第75話「ショッピングモール-2」
「ここら辺が家具を扱っているお店になりまして、こちらが特に大きく、一般的な品物を扱っている店ですね」
「ほー……」
ナイチェルさんの案内の下に俺たちがやってきたのは、先程まで俺たちが居たフードコートから見ると、電車の駅を挟んで丁度層の反対側に位置するお店だった。
「色んな家具が並んでますね……」
「ただどれも無難……って感じだねぇ」
「まあ、一般的な品物ってことだし、そう言う事になるのはしょうがないんじゃない?」
「変わった……ゴホン、尖った品物が欲しいなら、そう言う店を探して来ればいいだけだしな」
その店の中には大きな物としては箪笥やクローゼット、ベッドなどが、小さい物ではクッションやラック、カーペットにカーテン等々がサンプルと言う事で、系統別に分かれた状態で、店内に所狭しと置かれていた。
「んー……?」
「ハル様?」
「ハル様。どうかされましたか?」
「ん?ああ……」
ただ、そうやって並んでいる家具のサンプルを見て、俺はどこか違和感を抱いていた。
うーん、この違和感の原因は……俺が思い描いていた物と、現実が違うからと言うよりは……ああそうか、元の世界の同じような店との違いのせいか。
「やっぱりダイオークスは閉鎖都市何だって事に気づかされただけだから」
「「「?」」」
「あー……」
俺の言葉にトトリ以外の皆は『何を言っているんだ?』と言うような顔をする。
逆にトトリは『言われてみれば』と言う顔をしているが。
まあ、この感覚は異世界人にしか分からない物だから、しょうがないと言えばしょうがない。
そう、違和感の原因は、元の世界の家具と比べて、ダイオークスの家具は材料や色に偏りがあるように見えたからだった。
具体的に言えば、家具の材料としては木材と鋼材が大半を占め、プラスチック製品のような物はほぼ見受けられなかった。
色についても、素材そのままが大半を占め、塗料を用いた物……よくパステルカラーなどとして挙げられるような物は明らかに少なかった。
だがそれも当然の話だろう。
ダイオークスは閉鎖都市であり、外部とはほぼ隔絶されている。
となれば当然大半の物資は一度使っただけで捨てるなどと言う事は許されず、完全に使えなくなるまで使われ続け、使われなくなっても何かしらの方法でもって再び利用できる形にリサイクルする事を求められることになるであろう。
だがそれでも物資に限りがあることは事実であり、そうなれば必然として、重点的に物資を回すべき場所に物資は優先して回される事になる。
そして、中にはどうやってもダイオークスの中どころか、今のこの世界では入手できない物品と言う物も存在しているはずである。
その結果の一部が、恐らくはこの家具店の材料と色の偏りとして出てきたのだろう。
「とまあ、そんなわけだ」
「なるほどね……それは確かにアタシたちじゃ分からない」
「そうですね。こればかりは実際に体験してみないと何とも……」
「ふーん……」
「なるほどな。言われてみれば納得だ」
「色んな色に材質か……」
で、そんな事をトトリ以外の五人に説明してみたら、皆神妙な顔をして悩んでいる感じだった。
まあ、ワンスたちにとってみれば、この家具店の状態こそが普通の状態なわけだしな。
それが俺にとっては普通じゃないと言うのは、色々と思う所が有って当然か。
「ま、今日の買い物とはそこまで関係のある話じゃないし、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」
「それもそうだね。色んな材質や色の家具って言うのに興味は惹かれるけれど、無い物ねだりはしても意味が無い」
「確かにそうだな」
と、このままだと空気が変な方向に流れそうだったので、俺は気にしなくていいと言って空気を修正すると、皆で買い物を始めることにした。
尤も、全員それぞれに好みと言う物が有るので、リビングの椅子のように共通の場所で使う者を選んだ後は、予め待ち合わせ場所を決めた上で二人一組のグループに分かれ、それぞれ別に買い物をする事になったのだが。
なお、二人一組と言ったが、俺については個室の家具が既に揃っていて家具を買い足す必要が無いと言う事で、待ち合わせ場所に一人で待機である。
まあ、休憩時間だと思っておこう。
「ふーん……」
さて、待ち合わせ場所だが、実は店の中心部の少し高くなった位置に休憩場所として用意された場所である。
なので、何処にどんな物が売っているのかや、誰がどの売り場に居るのかが、何となくレベルではあるが把握できるようになっている。
と言うわけで皆がどんな家具を好んで買っているのかを見ていたのだが……。
「何となくだけど、皆の嗜好が分かるなこれ」
あくまで観察出来た範囲からの推測ではある。
が、なんとなくトトリは赤やピンク、白系の色でふわふわとした物を。
セブはオレンジや黄色などの明るくて活発な物を。
ナイチェルさんは灰色や藍色で落ち着いた雰囲気の物を。
ミスリさんとシーザさんは姉妹らしく共に素材そのままの色を好むが、どちらかと言えばシーザさんの方が装飾が少ない物を好んでいるようだった。
で、ちょっと意外だったのがワンスで……動物の装飾が付いた物や、犬やライオンを模したものと思しきぬいぐるみなんかを実に買いたそうに見るも、けれど自分のキャラではないと目を逸らし……と、そんな感じで同行しているトトリには分からないように、何度も何度もチラチラと見ていた。
ああうん、買いたければ買えばいいと思うよ。
意外と似合うと思うし。
やがて、そうやって俺が皆を観察している中で、六人は買い物を終え、俺の元に戻ってくるのであった。
なお、結局ワンスは一つのぬいぐるみも購入していなかった模様。
別に買ってもいいと思うんだけどなぁ……。