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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第90話「異端者-2」

「くそっ、くそっ!くそっ!!オルク・コンダクトめ!サウザス・バルバロめ!」

 ダイオークスの某所、ほぼ全ての照明が落とされたその部屋で、一人の壮齢の男が悪態を吐いていた。

 壮齢の男の首には太陽を模した首飾りが提げられており、衣服にしても太陽をモチーフとした模様が幾つも付けられている豪華な物だった。


「裏でコソコソと何かを話しあっているのは知っていたが、あそこで阿吽の呼吸を合せ、私を貶める為だったか!」

 部屋の中には他にも複数人の傍仕えと思しき男たちが居たが、壮齢の男は彼らの事など気にした様子も無く悪態を吐き続け、傍仕えの男たちは壮齢の男を前にオロオロとする他無かった。


「おのれ!よくも私を謀ってくれたな!もしも我が聖域に化け物共を入れることが出来れば、容易に始末できたと言うのに、それを獣相手に暴れる以外の能が無い分際で……」

「し、司祭様。どうか落ち着いて……」

 やがて、壮齢の男の悪態を止めようと、一人の男が若干怯えながら声を掛けようとする。

 が、しかし。


「黙れ!私に楯突く暇が有るのなら、奴らを始末するための策の一つでも、提示しろ!」

「も、申し訳ありません……がっ!?」

 男の行動は、壮齢の男の怒りを買うだけであり、声を掛けた男は激しく叱責され、拳も振るわれる。

 その行動に、周囲の男たちは更に怯えの色を強くする。


「ああそうだ。策だ!今必要なのは、奴らを……化け物どもを!その化け物を庇護する異端者どもを!奴らをこの世から消し去るための策だ!貴様等何か無いのか!?」

「さ、策ですか……」

「そ、それは……」

 そして発せられた壮齢の男の言葉に、他の男たちはお互いに視線を交わしあい、何か手は無いかと必死になって考え始める。

 そうしなければ、今度は自分たちが殴られることが分かっていた為に。

 そんな中だった。


「ひ、一つ策がございます……」

 一人の男が壮齢の男に向けて片手を挙げながら近寄る。


「どのような策だ?話してみろ」

「は、はい」

 その男の登場に、壮齢の男はようやく落ち着きを取り戻して、自らの椅子に腰を掛ける。


「ま、まず、仕掛けるべきは31番塔の視察中だと考えられます」

「ほう。どうしてそう思うのだ」

「今回、化け物とその仲間たちは、22番塔と31番塔の二塔へと視察に行きます。が、22番塔の視察場所は、各塔のインフラ設備並みに警備が厳しい場所です。ここで襲撃を仕掛けるのは、どれだけの人員を費やしても厳しいでしょう」

「つまり消去法か。だが、31番塔の視察中と言っても、何時襲うのだ?」

「そ、それは……」

 壮齢の男の目が鋭さを増す。

 すると、男はその視線にビクリと体を震わせ、怯えの為なのか、二の句を継げなくなってしまう。


「で、では!」

 が、そこで一人の男が口火を切ったおかげなのか、別の男が口を挟み始める。


「26番塔から31番塔に向かう最中はどうでしょうか?移動中は少なからず、警備は緩くなるはずです!」

「いや、そこは駄目だ。26番塔から31番塔に向かう際のルートには、外周十六塔を通る電車と、第1層の回廊を車で行く二つが有るが、どちらのルートを使うかは明かされていない」

「そもそもとして、どちらの道にしてもインフラ設備程ではないが警備が厳重だ。ただでさえ先日の件で戦力が欠けているのだ。戦力が足りない」

「だがもっと警備が手薄で、確実に化け物どもを仕留められる場所と言えば……」

 そして、一人が言葉を発し始めれば、まるで油に火が点いたかのように議論が始まりだし、壮齢の男は議論の様子を険しい顔で睨み続ける。


「結論が出ました。司祭様」

「申してみろ」

 やがて、男たちの議論は幾度かの堂々巡りと言い争いを経て、一応の決着を見せると、男たちの代表が壮齢の男に向けて膝をつき、思いついた策を話し始める。


「まず狙うべきは視察場所であるダイオークス外の施設から31番塔に帰ってくる時です。なにせ、中に比べれば警備は格段に緩く、道が一本しかない上に襲撃に適した場所が存在しておりますし、ダイオークスを前にして若干気も緩みます」

「また、その一本の道にしても日常的に用いられているために、他の地域に比べてミアズマントの数は格別に少なくなっております」

「ですので、条件だけを見るならば、ここで爆発物による襲撃を仕掛けるのが、最も成功する確率が高いと言えます」

「なるほどな。つまりはこういう事か?」

 だが、策が出たにも関わらず、壮齢の男の表情は厳しい物だった。

 何故ならば。


「あのおぞましき瘴気の中で化け物を待ち構え、一撃必殺の手段でもって暗殺をする。と」

「そうです。それ以外に手は有りません!」

「馬鹿者!我々は奴が被っている人の皮も剥がなければならないのだぞ!外でかつ一撃で仕留めてしまえば、それを愚民どもに教える機会も証拠も失われるではないか!」

 男たちの策では、壮齢の男が考える理想からは程遠かったからである。


「ですがこれ以外に手は有りません!」

「そうです!我々にはこの一点を狙う他無いのです!」

「司祭様!今が決断の時でございます!」

 だが男たちもここで退くわけにはいかなかった。

 他のタイミングでは、目標を仕留めるチャンスすらない事が分かっていた為に。


「むぐ……いいだろう。ならばやって見せろ!」

「「「承りました。司祭様!」」」

 男たちの間で激論が交わされる。

 そして、男たちは……踏み出してはならない一歩を踏み出してしまった。

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[気になる点] 自殺派って防護服技術すら否定してませんでしたっけ?(白目)
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