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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第76話「ショッピングモール-3」

「さて、とりあえず最優先で買うべき物については買えたかな」

「そうだね。で、次に買うべきなのは……」

 一通りの家具の購入が終わり、俺たちは家具屋が集まっているエリアの端に集まると、次に何を買いに行くかを相談する。


「化粧品の優先度は低いですよね」

「今日は安売りでもないしね」

「僕としては小物もまた今度でいいと思うかな」

「まあ、明日届いた家具を実際に入れてみないと分からない部分もあるしな」

「そうなると後買うべきものは……」

「衣料品。ですね。それなら……」

 で、特に改めて今日買う物が無い俺には当然のように決定権も何も無いので、トトリたちが姦しく……実に姦しく何を買おうかと相談しているのを、傍で見守るだけである。

 だって、この状況で口出しするのは明らかに地雷を踏み抜く行為だしな。

 ちなみに、話がそれぞれが身に着けている衣服の方に流れ始めているが、今日の皆はトゥリエ教授のオフィスから俺と一緒に直接ここに来たワンス以外は全員私服である。

 そして、そんな時だった。


「っつ!?」

「はっ!」

「ハル!」

「「「?」」」

 俺は不意に自分の背中を突き刺し、心臓を硬く冷たい刃が食い破るような気配を感じ取ると、【堅牢なる左】の発動準備を整えながら反転、気配が発せられたと思しき方向を睨み付ける。

 と、同時に俺と同じ物を感じ取ったのか、シーザさんとワンスの二人も懐から折り畳み式の警棒のような物を取り出すと、他の四人を守るように警棒を構える。


「ハル、ワンス。今のは……」

「少なくとも、害意や嫉妬なんて生易しいものではないと思います」

「そうだね。今のは間違いなく殺気だった」

「「「!?」」」

 周囲の警戒をしながら、俺、ワンス、シーザさんの三人で今の気配の正体を確認し合う。

 そう、今の気配は間違いなく殺気と称すべき類のもの……それも、鹿王が放っていたよりも遥かに粘着質で執念深い身勝手な気配を感じさせるようなものだった。

 そして、俺たちの言葉と態度に、トトリたちもようやく周囲を素人なりに警戒するようなそぶりを見せ始めるが、その顔色は明らかに悪い。


「お客様!一体どうなされましたか!」

 と、俺たちの動きから異常を察したのか、青い制服に身を包んだ警備員らしき複数の人間が俺たちの方に近づいてくる。


「警備員か……私が対応をするから、ハルとワンスは周囲の警戒を怠るな」

「「了解」」

 対してこちらはシーザさんが自ら警備員の方へと近づいて行く。

 警備員の顔は微妙に険しい。

 まあ、それも当然か。

 彼らにとって俺たちはまだ客だが、もめ事を起こしたならば、俺たちは客から制圧するべき敵になるわけだからな。


「お客様。これはいったい……」

「失礼。私はダイオークス26番塔外勤第32小隊隊長のシーザ・タクトスと言う。実は……」

 シーザさんが警棒を持ち、多少の間合いを保ったまま、警備員へと何が有ったのかの説明を始める。


「ナイチェルさん」

「はい。何でしょうかハル様」

「幾つか聞きたい事が有るんだけどいい?」

「私に分かる事ならば何なりと」

 その間に俺はナイチェルさんを自分の近くに招くと、ちょっと質問をさせてもらう。

 なお、ナイチェルさんが俺の近くに来た際に周囲からの敵意や嫉妬の視線は増したのは感じたが、殺気については感じない。

 ついでに言うと、確かに周囲から嫉妬や敵意の視線は感じたが、それ以上にトトリたちが俺に向けている視線が強まっているのを感じるので、この程度だったら何ともなかったりする。


「このショッピングモールの警備ってどうなってるんだ?具体的には警備の厳重さとかだけど……」

「そうですね……」

 俺の言葉にナイチェルさんは少し悩むようなそぶりを見せてから、俺たちにだけ聞こえる様に声量を落とした状態で説明を始める。


「このショッピングモールは17番塔だけでなく、ダイオークス全体で見ても商業の中心地とされているような場所であると同時に、多数の人が集まる場所でもあります。なので、買い物をする方々のストレスにならないよう密かにと言う形になりますが、インフラ設備と同等か、それに僅かに劣る程度には警備が厳重のはずです」

「つまり、目に見えないだけで今も周囲には……」

「私服の方も含めて、多数の警備員が居るはずです」

 俺とナイチェルさんは周囲に目をやる。

 周囲には制服を着た警備員が数人に、数十人の野次馬が居る。

 が、ナイチェルさんの言葉が正しければ、野次馬の中にも複数人の私服警備員が居ると言う事か。


「なるほど。事情は把握いたしました。そう言う事でしたら、早急に場内に不審者が居ないかを確かめさせていただきます」

「面倒を掛けてすまないな。もし何も無かったら私たちの事を笑っておいてくれ」

「そうですね。何も無ければ、仕事が終わった後にでも、何も無くて良かったと言う話を、酒の肴にさせてもらいましょう。では、我々はこれにて失礼させていただきますので、どうぞ心行くまで買い物を楽しんでください」

 と、どうやらシーザさんと警備員の話が終わったらしく、警備員はシーザさんに何かを渡すと、見事な営業スマイルで去っていった。


「で、何を受け取ったんだい?」

「緊急時用の発信機付き通報装置を人数分貰った。今の内に全員に渡しておこう」

 シーザさんからカード型の通報装置を俺たちは受け取る。

 どうやら、ショッピングモール内ならどこでもボタン一つで、警備員へと通報できるような仕掛けになっているらしい。

 と、シーザさんが突然声を潜める。


「で、今の警備員経由で、26番塔から外勤部隊としての命令が有った。このまま全員でまとまって行動し、買い物を続行するようにとの事だ」

 そう言うとシーザさんは貰ったカードの裏側を見せる。

 そこには細かく文字が書かれており、末尾には26番塔と17番塔、両方の塔の塔長のサインが有った。

 17番塔塔長のサインは今まで見た事が無いので真偽は分からないが、26番塔塔長のサインについては、少なくとも俺の目で見た限りは本物であるように思えた。


「命令って……」

「サインは本物みたいだね」

「何かが起こる事は間違いない……と言うわけですか」

「面倒だなぁ……」

「まあ、そう言うわけだから。全員、出来る限り平静を装って、買い物を続けることにするとしよう」

「分かりました」

「はい……」

 はぁ……どうやら、俺たちは予想以上に厄介な事に巻き込まれてしまったらしい。

05/07一部改稿・誤字訂正

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