第97話「M2-3」
『発着場内の安全を確認しました。どうぞお外へ』
「分かりました」
俺たちを乗せたキャリアーは、ダイオークスに有る物と同じでエアロックになっているゲートを抜けると、発着場と呼ばれている全面コンクリート張りの駐車場の様になっている場所で停車した。
そして、護衛の人たちが先に降りて、発着場の中に不審者や危険物が無い事を確認した後に、俺たちは装備を外し、シーザさんを先頭としてキャリアーを降りる。
「さて、当然と言えば当然の話ではあるけれど。今回はアタシが案内役を務めさせてもらうよ」
「よろしく。ワンス」
「ありがとう。ワンス」
「ああ、任せておきな」
ワンスは腰に左手を、胸に右手を当てると、胸を張りながら自信満々な顔つきでそう言う。
で、その間に護衛の人たちはシーザさんと二、三、会話をし、その後は俺たちの視界から外れた何処かへと向かって消えてしまっていた。
恐らくは俺たちに余計なプレッシャーがかからないようにと、影から護衛をしてくれているのだろう。
「じゃあ、早速だけど、まずはこの製塩所に関する簡単な説明からだね」
まずはワンスによる、この製塩所の説明が始まる。
「事前の説明にもあったと思うけど、ここ『ダイオークス製塩所』はダイオークス内では生産しきれない物資の一つである、塩を生産するために作られた施設になる」
「ふむふむ」
「勿論、本来ならダイオークス内で塩を回収する事も可能ではある。けれど、その方法は非常に手間暇とコストがかかると言う事で、ダイオークスの場合は近くに海が有った事もあり、この製塩所が作られたのさ」
「なるほど」
「で、この施設は31番塔から34番塔の四塔で共同運営されているのだけれど、わざわざそうしている理由は単純で、塩の生産を一つの塔が独占する事によって、その塔だけが力を持ち過ぎないようにするための措置だね」
「まあ、塩が無いと僕たちみんな生きていけないもんねー」
「それで後は……まあ、実物を見ながら、順々に説明した方が良いね」
「そうだな。それがいいだろう」
『ダイオークス製塩所』に関する基本的な説明が終わったところで、ワンスがゆっくりと歩きだし、俺たちもワンスの後ろに着く形でゆっくり歩きだす。
なお、視察をするのは俺とトトリの二人と言う事になっているが、セブの歩き方がウキウキとした物になっている事や、シーザさんの纏っている雰囲気がソワソワとした物になっている事からして、二人も『ダイオークス製塩所』に対して結構な興味が有るらしい。
まあ、一般には公開されていないそうだから、当然と言えば当然か。
「じゃ、施設について順々に説明していくよ。まずはアタシたちが今居るここ。発着場についてだ」
「お願いしまーす!」
発着場の真ん中あたりに着いたところで、ワンスが立ち止まる。
「発着場は見ての通り、外からやってきたキャリアーが停車するための空間だね。でもそれだけじゃなくてだ」
そう言ってワンスは、俺たちが乗って来たのではない、この施設内で働いている人たちが使っていると思しき、ちょっと形式の違うキャリアーたちが集まっている方を指差す。
で、そちらの方をよくよく見てみると、キャリアーの背後では足場が一段高くなっており、赤と青、二色のシャッターが降ろされているようだった。
また、シャッター群の脇には、緑色の小さな扉も一つだけ存在していた。
「ここは、ダイオークスから持ってきた物資を倉庫の中に移す為の場であり、倉庫の中に置かれている塩をキャリアーに積み込むための場でもあるのさ。ちなみに人は脇にある緑色の扉から、施設内に入ることになっているよ」
「へー……」
なるほど。
要するに、あのキャリアーたちは物を運ぶことに特化して作られたもので、ダイオークスから来る際には施設内で必要な物……食料や機械の部品を運び、ダイオークスに帰る際には塩や施設内で不要になった物を運ぶことになっている。
で、この発着場は積み荷の入れ替えをしやすくするために、こういう構造になっているのか。
となるとアレだな。
たぶん、俺たちのキャリアーが停められている辺りは人を運ぶ用のキャリアーが停まるスペースなんだろう。
あの倉庫に繋がるシャッター前の場所に停めるのは、邪魔なだけだし。
「じゃ、あっちの扉から施設の中に入るよ。全員、アタシについてきな」
「分かった」
ワンスの先導で俺たちは緑色の小さな扉の方に歩いて行き、多少力を込めた様なワンスの動作によって扉が開けられる。
「全員入ってくれ。万が一に備えて、ここもエアロックになっている関係で、後ろの扉が閉まらないと、前の扉が開かないようになっているのさ」
「あ、そうなんだ」
扉の向こうは壁に脱瘴機構が付けられているだけで、後は窓も何も無い簡素で短い通路だった。
そして、ワンスの説明を受けてから入ってきた扉の方を良く見てみたら、確かに普通のドアとは違って、完全に空気を密閉できるようになっており、開閉には多少の力が要るようになっていた。
なるほど。これで万が一、発着場まで瘴気が来てしまっても、対抗策が打てると言うわけか。
よく考えられているな。
「閉めたね。それじゃあ、前の扉を開けるよ」
やがて、シーザさんの手によって後ろの扉が完全に閉められ、ワンスの手によって前の扉が開けれ、俺たちはワンスに続いて施設の中へと入っていった。