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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第9話「キャリアー-4」

「…………」

 俺は呆然としたまま、ガラスの向こう側の巨大過ぎるダイオークスの影を見つめていた。

 影は瘴気のせいで視界が狭まっている事を加味したとしても大きく、横は間違いなくキロ単位で、縦にしても200mから300m……いや、確実にそれ以上は有った。


「驚きましたか?アレが私たちの拠点ダイオークスです。高さ1000m、直径10kmの円筒形の隔壁でもって瘴気に溢れた外の世界と人々が住む中の世界を完璧に分けると同時に、瘴気を動力源とした発電設備を持ち、ほぼ完全な循環型社会を実現しています」

「1000m!?」

 ニースさんの言葉に俺は思わず叫び声を上げる。

 1000mの壁って……横ならともかく、縦にそんな長さを持つ建物を人間が建てることが出来るのか……この世界の人たちって本当に凄いんだな……。


「ちなみに今年で建築されてから三百年近く経つらしいぞ。にもかかわらず未だに作られた当時の姿と変わらないどころか、壁に綻び一つ無いって言うんだから、当時の建築業者も、設計者であるイヴ・リブラ博士もとんでもないってもんだ」

 訂正。

 俺の想像よりももっとトンデモなかった。

 と言うか、ニースさんの質問に出てたイヴ・リブラって人はこれの設計者だったのか。

 たぶん、英雄とか救世主扱い何だろうなぁ……そりゃあ、知らない方がおかしいと言われるのも納得だ。


「ダスパ。そろそろゲートが見えてくるから対応してくれる?」

「おう、分かった」

 と、壁の根元に、壁から少し出っ張ったような場所と、その中に続いている黒くて四角い穴、それに防護服を着た人間の人影が数人分に、普通の人間の3倍ほどの大きさを持った人影が二人分見えてくる。


『あーあー、そこのキャリアー。こちらはNMMゲート門衛。その場で停車した後、所属と乗員全員の名称を名乗りなさい』

「こちらはダイオークス26番塔外勤第3小隊。私は小隊長のダスパ・クリンだ。他の乗員は……」

 運転席のスピーカーから聞こえてくる声の内容から察するに、あの人影は門衛の人たちらしい。

 まあ、あんなドラゴンも居るような世界だし、警戒をする人が居るのは当然の話だよな。


「ニースさん。ニースさん」

「何ですか?ハル君」

 で、ダスパさんが門衛の人と話している間に、ちょっと気になったことが有ったので、小声でニースさんに質問をしてみる。


「あの大きい方の人影は何なんですか?ダスパさんが似た様なのに乗っていた気もするんですけど」

「アレは瘴巨人(クラレント)と言います。簡単に言ってしまえば瘴気を動力源として利用したパワードスーツまたはロボットですね。大きさは人の倍から三倍程度ですが、戦闘能力についてはそれ以上であり、(グリズリー)(クラス)以上のミアズマントに対しては必須と言われている戦力ですね」

「?」

「ああ、すみません。ついハル君が色々と知っている前提で答えてしまいましたね。ミアズマントと言うのは瘴気を浴びた瓦礫などが何故か動き出して、建物や人を攻撃する化け物の事で、熊級と言うのはミアズマントの大きさに応じた区分の一つなんです」

「何となーく分かりまし……た?」

「まあ、ミアズマントは外にしか居ませんし、瘴巨人もほぼ外でしか使われませんから、中だけで過ごす分にはほぼ必要のない知識だと思ってもらって構いませんよ」

 ふーむ……とりあえず人が乗り込んで操るのが瘴巨人で味方。

 あのドラゴンみたいのがミアズマントで危険。

 そのぐらいの知識でいいのかな?

 まあ、本格的に関わる事になったなら、その時に知ればいいか。

 瘴巨人については男の夢として、是非とも一度ぐらいは乗って動かしてみたいけど。


『今、NMMゲート管理局より指示が来た。ダイオークス26番塔外勤第3小隊と身元不明者であるハル・ハノイは第一級瘴気未浸食領域探索時の規定にのっとった検疫を受ける様にとの事だ』

「了解した。ゲートにはもう入っていいんだな?」

『むしろ早いところ入ってくれ。後三分もすれば、外門を閉めることになる』

「あいよ。ガーベジ!」

「分かってるわよ」

 と、気が付けばダスパさんと門衛側の話し合いは終わり、キャリアーはゲートに向かってゆっくりと進みだしていた。

 と言うか検疫って……もしかしなくても俺のせいだよな?

 まあ、生物の身体って言うのは体内にしろ体表にしろ色んな微生物がいるって言う話だし、異世界人である俺の身体も当然そうだろう。

 もしも、その中に俺には一切の害は及ぼさないが、この世界の人たちには大きな害をもたらすような何かが有ったりしたら、中で色んなものを回しているであろうダイオークスでは特に大問題になるもんな。

 そう考えれば当然の措置か。


「悪いなハル。普段より少しダイオークスの中に入るのに手間取ることになりそうだ」

「いえ、当然と言えば当然の話なんで、構わないです」

 と言うわけで、ダスパさんが多少申し訳なさそうにしていたが、俺は納得している事を素直に示す。


「はい。ゲートの中に到着」

 そうしている間にキャリアーはゲートの中に入り、同時に俺たちの背後に在るゲートが音を立てながら閉まっていく。

 やがて背後のゲートが完全に閉まると同時に左右の壁で水が流れ落ちるような音がし始め、それに合わせるように少しずつゲートの中の瘴気が薄まっていく。


「ここはエアロックで、左右の装置を使って瘴気を除去している。ってところですか?」

「その通りです。一部例外を除いて、どうにも瘴気には気体よりは液体、液体よりは固体に吸収されやすいようで、その性質を利用して空気から瘴気を取り除いているんです」

「ついでに言えば、瘴気を吸収した物体は特殊な性質を持つようになって、その性質を発揮する際には吸収した瘴気をエネルギー源として消費するらしいぞ。このキャリアーが瘴気を動力にしているってのはそう言う意味だ」

「なるほど」

 どうやら俺はまだ勘違いをしていたらしいな。

 瘴気って言うから気体をイメージしていたんだが、今のニースさんたちの話を聞く限りだと、瘴気って言うのは気体と言うよりは一種のエネルギーが宙を漂っているような状態なのかもしれない。

 後、ニースさんの持っていた剣から電撃が放たれたのとかも、そう言う特殊な性質の一種なのだろう。

 うーん、流石は異世界と言ったところか。

 俺の想像の埒外な事が次々に起こる。


「さ、そろそろ内門が開くわよ」

 と、いつの間にかゲートの中の瘴気は完全になくなり、視界は晴れ渡っていた。

 どうやら瘴気抜きが完了したらしい。


『内門開放します。内門開放します。ゲート内に居るキャリアー、瘴巨人、人員は開放と共に順次移動してください』

「ふう、やっと一息吐けるな」

「ですね」

「だな」

「ゴクッ……」

 そして、アナウンスと共にキャリアーの前方に有るゲートが音を立てて開き始めた。

縦に1000mの壁と言うと凄そうに聞こえますが、現実に一つの建物として建築が予定されている物もあるようです。

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