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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第89話「会議室-3」

 ダイオークス中央塔第92層大会議室。

 そこでは今夜も塔長会議が開かれていた。


「以上がここ一週間の彼らの動向であり、今度の視察に関してになります」

 席を立った状態で、他の塔長たちに向けて説明を行うのは、26番塔塔長オルク・コンダクト。

 その顔には、別段特別な感情は浮かんでおらず、淡々とした口調で説明は行われた。


「なるほど。本人も乗り気である。と」

「視察が行われることも含めて良い事ですな」

「確かに。視察だけでも各塔の友好に、彼らの見識の向上。他にも色々と利点が有りますなぁ」

「ははははは。確かにそうですな」

 26番塔塔長の言葉に耳を傾けるは、他の塔の塔長たち。

 そんな塔長たちの顔に浮かぶのは笑顔。


「(色々と利点がある……か)」

「(まあ、外に出てくれれば、それだけ干渉の機会は出来るからな)」

「(全く。奴の所属があの狸の根城でなければ、こんな面倒な事態にはならなかったのだがな)」

 だが、見る者が見れば分かっただろう。

 彼らの笑顔は必ずしもその表情通りの物ではなく、その笑顔の下には様々な感情が渦巻いている事に。

 そう、今回の件に対して、ある者は悔しさをにじませ、またある者は怒りを募らせていた。

 中には殺意にも似た感情を激しく抱いていた者も居たし、逆に本当に興味が無かった者も居たのである。


「良きかな良きかな」

「ええ、そうですな」

「ははははは」

 しかし、彼らはそれを表に出さない。

 今この場は己の感情を露わにするべき場ではないと、もし露わにすれば、露わにした自分の立場が悪くなるのを理解しているがために。

 そう。仮に何か言いたい事が有るのならば……


「しかしだ。26番塔塔長。君に一つ伺いたい事が有る」

「何ですかな?12番塔塔長」

「君は一体どういう基準で、今回の彼の視察対象として、22番塔と31番塔の二塔を選んだのかね?特に31番塔の視察対象については、それ相応の理由が無ければ納得しがたい場所だ」

「ふむ……(やはり来たか)」

 笑顔のまま、相手を貶めぬように言葉を選ぶと共に、決して言い逃れは出来ぬよう、的確に相手を言葉のナイフで突き刺すべきなのである。


「ああ。それは確かに私も気になっていた」

「確かに説明は必要ですな」

「でなければ、今回対象として選ばれなかった我々の立つ瀬がありません」

「今後も彼らの視察の対象候補として名乗りを上げるためにも、選定基準はぜひ知っておきたい所ですしな」

「そうですな。その点については確かに説明が必要でしょう」

 12番塔塔長の言葉に追従するように、周囲から説明を求める声が湧き上がる中、26番塔塔長は普段通りの態度を崩さずに、別の資料を手元に持ってくる。


「今回、彼らの視察対象として22番塔と31番塔の二塔を選んだ理由については幾つか御座います」

 そんな切り出しでもって26番塔塔長は自らの話を始める。


「まず今回の視察の主たる目的は、彼の見識を深めることにあります。そして、彼は既に別の目的の任務ではありますが、正式な任務として中央塔に一度行き、非公式ではありますが17番塔にも行っております。それはつまり、このダイオークスの学業、研究、商業については既に知る機会が有ったと言う事です」

「ふむ」

「確かにそうですな」

「となれば、残りは生産と流通、政治や経済と言った、彼らがまだ学んでいない分野になります。それで今回選んだ二塔ですが……22番塔と31番塔の視察でもって、それぞれ流通と生産について学ぶ。と言う事になりますな」

「なるほど。22番塔についてはそれで納得しよう。だが、31番塔については、今の理由では納得しがたいな」

「勿論、理由はまだありますとも。今は私の話が終わるまで待っていただけますかな。12番塔塔長殿?」

「……」

 26番塔塔長の言葉に、12番塔塔長は目だけで彼の事を睨み付ける。

 が、26番塔塔長は12番塔塔長の刺すような視線など意に介した様子も無く、自らの話を続ける。


「これに加えて、外周十六塔と内部二十五塔のどちらかに片寄った知識を得ないようにする。視察先と我が26番塔との関係。それに、彼の補佐役として選ばれたのが、22番塔と31番塔の人間であると言う事もありますな」

「はっ、結局は自分に親しい塔を選んだと言う事か。とんだ専横も……」

「ははははは、これはまた随分と可笑しな事をおっしゃる。私と31番塔塔長が不仲なのは、皆様よく御存じでしょう」

「確かに。今回の件も、私の姪が彼の補佐役として周りに居なければ、間違っても通らなかった話でしょうな。だからこそ、今回の視察でも四塔合同で運営している施設を視察対象としたのだが」

「ぐっ……」

 12番塔塔長はどうにか切り返す手が無いかを探る。

 が、どうにも返す手が思いつかず、12番塔塔長は口ごもる他無かった。


「それに例の輩の件も有りますからな。少なくとも奴らの沈静化に成功するまでは警備が厳重且つ、万が一事が起きた際の被害が出来る限り抑えられるように考える必要が有ったと言うのも有りますな」

「む……」

「それは確かにそうですな」

「そう言う事ならば、31番塔の施設と言うのもアリかもしれませんな」

「奴らが外に出るとは思えませんしな」

 形勢は逆転した。

 そして、26番塔塔長は実に残念そうな顔をしつつ、12番塔塔長の方を向いて、昨今の情勢について呟く。


「そう言うわけですので、12番塔塔長。頼みますよ」

「分かっている。聖陽教会の司祭として、異端者は必ず捕まえて見せるとも!」

 だが、その呟きを受けた12番塔塔長……聖陽教会の司祭も務めるその男は、そう言葉を発する他無かった。

茶番回とも言う


05/20誤字訂正

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