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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
88/343

第88話「休日-3」

 特別訓練から数日後。

 それは夕食も終わり、それぞれが自由にリビングでテレビを見たり、自室で調べ物をしたり、風呂に入ったりしている時の事だった。


「ハル様。今ちょっといいですか?」

「セブ。どうしたんだ突然?まあ、今なら別に大丈夫だけど」

「じゃあ、隣失礼します」

 ソファーに座ってテレビを見ていた俺の元に、自室で調べ物をしていたはずのセブがやって来て、俺の隣に座る。


「それで、何が有ったんだ?」

「えと、自己紹介の時に説明したと思うんだけど、僕の元々の所属は22番塔なんだよね」

「ふむ」

「で、今さっき部屋の方で僕宛てのメールをチェックしていたら、22番塔の方から、僕を通してハル様に対して連絡……と言うよりは打診かな。とにかくそう言うのが有ったんだ」

「打診?」

 セブの打診と言う言葉に俺は首をかしげる。

 打診と言う事は、この先22番塔から俺たちの方に対して何か有るから、その何かについて事前に知らせておくと言う事になる。

 なるが……現状22番塔と俺たちとの繋がりなんてセブ以外何も無いし、22番塔に何が有るかも俺は知らないぞ?


「うん。どうにも22番塔塔長たちは、ハル様に一度くらいは22番塔に来て欲しいみたいで、今26番塔の塔長の方にハル様たちを視察に寄越してくれないかって働きかけているみたい。それで、働きかけの一環として、僕の方にも連絡が来たみたい」

「ふうむ?それは……」

 視察……ねぇ。

 俺は何を見せられるのかが一応ではあるが気になったので、セブに詳しい内容を尋ねようとする。


「ああ、そう言う話だったらアタシの方も、31番塔の親父たちから聞いてるよ。と言っても、31番塔が関わっている物で、外に見せる価値がある物なんて決まってるけどね」

「ワンス」

 が、その前にワンスが俺の首に手を回すようにしながら現れ、ワンスの方にも似たような話が有る事を告げる。


「む。今は僕がハル様と話をしてたんだけど……」

「別にいいだろ。アタシもセブも用件は同じようなもんなんだし」

「ははははは……」

 俺を挟む形で二人が睨み合いを始め、俺の頭の横で火花が散っているような音が聞こえる気がする。

 それにしても、ワンス(31番塔)の方も、セブ(22番塔)の方も、どうして突然こんな話を切り出して来たんだか……それぞれの塔に何かあったのか?

 ああいや。分からないなら、素直に聞けばいいのか。

 打診なんて言ってきているぐらいなんだし。


「えーと、それにしてもどうしてそう言う話が出てきたんだ?」

 と言うわけで聞いてみる。

 が、返答はまた別の方向からだった。


「恐らくは、この前の17番塔のショッピングモールの件が原因だと思います」

「ナイチェル」

 気が付けば、ナイチェルが俺の隣……ただし、セブが座っているのと反対側に座っていた。

 何時の間に……と言う返しはしないでおこう。

 俺がワンスたちに気を取られていて、気付かなかっただけだしな。


「それで、この前の件が原因ってのは?」

「はい。この前の17番塔での買い物は、途中までは休日の買い物であり、任務ではありませんでした。が、例の聖陽教会・自殺派の襲撃が有ったために、途中から非公式ではあるものの、私たちは任務であの場に居たと言う事になってしまいました」

「それで、僕やワンスの上司の人たちが慌てたと言うか、目を付けたんだろうね。任務ならハル様たちに自分たちの塔に来てもらえる。って」

「おまけに例の件の前日には、正式な任務として、アタシとハルは中央塔大学の方に行っているし、その辺りの事も今回の打診に繋がっているとアタシは思うよ」

「ふうん」

 つまり、結局はまた、この間の件が尾を引き摺っているわけか。

 マジであいつら迷惑極まりないな。

 ああでもだ。

 視察程度だったら別に構わない……と言うか、地味にダイオークスの中でもごく限られた部分しか未だに知らない俺の勉強になるし、考えようによっては26番塔の外に俺個人の繋がりを作れるいい機会であるとも言えるから、任務として提示されたなら、むしろ諸手を上げて参加するべき事柄ではあるのか。

 まあ、そう言う事ならだ。


「なるほど。そう言う事なら、出来る限り参加したくは有るかな。いい機会であるとは思うしさ」

「ありがとうハル様!」

「ん。そう言う事なら、親父たちには、ハルは乗り気だって言っておくよ」

 俺は素直に乗り気であることを二人に伝え、俺の言葉を聞いた二人は素直に喜びの感情をあらわにしてくれる。

 しかし視察に行くのは良いんだが、26番塔の外に出るとなると……。


「……」

 俺は視線だけでナイチェルに尋ねる。

 ナイチェルも俺の視線に気づいたのか、頷きを返してくれる。


「例の聖陽教会・自殺派の者たちのその後については、まだ私の方には連絡が来ていません。どうやら、彼らの背後に何かがあって、その何かの為に、迂闊に情報を渡す事が出来ないようです」

「背後……ねぇ」

 まあ、考えてみれば当然か。

 もし本当に背後も何も無く、あれだけの人数が武器を持って集まれるのだとしたら、その方が問題だ。


「いずれにしても、視察をする事になれば、万全の警備の下で行われることになると思います。なのでハル様が心配をする必要は無いかと」

「だと良いんだけどな……」

 ナイチェルの言葉に俺はそう呟かずにはいられなかった。

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