珈琲は至福?
毎朝通っているコーヒーショップ。チェーン店のような入りやすい感じのお店なんだけど、そのレベル以上に美味しい珈琲。出勤前にひとときの癒しを求めるために通ってる。
ここのマスターは直視したら目が潰れちゃうんじゃないかってくらいのイケメン。白いシャツに、細い腰に巻いたカフェエプロン、髪の毛は染めているのか明るい茶色で流してる。たれ目が可愛いんだけど、でも可愛らしい訳ではなくて男の色気を駄々もれにさせてる。彼を見るのはもうかれこれ5年くらい彼氏のいない私にとって、女性ホルモンを噴出させるための朝の儀式みたいなものだ。
こっそり盗み見るくらいしかできないけどね。
いつもの少し離れたテーブル席は、近すぎずかといって遠すぎずにマスターをこっそりと見ることができる。こんなに素敵なマスターがいるにも関わらず、人がまばらにしかいないこともここに良く来ている理由かも知れない。若い子ばかりだと来づらいし、何より肉食系女子が怖いから。
「美味し~い」
ほっと一息。
今日もここのおすすめ珈琲は美味しい。ここのを飲みはじめてから他のコーヒーショップには入れなくなってしまった。そのくらい美味しい。しかも値段も懐に優しい。
「いつもありがとうございます」
ほっと気を抜いているとマスターの尊顔が!!目の前にあった。頭の中を駆け巡るのは某アニメの「目が~!目が~!」だ。顔に出てないか不安になる。
「いえいえ、こちらこそいつも美味しい珈琲をありがとうございます」
「そう言っていただけると嬉しいです。渡辺さま」
……あれ?私、名前名乗ったことあったかな?
「以前、お連れさまにそう呼ばれてましたよ」
連れ?誰かと一緒に来たことなんてあったかな。まぁ通いはじめて長いからそんなこともあったかな。それにしてもどんな記憶力だろう。私が特別とか?いや、まさかね。
「そう思っていただいて宜しいですよ」
「マスターは心を読めるんですか!?」
「顔に全部出てますよ」
きめ細かい肌が目の前で眩しいです。毛穴なんて見えません。羨ましい!!いやいや、現実逃避はいかん。そんなに分かりやすいんだろうか…
「からかうの止めてください」
「おや、そうとられてしまいましたか。残念です」
くすくすと笑いながら、去っていくそのお尻も大好物です。ごちそうさまです。
全部飲み干して、気合いを入れたらもう出勤の時間だ。今日はマスターと話が出来たから良い一日になりそう。とうきうきしながらお店をでた。
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彼女が見えなくなると同時に店は閉店する。
周囲を固めていたSP や店員に扮していた者達が一斉に動きだし、作業を進めた。
「今日も可愛らしいですね、佳奈子」
渡辺佳奈子、それが彼女の名前だ。はじめて見たときから、私を捕らえて離さない魅力的な女性。
「そろそろマスターと客から進めましょうか」
彼女との逢瀬のために、彼女好みの珈琲店を作り上げた。もうそろそろ次の段階にうつっても良いだろう。
「ちょっとしたスパイスも必要ですね」
コーヒーショップの偽装を外し、そこにコーヒーショップが存在しなかったようにして消える。どうしたのか不思議に思って、ショックを受けているうちに、別の服装と別の肩書きとで彼女に出逢いましょう。
「楽しみですね」
直接会えなくても、部屋の中も会社の中も移動中も見ていてあげますからね。
そして気づいた時は彼女は私のもの。