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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第85話「特別訓練-2」

「さて、事前の予定だと今日の特別訓練は本来の【堅牢なる左】と、今までの【堅牢なる左】の使い分けを出来るようにする。と言う事だったが、予定変更だ。まずは一昨日の件で使った【苛烈なる右】とやらを見せてみろ」

「分かりました」

 俺とサルモさんは距離を取って相対する。

 そして、サルモさんは万が一の為に最初から模擬戦用の刀を抜刀し、その状態で俺に【苛烈なる右】を使ってみる様に言ってくる。


「すぅ……」

 俺は一度息を吸い、一昨日の状況を、その時の感覚……【堅牢なる左】を発動するのに似た、けれど明確に別なものである感触を思い出していく。


『プログラム【苛烈なる(アサルト)(ライト)】Ver.Lの起動準備完了』

「【苛烈なる右】起動!」

 そして、頭の中で発動できることを告げる声が聞こえるのと同時に、俺は【苛烈なる右】の起動を宣言。

 俺の宣言に応じて俺の中と周囲にある何かが右腕に吸い上げられ、吸い上げられた何かによって俺本来の右腕に重なるように見えない何かが展開されていく。

 やがて、【苛烈なる右】の展開が終了すると同時に吸い上げが終わり、俺は【苛烈なる右】が安定した状態でそこに存在しているのを直感的に把握する。

 どうやら、無事に展開できたらしい。


「なるほど……」

 サルモさんは刀を構えたまま、俺の【苛烈なる右】を蛇のような目で観察する。

 やはり、【堅牢なる左】と同じで、サルモさんなら普通の人には見えない【苛烈なる右】を目視する事が出来るらしい。


「ハル。今までので構わないから、【堅牢なる左】を同時に起動してみてくれるか?」

「分かりました。【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】……起動!」

 と、サルモさんが【堅牢なる左】も発動するように求めてきたので、俺は手馴れた感覚で持って【堅牢なる左】を起動。

 【苛烈なる右】の隣に並べるような形でもって、同じく目には見えない【堅牢なる左】を展開する。

 うん、特に負担とかそういう物は感じないし、この感じならば、あの時同時に展開できたのを火事場の馬鹿力だと思う必要は無さそうだ。


「やはりか」

「やはり?」

「何がやはりなのですか?」

 と、サルモさんが俺の展開した【苛烈なる右】と【堅牢なる左】を見比べて、ポツリと呟き、それに俺とシーザさんの二人は思わず反応してしまう。


「いやなに。見比べてみたら、ハルの【苛烈なる右】と【堅牢なる左】には、見た目から分かる範囲でもそれなりの差が有るようでな」

「差……ですか?」

「ううん?」

 サルモさんの言葉に、俺は【苛烈なる右】と【堅牢なる左】の差を感じてみようとする。

 が、【苛烈なる右】と【堅牢なる左】の姿が見えず、感覚的に理解するしかない俺には両者の差は分からず、更なる疑問の声を上げるしかなかった。

 まあ、把握手段が一切ないシーザさんの困惑は恐らく俺以上だろうけど。


「ああ、あくまでも【堅牢なる左】と比べてと言う事になるがな」

 サルモさんはそう前置きをした上で、見た目から分かる【苛烈なる右】と【堅牢なる左】の差について教えてくれる。

 それによればだ。


・【苛烈なる右】は全体として、【堅牢なる左】よりも細い

・【苛烈なる右】の鱗は、【堅牢なる左】の鱗よりも逆立っており、その表面はまるでヤスリの様になっている

・【苛烈なる右】の爪も、鱗と同様に【堅牢なる左】の物よりも長く、鋭くなっている

・【苛烈なる右】の五本の爪のうち、特に人差し指と中指に当たる爪は際立って長くなっている


 との事らしい。


「なるほど」

「つまり、名前通りに【堅牢なる左】の方が守りに向いていて、【苛烈なる右】の方が攻撃に向いている。と言う事ですか」

「ああ、そう言う事だな。実際……」

 サルモさんの説明に俺とシーザさんが納得し、頷いている時だった。

 突如、サルモさんが手にした刀を、【苛烈なる右】の人差し指の爪が有る辺りに向けて一閃する。


「切れ味は見ての通りだ」

「へっ!?」

「なっ!?」

 すると、サルモさんの刀は空中で刀身の半ばから切り裂かれ、切り離された方の刃が宙を舞い、驚く俺とシーザさんを尻目に、切り離された刃は音を立てて床に転がる。

 何が起きたのか。

 そんなの言うまでもない。

 俺の【苛烈なる右】の刃とサルモさんの刀が触れ合い、【苛烈なる右】の爪の鋭さと堅さだけで、殆ど何の抵抗も無くサルモさんの刀が切れてしまったのだ。

 【苛烈なる右】に対して、俺はほぼ力を入れてなかったにも関わらずだ。


「……!?」

 シーザさんは呆然と目の前の光景を見ていた。

 どうやら、文字通りに言葉も何も無いと言う状態らしい。


「まあ、これだけの切れ味が有るなら、(グリズリー)(クラス)ミアズマントの装甲どころか、芯の部分まで切り裂くぐらいは容易いだろうし、使い方次第では悪魔(デーモン)(クラス)のミアズマントに対しても有効な攻撃手段としても使えるだろうな」

「そ、そう……ですか」

 が、俺も反応としては似たような物であり、頬を引き攣らせていた。

 それでも、【苛烈なる右】が自分の力で、感覚的にでも何処に有るのかを把握出来ている分だけ、反応としてはマシだが。

 いずれにしてもアレだな。うん。

 【苛烈なる右】を使う場合は、周囲の味方の動きに関して細心の注意を払うべきだ。

 でないと、この前のシーザさんのように気付かず突っ込んだ場合、突っ込んだ人間の命に関わる。


「さてとハル。それじゃあ、そろそろ本来の予定の方に移行するぞ」

「あー……はい」

 とりあえず、この件に関しては後できちんと第32小隊の全員で情報を共有しておこう。

 冗談抜きに危険だ。

05/16誤字訂正

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