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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
95/343

第95話「M2-1」

 22番塔の視察から一週間後。

 俺たちはダイオークスの東北東、31番塔と32番塔の間にあるNEEゲートに、セブの運転する今回の任務のために用意された特別製のキャリアーでやって来ていた。


『NEEゲート管理局より、本日のダイオークス外部の情報をお伝えします』

「さて、改めて今回の任務について説明しておこう」

 キャリアー内に居るのは俺、トトリ、ワンス、セブ、シーザさんの五人。

 ただし、キャリアーの中且つ、まだダイオークスの外に出ていないにも関わらず、運転席に座っているセブ含めて俺たち五人は防護服を完全に装着している。

 なお、今回は任務内容の関係で『テンテスツ』は積まれていない。


『本日の天候は曇り。降水確率は10%。まず雨は降りませんが、キャリアーから遠く離れたりはせずに、天候が悪化する気配を感じたら、素直にキャリアーへ戻りましょう』

「今回の任務は二つ。一つは31番塔が管理する施設の視察。これについては向こうに着いた後、素直に向こうの案内に従って見て回り、それぞれがそれぞれに見識を深めればいいだろう」

 そして、その状態でシーザさんが今回の任務について改めて説明をする。


『視界は不良。ダイオークス周辺でおよそ30m程となります。キャリアーの運転は速度を出さず、安全第一で行きましょう』

「もう一つは、31番塔の施設へ向かう、またはその帰路に襲ってくるであろう聖陽教会・自殺派の連中への対処だ」

「「「……」」」

 シーザさんの説明にキャリアー内に居る全員の顔に緊張の色が浮かび上がる。

 だがそれも当然だ。

 この二つ目の任務の為に、俺たちは今の時点から完全武装をする必要が発生しているのだし、そんな必要が発生する程度には大きい脅威が確認されているのだから。


『ニュースです。本日……』

「もう連中は動いているんだね」

「ああ、私たちのキャリアーが26番塔から出るのと同時に、奴らがダイオークスの外に向かって武装した状態で動き出したと言う報告を受け取っている。尤も、奴らの有する移動手段からして、狙うのはほぼ間違いなく帰路だそうだがな」

 奴らの名前は聖陽教会・殲滅派の中でも異端に属する通称聖陽教会・自殺派。

 装備は携行の対戦車砲……要するにバズーカ砲で、その他は小火器のみ。

 キャリアーのような高速移動手段も無い。


「でも、油断は禁物……と」

「そうだ。私たちの想像の埒外にある手段でもって、行きに襲ってくる可能性は否めないし、ミアズマントが襲ってくる可能性も十分にある」

 ただ……と、シーザさんは一度言葉を区切った上で、話を続ける。


「あくまでも私たちの役目は自分たちの身を守る事であって、襲ってきた連中を仕留めたり、捕えたりすることは役目ではない。むしろ、よほどの状況でない限りはそんな行動は間違ってもするな」

「つまり、僕たちは護衛をされる側であって、護衛の人たちよりも前に出てはいけない。と言う事ですか?」

「セブの言うとおりだ。私たちを護衛し、私たちに敵対するものを抑えるのは、31番塔と26番塔が今回の為に選出し、私たちに同行させるか、予め周囲に潜ませておいた人員の仕事であり、今回の私たちがするべき仕事ではない」

 シーザさんはそう言い切ると、一度俺たち全員の顔を見回し、俺たちもそんなシーザさんの言葉に応える様にしっかりと頷く。

 ただ、一つ確認しておくことが有るな。


「シーザさん。一ついいですか?」

「なんだ?」

「万が一、シーザさんの言う所のよほどの状況に陥ったら……その時は俺もやっていいんですよね?」

「やれるならな」

 シーザさんの言葉は、言外に俺の主張を認めるものだった。

 だが同時にこうも言っている。


『お前に人が殺せるのか?』


 と。

 シーザさんの疑念は当然の物ではあるだろう。

 殺人に忌避感を抱くのは当然で、シーザさんも含めて、この場に居る誰一人として、人と戦った事は有っても、人を殺めた事などないのだから。


「……」

 俺は黙って、自分の顔の前で両手を掌を上にした状態で何度か開け閉めする。

 そして、頭の中で万が一の時の事を想像し……理解をする。

 少なくとも、以前のショッピングモールで襲ってきたような奴らならば、俺は躊躇いなく殺せるであろう事実を。


「「…………」」

「ん?」

「ふん」

 俺は他の皆の顔を見る。

 そうだな……顔色を見る限りではあるけれど、ワンスとシーザさんはたぶん俺の側だ。

 で、トトリとセブは出来ない側だろう。


「心配しなくても、この人員でそんな万が一が起こるとは思えないがな」

 尤も、この件については出来ない側だからと言って、トトリとセブを責める気にはならない。

 出来ない側が普通なのだろうし、そもそもそんな事態に陥ると決まったわけでもないのだから。

 俺たちのキャリアーを囲うように停まっている、護衛の人たちのキャリアーを見回すように言ったシーザさんの台詞も、似たような思いからだろう。


『間もなく内門を閉鎖します。危険ですので、内門からは御離れ下さい』

『内門の閉鎖を確認。ゲート内に居る各員は、瘴気対策に問題が無い事を改めて確認してください』

 やがて、背後のゲートが大きな音を立てながら閉まっていく。


『ゲート内全人員の準備完了を確認。外門を開放します』

「さて、そろそろ時間だ。全員、移動中も気を抜かないように」

「はい」

「分かりました」

「分かってるよ」

「分かってます」

 前方のゲートがゆっくりと開き出すと同時に濃密な瘴気がゲートの中に流れ込んでくる。


『では、皆様が無事に任務を達成されることをお祈りしております』

『出発します。ついて来てください』

「はい。分かりました」

 そして、ゲートが完全に開ききったところで、俺たちを乗せたキャリアーはゆっくりと走りだした。

05/27誤字訂正

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