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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第82話「ショッピングモール-9」

「疲れたー」

「本当だね……」

 26番塔の家に着いた俺たちは、遅めの食事と風呂を終えると、そのまま直ぐにそれぞれの部屋に行って寝る事となった。

 まあ、小隊結成から初めての休日だったのに、何故か命がけの状況になってしまったからな……みんなが疲れるのもしょうがないだろう。

 なお、瘴気による身体能力強化が有る俺と、あの手の荒事に慣れているワンスとシーザさんの二人については、実はそれほど疲れてはいなかったりもする。

 が、明日は明日で今日買った家具が届き、届いた家具を運ぶ作業とかもあるので、トトリたちにならって俺たちも素直に休むことにしたのである。


『コンコン』

「ん?誰だ?」

「あの、私です。ハル様」

 そして、日付も変わり、家の中の明かりどころか、外の明かりも殆ど落とされた頃だった。

 俺の部屋の扉がノックされ、ナイチェルさんが部屋の中に入ってきたのは。


「ナイチェルさん。一体どうしたの?」

「少しハル様に話しておきたい事が有ったので、夜遅い事は分かっていましたが失礼させていただきました」

「話?」

 俺の部屋にやってきたナイチェルさんは、藍色のネグリジェといつもの眼鏡、それに下着以外は何も身に着けていないようで、胸の膨らみが普段以上にはっきりと見て取れた。


「はい。少々長い話になるかもしれませんが、良いでしょうか?」

「えーと、そう言う事なら、とりあえず適当に座ってくれる?長い話だって言うなら、立ったままだと辛いだろうし」

 とりあえず、ナイチェルさんの話をゆっくり聞くために、俺はベッドの上で胡坐をかき、ナイチェルさんには部屋の中の適当な場所に座ってもらう。


「では、失礼させていただきます」

「っつ!?」

「どうされましたか?」

「い、いや、何でも……無いよ。うん」

 そして気づく。

 俺がベッドの上で、ナイチェルさんがカーペットの上に座ると言う状況の為に、俺の位置からではナイチェルさんの胸の谷間がはっきりと確認できてしまう事実に。

 くっ!落ち着け!?流れの関係上、今更この場から動く事は出来ない!ならば、心頭滅却!視界に入っていても、入っていない事に頭の中でするんだ!


「ふぅ……よし。何時でも話を始めて良いよ。ナイチェルさん」

「えと、分かりました?」

 うん。準備完了もう大丈夫だ。

 ナイチェルさんの胸は見えているけど、見えてない。

 と言うわけで、俺は至極冷静かつ真剣に、ナイチェルさんの話を聞き始める。

 うん。大丈夫ったら大丈夫。


「それで話と言うのは、今日のショッピングモールでの事……聖陽教会の一派に襲われた事についてです」

「ん?」

 どうやら、ナイチェルさんの話は奴らについてらしい。

 しかし、今この場でわざわざ話すと言う事は……どういう事だ?


「その、もしかしたらではあるのですが、今日あの場で襲われたのは私のせいかもしれません」

「……。それはどういう意味だ?」

 俺はナイチェルさんを軽く睨み付け、俺の視線にナイチェルさんは身体をビクリと震わせる。

 だが、悪いとは思わない。

 ナイチェルさんの発した言葉には、その程度に問題が有る言葉だから。


「そもそも奴らの主張からして、俺たちが狙われたのは俺の特異体質故にだと思っていたんだが?それは違うのか?」

「その……彼らがハル様を狙った事については間違いないと思います」

「じゃあ……」

「ですが、ハル様はご存じないかもしれませんが、26番塔は他の塔と比べて遥かに情報の管理が厳しく、しっかりしているんです。それこそ、ハル様の関係者と塔長クラスの権利者以外には、ハル様が何処に住んでいるのかも分からないほどに」

「何が言いたい?」

 正直に言えば、この時点でナイチェルさんが何を言いたいのか、何が望みなのかもだいたいは理解していた。

 が、敢えてナイチェルさん自身に先を語ってもらう。

 でなければ、意味が無いから。


「つまりですね。今日、あの時間にハル様たち第32小隊が17番塔のショッピングモールで買い物をするなどと言う情報を、塔外の存在である聖陽教会・自殺派の人たちが手に入れられるはずがないのです。誰かが彼らに情報を流さない限りは」

「なるほどな。で、それと最初の話がどう繋がるんだ?」

「……。私は……私は、日々の業務として、第32小隊の皆様の行動の予定を、休日の物も含めて17番塔と26番塔の方に提出するように言われています。ですから……」

「その情報が、何処からか漏れたかもしれない……と」

「むしろ、漏らしたと言うべきかもしれません。彼らをあの場で捕まえるために」

「確かにその方が、筋は通るかもな」

 俺は頭の中で今日起きた諸々の事を改めて思い浮かべてみる。

 そうやって考えてみれば、確かに何故あの場にライさんが居たのかと言う点や、警備員たちの手際が良すぎる点等にも納得がいく。

 最初に感じた鋭い殺気にもだ。

 あの殺気は、奴らが放った者にしては鋭すぎる気がするし、俺たちをただ警戒させるだけだったしな。

 恐らくだがあれは、ライさんか、17番塔塔長の配下の人が俺たちに警戒を促す為に放った殺気だったのだろう。


「それで、俺にこの事を伝えて、ナイチェルさんはこれからどうしたいんだ?」

「その……今回の事は私が原因です。ですから……」

「言っておくが、今回の事は別にナイチェルさんが悪いわけじゃないからな」

「え?」

 俺は俯いて、体を震わせているナイチェルさんに向けて、はっきりとナイチェルさんは悪くないと告げる。

 だってそうだろう。


「ナイチェルさんはただ自分の仕事をこなしただけで、悪いのは情報を奴らに漏らした奴……いや、そもそも情報が漏れた所で、奴らが行動を起こさなければいいだけの話なわけだし、詰まる所、どう考えてもナイチェルさんに非があるとは思えない」

「ですが……」

「それじゃあ、納得がいかない……と」

「はい。どんな形でも構いませんから、罰を下して頂けなければ……」

「どんな形でも……か」

 そして、これまでの会話で俺はナイチェルさんがどういう性格なのかをはっきりと理解した。

 ナイチェルさんの性格は簡単に言ってしまえば、生真面目で、責任感が強い。頑固と言い換えてもいいだろう。

 だから、自分が悪くない事でも、自分の行動が原因となっているのなら、こうして責任を取ろうとしてしまう。

 となれば……しょうがない。


「分かった。そこまで言うのなら、俺の方で罰を下してやる。だから、この話はこれまでだ」

「あ、ありがと……」

「罰なんだから喜ぶな」

「!?」

 俺はベッドから立ち上がり、ナイチェルさんの肩と腰に手を置く。

 そして……


「今夜は寝れると思うな」

 押し倒した。

ハル君は一回ダイオークスの頂上(1000m)からロープレスバンジーをした方が良いと思うんだ

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