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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第96話「M2-2」

 俺たちを乗せたキャリアーは濃い瘴気の中をゆっくりと慎重に走っていく。

 この速度だと、視察する施設に着くまではそれなりの時間がかかるだろうな。


「それにしても凄いね」

「何がだい?トトリ」

 と、ここでトトリが、キャリアーの周囲の風景を映し出している複数のカメラの映像を見ながら呟き始める。


「いや、この辺り……と言うか、私たちが今走っている道路は、他の道路に比べてしっかりと整備されているなぁ……って、思ったの」

「あ、それは俺もそう思った」

「ああ、その事かい」

 その内容は、俺たちが今走っている道の様子についてだった。

 実際、俺たちが以前に行った事のあるNWWゲート前の旧市街の道路に比べて、此処の道路の作りはかなりしっかりとしている。

 まず、道路の脇には瘴気を動力とした照明が設置されており、どれだけ瘴気が深くても道が分かるようになっている。

 加えて、道路の左右の建物はその殆どがしっかりと解体されており、これならばミアズマントが住み付く事も無いだろうし、老朽化した建物が崩れて道路を塞いだりすると言った危険がそもそも発生しないようになっていた。

 おまけに道路そのものもきちんと整理されているようで、大きな凹凸はおろか、小石すら殆ど転がっていないようだった。


「そりゃあ、あっちの旧市街の道路や周りの脇道と違って、ここの道路は日常的に使われている道路の一本だからね。優先的に整備も行われているさ」

「そう言えば、此処と同じ施設に繋がる二本の道路。計三本の道路は、ダイオークスが出来上がり、瘴気が世界中を覆い始めて間もないころから、優先的に大規模な整備をされていたと聞いているな」

「あ、それは僕も聞いたことが有ります。どうにも、南北の他の都市に繋がる陸路と一緒で、ダイオークス全体にとって重要な道路として昔から扱われているって」

「へー……」

「そんなに重要視されているんだ」

 で、どうしてそこまでしっかりとした整備がされているかと言えば、やはり他の道路と比べて重要だかららしい。

 まあ、これから向かう施設で作られている物の重要性を考えれば納得か。

 一応、その気になればダイオークスの中でもそれを回す事自体は出来るのだろうけど、この先の施設で作るのに比べて、明らかに手間暇がかかるだろうしな。


「と、ここが襲撃が起きる予定の場所だよ」

「「「……」」」

 ワンスの言葉に対して、俺たちは全員、緊張で体を一瞬強張らせる。

 そこは、モニターを見る限りでは解体途中の大きな建物が何棟も立ち並んでいる場所のようだった。

 なるほど。

 確かに今までの場所に比べれば物陰も多く、身を潜め、奇襲を仕掛けるのに適していそうな場所ではあるな。


「「「…………」」」

「やはり行きは何も起きないようだな」

「まあ、そうだろうね」

 しかし、だがと言うべきか、当然と言うべきかは分からないが、とにかく俺たちのキャリアーがその場所を抜けるまでの間、何かが起きることは無かった。

 どうやら、奴らは俺たちの行きには間に合わなかったらしい。


「ふぅ……それにしてもさ。ワンス、どうしてあの建物だけは解体されて無いの?」

「アタシも詳しくは知らないけど、あの辺りの建物だけ他の建物に比べて妙に頑丈で、解体業専用の瘴巨人を使っても中々解体出来ないから、放置と言う形になっているらしいよ」

「頑丈……か。モニターで見た感じでは、普通のコンクリート製の建物のようだったが……」

「うーん、構造の問題なのかな?」

「とりあえず、瘴気の影響をもろに受けている事だけは確かだな」

 それにしても、解体業専用の瘴巨人を使っても解体出来ない建物とは……一体どれだけ頑丈なんだ?

 普通の瘴巨人でも、下手な重機よりも高出力だと思うんだがなぁ……。

 どういう理由で、そこまで頑丈になっているのかが気になるところではあるな。


「そう言えば、僕も一つ気になった事が有るんだけどさ。こんなに重要な道路なら、どうしてトンネルとかにして、もっと走りやすい形にしなかったの?」

「そう言う計画が持ち上がった事は実際に有ったらしいよ。ただ、瘴気による視界不良を無くして輸送効率を向上させる効果以上に、ミアズマントなどの各種要因によってトンネルが破壊された際に生じる問題によるデメリットが大き過ぎて、廃案と言う事になったらしいね」

「あー、確かに。トンネルが壊されて、そこから大量の瘴気とミアズマントが入ってきたら、大惨事確定になるか」

「逃げ道も無ければ、機動力を生かすって手法を取れなくなっちゃうもんね」

「ついでに言えば、さっきの建物のように、解体出来ない建物が有ると言うのも、トンネル建設にあたっては問題になるだろうな」

 で、どうやらここの道路の形は、周囲の環境も合わせて考えると、今の形が一種の理想形であるらしい。

 実際、殆ど左右への逃げ場がないトンネルの中で、鹿王のように優れた突進能力を持つ敵と戦えとか言われたら……うん。俺だったら絶対に御免こうむる。


「さて、そろそろ見えて来る事だね」

「ん?そう言えば……」

 と、ワンスの言葉に合せる様に、モニターの中から微かに潮の音が聞こえてくるのを俺の耳は捉え、それと同時に、キャリアー前方を映すモニターに、大きな建物の影が映り込んでいるのが見えてくる。


「あれが……」

「そう。あれが今回、ハルとトトリの二人に見てもらう施設」

 やがて、俺たちを乗せたキャリアーは建物に近づき、建物の姿がはっきりとしてくる。

 建物は海に面した場所に建てられており、今でははっきりと潮の満ち引きの音が聞こえる様になっていた。

 屋上から伸びる複数の煙突からは、若干白みがかった湯気のような瘴気が立ち昇っていた。

 そうここは、人が生きるために絶対必要な物の一つ……


「『ダイオークス製塩所』だよ!」

 塩を作るための施設である。

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