第80話「ショッピングモール-7」
「まずは今回、我々の力不足故に、君たちの休日を台無しにしてしまった事への謝罪を。本当に申し訳なかった」
17番塔塔長は椅子から立ち上がると、俺たちに向けて深々と頭を下げる。
「あ、いえ。その……悪いのは、奴らの方だと思いますし……」
「だとしても、私が管理する場にあのような者たちを入れ、今回の事件が起きる余地を作ってしまったのは私の責である事実は変わらないだろう。だから私は君たちに謝らなければならない」
「えーと……」
何と言うか、自分よりはるかに年上かつ上の立場の人にこうして深々と謝られてしまうと、どうにも居心地が悪いな。
と言うか、この状況どうすればいいんだ?
「ハル、素直に受け入れときな。こういう時は形だけでも、謝っておかないとお互いに面倒な事になるんだ」
「ワンスの言う通りでやんすよ。此処は素直に受け入れておくっす」
「えーと……あー、はい。その、謝罪の方分かりました。ありがとうございます」
と、そう思っていたら、ワンスとライさんからアドバイスが飛んで来たので、俺は17番塔塔長の謝罪を受け入れる言葉を口にする。
「うむ。ありがとう。では次に、17番塔で騒ぎ……いや、火事を起こそうとしていた事も考えれば、もはやテロと言った方が正しいか。とにかく、奴らの行為を阻止し、取り押さえることに協力してくれたことへの感謝を伝えさせてもらいたい。特に、火事になる事を防いでくれたハル・ハノイ君。君にはより一層の感謝を」
すると、17番塔塔長は頭を上げ、続けて俺たちに対して感謝の言葉を述べる。
それにしてもテロとは……でも、ダイオークスの環境で大規模な火災を起こそうと言うのなら、テロと認定されてもおかしくは無いのか。
「えと、ありがとうございます……?」
「うむ。受け入れてくれてありがとう。ああ、それと、今回の件の報酬についてだが、そちらについてはまた後日と言う形を取らせてもらいたい。今日はもう遅いし、君たちに対してまだ説明するべき事柄も残っているからな」
とりあえず、感謝の言葉についても素直に受け入れておくとしよう。
ここで意固地になる意味は無いしな。
「さてと。それではここからが本題だな。クリス・スノーメ君」
「はい。資料はこちらになります」
「あ、どうもです」
と、17番塔塔長の言葉に応じる形で、俺たちをこの部屋にまで連れて来てくれた警備員の人が俺たちの方に何部かの資料を渡してくれる。
「えと、これは?」
「今回の事件で捕まえた者が所属していると推測される団体についての資料だ」
「どれ……やはりか。ハル、トトリ。お前たちは詳しく読んでおいた方が良い」
「え?あ、はい」
「分かりました」
シーザさんが資料一読した後に発した言葉に従って、俺とトトリは渡された資料を読んでみる。
「えーと……聖陽教会・殲滅派?」
「何なんですかこれ?」
資料のタイトルは『聖陽教会・殲滅派 要注意人物リスト』。
どうやら特定の団体に所属する人間の顔写真と、名前についてリスト形式でまとめられた物のようで、そのリストの中には見覚えのある顔の男たちが特に危険な人物として記載されていた。
それにしても聖陽教会・殲滅派?一体何の事だ?いやまあ、教会と言う事は何かしらの宗教団体なんだろうが……うーん?
「あの……ヌン17番塔塔長様」
「何かな?ナイチェル・オートス君?」
「その、ハル様も、トトリ様も異世界人なので、まず聖陽教会と言うのが何なのかについてから説明をしませんと……」
「ん!?ああ、これはすまない。君たちはそうだったな。すっかり、その事を忘れていた」
「まあ、最近はだいぶ馴染んでいるでやんすからねー」
そうして、疑問に思っていたところ、ナイチェルさんが助け船を出してくれた。
それにしても、馴染んでいる……か。
まあ、喜ばしい事だと思っておこうかな。
「いや、重ね重ね申し訳ない。それで聖陽教会についてだが……」
で、17番塔塔長による聖陽教会に関する説明が行われたのだが、それを簡単に纏めるとこんな感じ。
・聖陽教会は元々『求陽道』と呼ばれ、おおよそ三百年前にイクス・リープスと言う人物がダイオークスのような限られた空間でどう生きるべきかを示したものらしい
・その内容は大は人としてどう生きるべきかを、小は日常の細かい部分についてどうした方が良いかと、かなり多岐に渡るが、基本的には人として当たり前にやるべき事ばかりを説いている
・ただ、その根本にあるのは『如何に人と言う種を存続させ、瘴気とそれに端を発する災いに抗うか』だそうであり、最終目標はこの世界から瘴気を取り除く事である
「それで、今となってはイクス・リープス氏を開祖かつ信仰対象とした宗教となり、その際に名前も改め、内容も宗教と言うよりは日々の教えに近い物であるから、ダイオークスでもそれなりの地位を築いている」
「なるほど……」
「まあ、本当に内容が当たり前のことばかりだからね。宗教と言うよりかは、日常の決まりごとを改めて明文化して、人々の間に広めたと言った方が正しいかもしれないね」
「実際、僕らもそうなんだけど、聖陽教会の信徒ではない。けれど、聖陽教会が説く生き方に沿った生活はしている。そう言う人は結構多いよ」
「へー……」
ワンスとセブの言葉に、俺はもしかしたら朝の挨拶やら、食事の前の挨拶なんかも、聖陽教会はするべきだと説いているのかと感じた。
しかしそうなると、聖陽教会と言うのはかなり穏健……と言うか、今回の男たちみたいなのはむしろ絶対に許さない方だと思うんだが……うーん?
そうやって俺が悩んでいる時だった。
「まあ、中には教えを拗らせる……いや、自分の中で都合のいいように捻じ曲げる輩も居ると言う事だよ。ハル・ハノイ君」
17番塔塔長が俺の顔色から疑問を察し、更なる説明を始めてくれたのは。
正直、こんなに緩い教えを宗教と言っていいものなのか……作者的にはかなり怪しいラインだと思ってます。