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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】

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第81話「ショッピングモール-8」

「捻じ曲げる……ですか」

 教えを捻じ曲げるとは、随分と不穏で、敵意の強い言い方だと俺は感じた。


「あー……、本人たちに言わせれば、解釈や手法が違うだけ。根本からはずれてはいない。と言う事らしいっすよ」

「解釈に手法……ですか?」

 流石に今の言い方は拙いと判断したのか、ライさんが訂正と言うか、補足するようにそう告げる。

 しかし、解釈の違いって……俺が知る限りでは、大半の宗教と言うのは主流から大きく外れた解釈や手法に対しては、異教への対応よりも数倍苛烈な物だった気がするんだが……聖陽教会は違うのか?


「聖陽教会の根本は『如何に人と言う種を存続させ、瘴気とそれに端を発する災いに抗うか』です。なので、既存の教えに反する思想や考えがあっても、それが人と言う種の為に必要ならば、瘴気に抗うために必要ならば、それを認めると言う考えを開祖が既に示しているのです」

「なるほど」

 と、そう言う事を疑問に思っている事を顔色から察してくれたのか、ナイチェルさんが解説をしてくれる。

 しかしそうなると……、


「もしかしなくても、それが人類を生き延びさせるために必要なら、殺人や窃盗のような犯罪も聖陽教会は認めると言う事ですか?」

「その通りだ。尤も、そう言った行為をしなければ生存出来ないなら、それが個人にしろ、都市にしろ、そう言う存在を切り捨てる方が良いと大抵の信者は判断するだろうがね」

「ついでに言えば、今の聖陽教会はそう言う過激と言うか、他の人間を食い物にするような行為を、最優先で取り除くべき害悪として認識し、忌み嫌っているっすよ」

 ふうむ。どうやら聖陽教会というのは、それが本当に必要なら何でも認める傾向にあるようだが、基本的には俺たちの持つ常識からそんなに外れた考え方ではないらしい。

 となると、余計に今回襲ってきた連中のおかしさが際立ってくるな。


「あの……そうなると、今回私たちを襲ってきた人たちって……」

「そうだ。奴らが考える『如何に人と言う種を存続させ、瘴気とそれに端を発する災いに抗うか』と言う手法に原因が有る」

 トトリの言葉に17番塔塔長は返事をすると、一度溜息を吐く。

 どうやら、だいぶ頭の痛い問題らしい。


「まず、彼らが一応所属している事になっている聖陽教会・殲滅派について説明しておこう」

「お願いします」

「はい」

「聖陽教会・殲滅派と言うのは、現在の主流派から少し外れた派閥だ。その考え方は、現在のように対瘴気対策の施された都市の中に籠って人類を存続させることに力を注ぐよりも、積極的に外に打って出て、ミアズマントの討伐や新たな都市の建設を行う事で人類の版図を大きくし、最終的には瘴気と言う物をこの世から無くすことだ。そして、その為ならば他の何かをいくらか犠牲にするのはやむを得ないと考えると同時に、新しい物を積極的に取り入れるべきだし、利用できるものは何でも利用するべきだと考えている」

「ちなみに、ダイオークスの外勤部隊にもこの派閥に属している人間は幾らか居るっすね」

「ふうむ?」

 17番塔塔長の説明する聖陽教会・殲滅派の内容に、俺は思わず疑問の声を上げてしまう。

 と言うのも、その考え方で何をどうすれば、俺たちを襲うと言う行動に繋がるのかが分からなかったのだ。

 だって、その考え通りならば、むしろ外勤部隊である俺たちを積極的に支援してくれる側になるはずだし。


「そして、今回君たちを襲ってきた男たちの所属だが……実を言えば、我々塔長会議の内部では、殲滅派では無く、自殺派と呼んでいる」

「へ?」

 と、そんな俺の疑問を察してくれたのか、実に気まずそうな顔をしながら、17番塔塔長は俺たちを襲ってきた男たちについての説明を始めてくれる。


「あー、実に頭の痛い話なんだが……奴ら曰く『特異体質は人類と言う種族に発生したバグで、早急に取り除くべきである。瘴気に関わるものは例外なく全て滅するべきである。瘴気と戦う気が無い者は死ぬべきだ』だそうで……早い話、奴らは瘴気と名の付くもの全てを今すぐに葬り去るべきだと考えているんだ」

「ちなみに、この瘴気に関わるものには、瘴気発電や瘴巨人、防護服の瘴金属を利用した機能に瘴気学なんかも含まれるでやんす」

「えと……」

 17番塔塔長とライさんの言葉に、俺は頬を引き攣らせる事しか出来なかった。

 周りの皆も、俺と気持ちは同じなのか、皆それぞれに目を逸らしたり、乾いた笑いを浮かべるだけになっていた。

 いやだが、それもしょうがないだろう。

 だって彼らの考え方って要するに……、


「それって、人類皆仲良く枕を並べて死にましょう。って言っているような物ですよね。本気でそんな事を?」

「困ったことに奴らは本気でそう言っている。どうやら人類の全勢力を持ってすれば、瘴巨人などに頼らなくても、ミアズマントなどどうにもなると考えているようだ。誠に愚かしい事に」

「一応言っておくでやんすけど、自殺派は外勤部隊には一人として居ないっすからね。一度でも外に出れば、直ぐに夢物語ですらないと分かる考え方でやんすから」

 困ったことに俺の言葉は一切否定されなかった。

 ああうん、マジですか……そうなんですか……。


「「「…………」」」

 そんな、17番塔塔長たちこの世界の人間から見ても異常な考え方に、部屋の中の空気が重苦しい沈黙で満たされる。

 何と言うか……此処まで来ると、変なのに目を付けられてしまったと言う感想しか持てないな……。

 いや、命の危機ではあるんだけどさ。うん。


「まあ、今後、今回捕えた奴らから何か分かった事が有れば、君たちの方にも情報を送るとしよう。今回の件で、他人事では無くなってしまったわけだしな」

「ありがとうございます」

 結局、この場はこれでお開きとなり、俺たちは17番塔を後にする事になった。

 はあ、今後何事も無いと良いんだがな……無理か。

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