひと睨みで鬼をその場に釘付けにしてから、巨腕ともども水中に倒れ伏す霊夢に駆け寄った。

「霊夢さん、私です、伊織です。わかりますか」

 目を閉じていた霊夢は、伊織の三度目の呼びかけでようやく薄目を開けた。

「いお……り?」

「もう大丈夫です。私が鬼を倒します。さあ、安全なところに」

「……ありが、」

 霊夢はそこで気を失ってしまった。最低限息が確かであることだけを確認して、伊織は霊夢の身体を抱き上げ、川岸に運んだ。

「さて」

 伊織は再度鬼を振り返り、しかし次の瞬間には、弾丸よろしく飛び出していた。

 もはや、刀を使う必要はなかった。

 水面を薙ぐ風よりも速く伊織は疾駆し、とっさに身構えた鬼の腹に肉薄、渾身の拳を疾走の勢いそのままに叩き込んだ。

 鬼は、すでに力山を抜く怪物ではなかった。紫から受け継いだ力を発揮した伊織の前では、風に舞う木の葉ほどの働きも見せることができなかった。

 地響きにも似た轟音が鳴り響き、鬼の身体がなすすべなく宙に浮く。口からは滝のような血をこぼし、驚愕に目を見開きながら遥か向こう岸まで吹き飛ばされ、背中から崖に突っ込み、崩れゆく大岩に埋まって動かなくなった。

 しかし伊織の反撃は止まなかった。鬼が瓦礫の海から身を起こした時には、すでにその鼻先にまで彼女の跳躍が迫っていた。

 伊織は跳躍の勢いを殺さぬままにその場でくるりと一回転し、月光にその髪を躍らせながら、振り向きざま、必殺の飛び蹴りを鬼の眼球に見舞った。

 汚い悲鳴が上がる。

 膝まで食い込んだ足を無理矢理引き抜き、伊織はひらりと地面に着地すると、今度は大木の幹ほどもある鬼の右脚を抱えて強引に振り回した。

 鬼の身体をうずめていた岩がいっぺんに吹き飛ばされ、中からボロボロの巨体が再び姿を現す。しかしてそれは彼の意思にあらず。もはや赤子同然の扱いで鬼は無防備に空へと投げ上げられてしまう。

 もちろん、それで追撃が止むわけもない。

 仰向けの姿勢で宙を舞う鬼の、さらにその高度を上回る高さまで伊織は跳び上がり、眼下に広がるその腹部を見据え、全身を車輪のように回転させ始めた。

 その大変な回転速度は、冗談めいた彼女の筋力ゆえになせるわざだったが、果たしてその回転の先端に当たる両足は、すでに鋭利な刃物と同義だった。

 なすすべのない落下のさなか、鬼はようやく目を覚まし、残された片方の目でその処刑道具を認めた。

 両腕と片目をつぶされ、身を隠す何物も存在しない夜空で、彼は最期の雄たけびをあげた。

 次の瞬間、夜風を切り裂かんばかりに加速した大回転の刃先が、鬼の胴体を真っ二つに両断せしめた。

 伊織はさながら堕落した天女のごとく地面に降り立ち、次いで落下した鬼の死骸の断末魔を、背中に聞く。

 静寂が帰ってくる。

 元々黒かったはずの着衣は、浴びに浴びた鬼の返り血によって、真紅の色に染まっていた。

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