第83話「休日-2」
さて翌朝。
俺とナイチェルがどうしてそうなったのかと言う経緯についてはお互いの為に秘しておくが、経緯はどうあれ、その結果については服装とか、一緒に居る事とか、匂いとか、まあ、色々な面からバレバレだった。
と言うわけで。
「おはようございます」
「おはよ……」
俺とナイチェルが一緒にリビングに入ったところ。
「ケダモノめ」
まずシーザさんから養豚場の豚でも見るかのような目で蔑まされる。
「……ボソッ(えと、その、つまりはその……)」
続けて、赤面したミスリさんからはあからさまに顔を背けられる。
「先を越された!?」
で、セブには大きく目と口を開きながら叫び声を上げる。
「三人目か……けれど、ハルの能力を考えるとな……」
あ、ワンスはナイチェルの方を向きながら、何か呟いているな。
でまあ、此処までは良いのだが……
「うっ!?」
「……」
トトリがヤバかった。
顔は笑顔だ。一部の隙も無く笑顔だった。間違いなく笑顔だった。
なのに、その背後には妙なものが見える。
いや、そう見えるだけで、実際にそこにあるわけがない。
ないののだが、トトリの気迫によって……俺には見えてしまっていた。
「おはよう。ハル君」
無数の鳥を周囲に従えた巨大な猛禽類が翼と嘴を広げて威嚇する姿が。
「お、おはよう。トトリ……えと、怒ってる?」
「ううん。全然」
「「「!?」」」
トトリの言葉に、リビングに居る全員が威圧され、思わず半歩退かされる。
てか、目が!目が!?目が笑ってないですよ!トトリさん!?
「でも、ハル君。一言ぐらいは言って欲しかったかなぁ……ふふふふふ」
「は、ははははは……すみませんでしたああぁぁ!」
俺は思わず更に半歩退かされる。
そして、威圧の結果として、俺は極自然な動作でもってトトリに向かって土下座をしていた。
「もうハル君てば。怒ってないって言っているのに。そもそも、どうして私に謝るのかな」
「「「…………」」」
怒ってます。
トトリは現在凄く怒ってます。
全身が無数の鳥によって啄まれているような感覚がします!
「そ、そうだハル!さっきハル宛てにメールが届いていたよ!」
と、流石に拙いと判断したのか、ワンスが助け船を出してくれる。
「へ?メ、メール?え、えーと、誰から?」
「一昨日のトゥリエ・ブレイカン教授だね。なんかUSBメモリーの件で進展があったみたいだね」
「へ、へー、そうなのかー」
そして、俺もそれに応じる様に土下座状態から復帰し、リビングに置かれている連絡用のパソコンの前に移動する。
「あー、本当だ。確かに来ているな」
パソコンには確かに俺宛てで、トゥリエ教授からのメールが来ていた。
タイトルは『例のUSBメモリーについて』か。
「トゥリエ教授か。確かダイオークス中央塔大学の教授だったな」
「そう。で、一昨日にアタシたちへの説明をしてくれた人だね」
「そんな人がどうしてハル様にメールを?」
と、他の皆もトトリから逃げる様にパソコンの前に集まってくる。
ああうん、もしかしなくても怖かったんだろうな。
今もまだトトリは笑顔のままこちらを見て来てるし。
「えーと、ちょっと待ってくれ」
俺はトゥリエ教授から送られてきたメールを開く。
「内容は……」
メールの内容はタイトル通り例のUSBメモリーについてだった。
どうやら、ダイオークス中央塔大学の教授たちはUSBメモリーの現物やデータについては発見する事は出来なかったようだが、その存在については認めることにしたらしい。
と言うのも、大学内にUSBメモリーが持ち込まれてから、消え去るまでの間はおよそ一週間有ったわけだが、どうにも教授たちの間でその一週間の記憶について微妙に齟齬が生じていたり、カメラを始めとした幾つかの機材が無意味な形で設置されるなどの異常が生じていたりしたそうだ。
そして、俺が説明したUSBメモリーによる記憶操作と言う現象は、これらの異常の原因として、最も納得がいくものだったらしい。
「まあ、いずれにしても納得してもらえて何よりだね」
「そうですね。ハル様が嘘吐きにされなくて何よりです」
「ん?あれ?まだ続きがあるみたいだよ」
「本当ですね。何でしょうか」
「ちょっと待ってくれ」
と、どうやらメールにはまだ続きが有ったようで、俺はメールを下にスクロールする。
「ぶっ!?」
「「「!?」」」
そして、書かれていた文章にメールを見ていた全員が思わず吹き出す。
と言うのも……
「ふーん。『吾輩たちの理論が正しい事を証明するために、早く今回のと同様なUSBメモリーを持ってくるように。持って来てくれれば、吾輩の処女だろうが、金だろうが、何でもくれてやるのじゃ』かぁ……ハル君」
「はっ!?」
気が付けば、トトリが俺の背後に立ち、俺の肩に手を置いていた。
ワンスたちは何処かに消え去っていた。
「朝ごはん前でお腹は空いていると思うけど、ちょっと向こうでお話ししようか」
「は、はい……」
俺はトトリの言葉に静かに頷き、引き摺られていくしかなかった。