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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第98話「M2-4」

「ほー……」

 エアロックを抜けた先は、26番塔第1層のエントランスの様になっていて、職員と思しき人たちが沢山居たほか、モニターには各種情報が表示されているようだった。

 そして、俺たちが通ってきたエアロックに繋がる扉以外にも、複数の扉が各方向にあるようだった。


「ここはエントランスだね。で、あっちのモニターは各塔の第1層のものと同じで、施設内の情報について表示されているのさ」

「つまり、此処から各場所に移動する。と」

「その通りだよ」

 そう言うとワンスは俺たちが入ってきた扉をまず指差す。


「だいたい、こっちの扉から順に、発着場、倉庫、製塩所、インフラ設備、居住区、警備区、整備区って感じだね」

「なるほど」

「へー」

 そして、扉の先に有るであろう施設の名を挙げながら、順々に扉を指差していく。


「ま、とりあえずは上の階の食堂に行こうか。時間も時間だしね。そうだろ、シーザ」

「ん?そう言えば……」

「確かにそろそろ昼の時間ではあるな」

「腹ごしらえは大切だよね。うん」

「どんな料理が出るんだろう?」

 で、一通り名前を挙げ終わったところで、ワンスはシーザさんに時間を確認してもらった上で、先程居住区に繋がっていると言った扉に向かって歩いていく。

 なので、俺たちもワンスに付いて行く。


「さて、ついでだし、居住区についても説明をしておくよ」

 扉の向こうは階段となっており、下から見た限りでは地下一階、地上三階部分にまで、階段は伸びているようだった。


「居住区は、『ダイオークス製塩所』で働く人間が生活をするために必要な諸々が集められた場所だね」

 さて、ワンスの説明によればだ。

 居住区には、人が生活をするために必要な物……食堂、風呂、トイレ、洗濯場が施設の職員共同の物として用意されているほか、一人につき一室の個室が存在し、小規模ではあるが24時間営業の売店も用意されているそうだ。

 おまけに……


「食堂や風呂と言った、共有施設に関しては基本的に無料で利用出来るようになっているから、こっちだと最低限の生活を送る限りはお金がかからないようになっているね」

「凄いなそれ……」

「ほへー……」

 その大半はタダで利用できると言う、至れり尽くせりな感じである。

 ただ、ワンスの言葉に俺とトトリは素直に感心していたのだが、セブとシーザさんは何か思う所が有ったのか、少し悩むような顔をしていた。


「それだけ、塩の売買で儲かっているって言う事かな?」

「周囲に潜む危険も含めたら、これぐらいの施設は妥当な所ではあるか」

「まあ、つまりはそう言う事だね」

「「あー……」」

 そして、二人の口からタダで殆どの施設が利用できる理由が述べられ、俺とトトリは二人の言葉に対して素直に頷く他なかった。

 まあうん、少し考えてみたら、施設の利用をタダにしても問題ない程度に塩の売買が儲かる事も、ダイオークスに比べて幾らか守りが手薄なので、その分だけここが危険なのも、直ぐに分かる事だったね。うん。


「ま、続きは食事を摂ってからにしようか」

「ああ、うん」

 と、食堂に着いたので、ワンスの案内の下、俺たちはそれぞれに食事を選ぶ。

 時間帯的に食堂は混んでいたが、バイキング形式になっているおかげで、俺たちはそれぞれに食べたいものを選ぶことが出来たし、席についても丁度良く開いている席が見つかったので問題は無かった。

 ちなみに、料理の種類については、場所の関係上、生鮮食品を利用したサラダ等は少なめだったが、塩を生かした肉やパン、スープの類は豊富だった。

 で、味はと言えば……


「うん。美味しい」

「やっぱり塩を上手く生かしている感じがするね」

「まあ、塩だけはここで作っている物だからね」

「と言うか、普段ワンスが作っている料理の味にそっくりな気がする」

「言われてみれば確かにそうだな」

 普通に美味しかった。

 まあ、こういう場での食事の上手さってのは、仕事の能率とかにモロに関わって来るそうだからなぁ……美味しいのは当然なのかも。

 ただ、真新しい味と言うわけでは無く、ワンスが調理を担当した時の食事に、味がよく似ている感じがしたので、その事を言ってみたのだが……


「ん?ああ、言ってなかったかい?アタシが料理を習ったのは、ここの料理長からなんだよ。そうでなくとも、この辺のスープとかは、31番塔伝統の物だしね」

「なるほど」

「そうだったんだ」

 どうやら似ている感じがしたのは気のせいでは無かったらしい。

 微妙に耳の辺りを赤くしながら、嬉しそうにしているワンスからそんな答えが返ってきた。


「ボソッ……(あれがハル・ハノイか)」

「ん?」

 と、不意に俺の耳が誰かの呟きのような物を捉える。

 どうやら、食堂に集まっている誰かが俺の事を噂しているらしい。


「ボソッ……(ワンス様の惚れた男かぁ……)」

「ボソッ……(となると、それだけ強いって事か)」

「ボソッ……(顔で惚れたってわけじゃなさそうだもんね)」

「どうしたんだい?ハル」

「ボソッ……(うん。顔だけならソルナ様の圧勝だと思う)」

「ボソッ……(瘴気の無効化だけじゃ、惚れる理由としては弱いもんね)」

「ボソッ……(ワンス様だしな)」

「いや、何でもない」

 ふうむ……やはりワンスの実家が有る31番塔が関わっているだけあって、ワンスの事を知っている人間が結構居るみたいだな。

 おまけに、その大半がワンスの事を慕っているようだ。

 まあ、慕われているのなら、悪い事ではないかな。

 俺に対して敵意を向けてくるわけでもないみたいだし。


「そうかい。ならいいけど」

「うんうん。何の問題も無い」

 そうして、俺たちは心行くまで食事を堪能させてもらうのだった。

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