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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第79話「ショッピングモール-6」

「この化け物が!」

「くたばれ化け物!」

「俺たちの国から出て行け!!」

 男たちはそう口々に俺の事を罵りながら、駆けつけた警備員たちによって厳重に縛られた上で連行されていく。

 正直な話として、男たちが何を言おうが俺にとっては割とどうでもいいことである。

 なにせ俺たちの事を襲ってきた理由が分からない上に、どう考えてもその理由が真っ当な物とは思えないしな。

 ぶっちゃけ【堅牢なる左】と【苛烈なる右】で雑巾みたいに引き絞ってやろうかとも思ったが、あいつ等にはそんな価値も無いだろう。

 事実、軽く睨んでやっただけで失神した奴もいたぐらいだしな。


「ハル。一体今のは……」

「ハル君今のなに!?」

「ああ、みんな」

 と、ここでワンスたちが俺の元に駆け寄ってくる。

 それを見た俺は今まで発動していた【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を解除。

 透明な手が消えた事によって火炎瓶と燃料だった何かの塊が通路に落ち、転がっていき、直ぐに警備員たちによって回収されていく。

 で、ワンスたちに対する【苛烈なる右】の説明としては……


「俺にもよく分からん」

「「「…………」」」

 素直にそう答える他無かった。

 でも、幾つか使えるようになった原因に心当たりは有るけれど、どうして今使える様になったのかは本当に分からないしなぁ……。

 そんな俺の答えにワンスたちはそれぞれに別の反応を見せているが……まあ、それはさて置こう。


「お客様。大丈夫でしたか!」

「ん?」

 さて、そうして少しの間、その場に留まっていたところ。

 俺たちの方に一人の警備員が近づいてくる。


「お客様のお買い物を台無しにしてしまい、この度は誠に申し訳ありませんでした」

「あー……」

 そして、警備員は俺たちに深々と頭を下げて、俺たちに対して謝罪をしてくれる。


「その御怪我などは……」

「みんな大丈夫?」

「問題ない」

「誰も怪我はしてないよ」

「ミアズマントに比べたら弱いなんてもんじゃなかったしね」

 トトリたちの言葉に警備員は心底ほっとしたような顔を浮かべている。

 まあ、彼の立場上、そう言う反応をするのは当然か。

 ただ、俺としてはだね。


「で、アイツ等は結局何者だったわけ?」

 今後の為にも奴らの正体や、目的については詳しく伺っておきたい所である。

 事前の手回しから考えるに、少なくとも17番塔と26番塔のトップがそれなりの情報を得た上で、17番塔の警備に関わる人たちを使って、今回の件に介入してきているのは確定なわけだしさ。


「……お客様。一応、御怪我か無いかを確かめるために、私の後をついて来ていただけますか。近くの医院で治療を行いますので」

 俺の言葉を聞いた警備員の顔つきが、俺たちに見える部分だけ、今までの人当たりの良さそうなものから、まるで獲物を狙う獣のような鋭い目つきに変わる。


「此処じゃ話せないってことかい」

「そう言う事だろう」

「ハル君……」

「ハル様。その……」

「…………」

 その目つきと言葉にしばしの間俺は迷い……


「分かりました。治療の方よろしくお願いします」

「ありがとうございます。では、行きましょうか」

 ついて行くことに決めた。


-----------


「「「…………」」」

「着きました」

 俺たちが警備員に連れて行かれたのは、17番塔第53層の片隅。

 ショッピングモールの上の層に有り、ショッピングモールの倉庫や打ち合わせの場、警備員の待機場などとして使われている関係者以外立ち入り禁止の区域の一角だった。


「失礼します」

 警備員が会議室と書かれた扉を一度ノックした後に開ける。

 部屋の中は会議室の名に相応しく、大きなテーブルと複数の椅子が置かれ、傍目には見えないが、スクリーンなどが有るところから見てモニターなどの映像関係の機器もあるようだった。


「お疲れ様でやんすー」

「ライさん。それと……」

 そんな部屋の中に居たのは、俺たちと同じ26番塔外勤部隊に属するライさん。

 その胸には26番塔塔長代理と書かれたバッジが付けられていた。

 そして、部屋の中にはもう一人。


「あ、貴方様は……」

「へぇ、これは驚いたね」

 そのもう一人の姿を見て、俺とトトリ以外の全員がその身を僅かにではあるが強張らせ、ナイチェルさんに至っては明らかに動揺の色を見せていた。


「さて、謝罪の前にまずは名乗らせてもらってもいいかな」

「あ、はい」

 部屋の中に居たもう一人……豊かな口髭を蓄えた初老の男性は席を立つと、まるで値定めでもするかのように、俺たちの方を真っ直ぐに見つめてくる。

 そしてその上で、俺たちに対して名前を告げようとする。


「私の名前はヌン・ロドライト。17番塔の塔長を務めさせてもらっている者だ」

「17番塔塔長!?」

「え!?」

 そうして初老の男性の口から告げられた肩書きには、俺とトトリの二人も流石に驚きの色を隠せなかった。

 17番塔塔長……それはつまり、今俺たちが居る17番塔における最高権力者であると同時に、ダイオークス全体で見ても横に並ぶ者が殆ど居ない事を示す肩書きである。

 いや、今回の件にこの人が関わっている事はサインの時点で分かっていたわけでもあるが……それでもまさか本人がこうして俺たちの前に直接姿を現すとは、俺もトトリも思わなかった。


「さてと。それでは今回の件についての謝罪と感謝と説明をさせてもらってもいいかな?」

「……(コクコク)」

 そして、緊張で静かに頷く事しか出来ない俺たちに対して、ヌン17番塔塔長による説明が始まった。

何気に初のハル君と塔長との会談です。

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