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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第99話「M2-5」

 さて、食事も終わったところで、今回『ダイオークス製塩所』にやってきた目的である製塩所部分の視察と言う事になった。


「さ、ここからが製塩所だよ」

 と言うわけで、エントランスまで来た道を引き返し、検問所を兼ねたエアロックで念のための身体検査を受けた後に、俺たちは製塩所に足を踏み入れた。


「と言っても、私たちが行けるのは見学用の通路内だけだがな」

「素人が立ち行ったら危ないと言うか、迷惑だろうしねー」

「こればかりはねー」

「まあ、しょうがないよな」

「うんまあ、そうなんだけどね」

 と言っても、俺たちが今居るのは実際に塩を作るための機材が多数並んでいる区画では無く、透明な窓ガラスによって各区画が覗けるようになっている見学用の通路なわけだが。

 まあ、これについては仕方があるまい。

 窓ガラスの向こうで働いている人たちは、普段トトリたちが着ているのと同じくらいしっかりとした防護服を着込んだ状態で、機材を動かしているし、機材の中には明らかに高温を発しているようなものもあった。

 それはつまり、前者はこの窓ガラスの向こうでは瘴気が発生している可能性が有る事を、後者は素人が無闇に立ち行った場合、大事故につながる可能性があると言う事である。


「ちょっと残念ではあるけどね」

「ま、そこは納得してもらうしかないね」

 と言うわけで、セブなんかは若干残念そうにしているが、俺たちが立ち入れないのは当然の事なのであった。


「さて、ワンス。そろそろ説明をしてもらっていいか?」

「ん、ああ。そうだね。では……」

 で、立ち入れない事に納得がいったところで、ワンスによる製塩所の仕組みに関しての説明が始まる。


「ここ『ダイオークス製塩所』では、海水を煮詰める事によって塩を作っている。この海水を煮詰めて塩を作ると言う方法そのものに関しては、世界が瘴気に覆われる以前から変わっていない点だね」

「ふむふむ」

 どうやら、塩の作り方そのものは、俺たちの世界とそこまで差は無いらしい。


「ただ機材に関しては、大昔と違って、今は各種瘴金属を利用している。あそこの海水を煮詰める釜なんかが良い例だね」

「そうなんだ」

 ワンスが指さした先には、白い煙に混ざって時折薄桃色の煙を上げている釜が在った。

 此処からでは釜の中身や詳細は見えないが、どうやら高熱を発する瘴金属を利用して、海水を煮詰めているらしい。


「瘴気が混ざっている海水を煮詰めて、危なくは無いのか?」

「最初に粗方の瘴気を抜いた上に、作業員は全員防護服を着用するように義務付けられてる。それに、蒸発した水分に混ざって出た瘴気は、ファンを使ってすぐさま外に放出するか、各種機材にエネルギー源として吸収、消費されているから問題は無いよ」

「なるほど。良く考えられているんだな」

「でないと、危なくてやってられないからねぇ」

 俺たちは塩づくりの手順を解説されながら、ゆっくり通路を進む。

 そして、通路を歩きながら、ワンスがシーザさんの質問に答えつつ指さした先では、何処かからか汲み上げられた海水が、金属製と思しき大量の細い柱の間をゆっくりと流れていた。

 アレが粗方の瘴気を抜くための設備か?


「アレが海水から瘴気を抜くと同時に、製塩所内で使用している電気の一部を生み出している装置だよ」

「へー」

 どうやら俺の想像は半分ほど当たりだったらしい。

 まさか発電設備も兼ねているとは……うーん。

 ちなみに、ワンスによると、ダイオークスの各塔で使われている瘴気発電は、あの装置を大型化した物だそうで、基本的な構造に関しては、瘴気が抜けた後の媒体をどうするか以外にはさほど差が無いそうだ。


「で、実を言えば、この製塩所で一番大事なのはこの先のエリアだね」

「ん?」

「どういう事?」

「見れば分かるよ」

 そう言うと、ワンスは今までのエリアからは完璧に隔離されている……出来上がった塩が次々に運び込まれていく次のエリアが見える場所にまで移動し、俺たちもそれに付いて行く。


「これは……?」

 そうして移動した先で俺たちが見たのは、出来上がった塩を再び水に溶かしたり、火で炙ったり、よく分からない機材の中に入れたりしている光景だった。


「ここは出来上がった塩から完璧に瘴気を抜くためのエリアだね」

「瘴気を抜く?」

「ああ。さっきまでの工程だけだと、出来上がった塩の中には微量に瘴気が含まれているのさ。だから、このエリアでは塩に対して様々な処理を行って、塩の中に微かに残っている瘴気を消費させるのさ。万が一にも、食べ物の中に瘴気が入っていたら、大惨事になるからね」

 ただ言われてみれば当然の処理だった。

 塩は生物ではない。

 故に、瘴気を含んでいても瘴金属などになったりするだけで何の問題も無いが、その塩を食べる俺以外の生物はそうではない。

 もしも瘴気を含んで、瘴金属化している塩を口に含んだら……恐らくは口の中の水分で塩が溶けて瘴液化し、良くて物理的に顎が落ち、最悪の場合は命にも関わるだろう。


「で、こうして出来上がった塩は、次のエリアで厳重にパッケージングされて、ダイオークスに運ばれていくわけだね」

「はー、こんなに手間暇がかかってたんだね」

「四塔合同で運営するのも納得の厳重さになるのも当然の話だな」

「まあ、ダイオークスの方でも、瘴気が混ざっていないかの検査ぐらいはしていると思うけどね」

 俺たち全員が、目の前の光景に心の底から感心し、感謝していた。

 これは確かに、ダイオークス全体で見ても重要な設備と評されるはずだ。

 うーん。俺たちの普段の生活は、こういう人たちの働きによって支えられているんだな……本当に感謝です。


「さ、製塩所についてはこれで終わりだし、エントランスの方に戻ろうか」

「はーい!」

 こうして、俺たちの製塩所視察は終わる事となった。

 さて、出来ればこのスッキリとした気分のまま、ダイオークスに帰りたいんだがなぁ……。

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