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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第71話「中央塔大学-3」

「では、まずはこの釘についてじゃな」

 モニターに五本の釘が映し出される。


「この釘の基本的な材質は鉄。じゃが、紋様部分については銅、銀、金など、別種の金属元素を配置する事によって、立体的な造形と言う形で描かれているそうじゃ」

 モニターの映像が一本の釘をクローズアップし、その釘から湧き出る様に複数の立体的な文様が分かれ出る。

 どうやら、釘の紋様は網の目のように、釘の表面からその中にまで張り巡らされているらしい。

 ただ、映像の脇には推定とか予測とか言う文字が書かれているので、もしかしなくても紋様がどういう形を取っているのかについてはまだ推測しか出来ていないらしい。


「ただ、これらの紋様がどういう意味を表すのかや、そもそも紋様の形がこれで正しいのかについても怪しいそうじゃ。なにせ場所によってはナノテクノロジーを利用して金属を配置したとしか思えない場所もあるそうじゃしな」

「ナノテクノロジーでやんすか」

「ふうむ……」

「早い話がまだまだ調査には時間がかかるって事だね」

「……」

「まあ、そう言う事じゃな」

 うーん、どうやら俺の想像以上に恐ろしいと言うか、凄まじい技術があの釘には使われていたらしい。

 ナノテクノロジーって……こっちの世界でもたぶん、この釘のレベルでは実用化されてないよなぁ……。


「で、次はこちらの装飾付きの短剣についてじゃな」

 モニターの映像が紋様付きの釘からクジラの装飾付きの短剣に切り替わる。


「この短剣については強度上昇と軽量化を高い水準で組み合わせた瘴金属で出来ていて、試算上、その強度は例の(ドラゴン)(クラス)ミアズマントに踏みつけられても歪み一つ生じないそうじゃ」

「歪み一つって……」

「へぇ……」

 トゥリエ教授の言葉に俺以外の全員が何か感心したような声を上げる。

 恐らくは自分の装備にその金属が使えればと思っているのだろう。


「ただ、どうやれば此処までの物を作れるのかについてはまるで分からんそうじゃから、量産は不可能じゃ。それに恐らくは先程の釘と同様の技術でもって、釘に刻まれていたのとはまた別種の立体的な文様が内部に存在しているそうじゃし、誰か他の人物に渡すわけにもいかんじゃろうな」

「それは少々残念ですね」

「まあ、出来ないものはしょうがないっすね」

 モニター上の短剣から、先程の釘と同じように紋様が浮き出てくる。

 恐らくこっちの紋様の用途については、鍵としての役割を果たすためなんだろうな。

 何となくだけどそれだけは分かった。

 なお、短剣そのものについては、また後日26番塔に届けてくれるとの事。


「次はこっちの論文じゃな」

 モニターの映像が俺たちが見つけた論文をコピーしたと思しき文章に変わる。


「内容については専門的かつ他分野に渡るから割愛しておくが、内容の真偽についてはとりあえず正しそうとの事じゃった」

「とりあえず?」

「流石に一週間かそこらでは理論上の正しさは確かめられても、それが実際に今の技術で作れるものかや、他の用途に転用できるかと言った部分については確かめようがないんじゃよ」

「ああなるほど」

 どうやら例の論文は専門家ですら手を焼くぐらい高度な内容だったらしい。

 うん、詳しい内容については割愛してもらえてよかった。

 たぶん、説明されても俺には理解できない。


「何と言うか、改めてイヴ・リブラ博士がとんでもない科学者だったことを見せつけられた感じじゃな」

「ああ、著作者については確定したんでやんすか」

「直筆のサインが有ったから、筆跡鑑定をしてみたそうじゃ。まあ、さっきの短剣や釘を作れるような技術者なら、サインの偽造ぐらいは簡単に出来そうな気もするが……誰が書いたかはこの際それほど重要ではないの」

 著作者については重要ではない……か。

 まあ確かに、あのアタッシュケースを置いた人物が何処かからか、イヴ・リブラ博士の論文を持ってきて入れただけの可能性もあるけど……何となく嫌な感じがするな。


「まあ、次じゃ次」

「次は熊級ミアズマント・タイプ:ディール特異個体の角ですか」

 モニターの映像が論文からディールのアンテナのような角に変わる。


「吾輩はその性質もあって、鹿王(ろくおう)の角と呼んでいるがの」

「鹿王?」

「うむ。正式名の熊級ミアズマント・タイプ:ディール特異個体では長いし、その性質を表せていないからの」

 トゥリエ教授は自信満々にそう言うと、モニターの映像を切り替える。

 どうやらディール改め鹿王についての情報をまとめた図らしく、図の中心部分にはデフォルメされた鹿……恐らくは鹿王の絵が描かれている他、周囲には鹿、狼、鼠など、様々な動物の絵が描かれていた。


「鹿王の特異個体としての能力は、この角から特殊な電波……いや、指令のようなものを発する事だったようじゃ」

 デフォルメされた鹿王の角から波の様なものが発せられる。


「この指令は他のタイプ:ディールのミアズマントを操るだけでなく、タイプ:ディールではないミアズマントを不快な気分にさせ、その場から退けさせる効果がある。まあ、悪魔級以上のミアズマントには大した効果を与えられないようじゃがの」

 すると、周囲の鹿たちが鹿王のそばに集まり出し、それ以外の動物たちは、その大半が鹿王から離れていく。

 トゥリエ教授の説明から察するに、その場から動かなかった動物については鹿王より上位のミアズマントと言う事か。


「つまりこういう事でやんすか?あの任務の時に鼠級ミアズマントが大量発生していたのは……」

「鹿王の指令に押されて逃げてきた結果として、あの地域における鼠級の密度が増し、大量発生したように見えたんじゃろうな」

 で、あの大量の鼠級ミアズマントたちは鹿王によって元の住処から追い出された者たちだったと。


「じゃが、鹿王の能力がこのような物だったが故に、新たに湧いた疑問もあるがの」

「疑問?」

「実力差を見せつけてもタイプ:ウルフが逃げなかった事と、そもそもどうして鹿王があの場に居たのかについてだね」

 ワンスの言葉にトゥリエ教授は出来のいい生徒を見るような顔で大きく頷く。


「そうじゃ。ニースの腑分けではあのウルフたちは普通の個体だったそうじゃし、これほどの能力を有する鹿王が、早々に……それこそ吾輩たちダイオークスの人間にその存在を一切悟られる事無く元の縄張りを追われ、突如としてダイオークスの近くに現れると言うのは、どうにもおかしなものを感じるのじゃ」

「「「……」」」

 トゥリエ教授の言葉に俺たちは得体のしれない何かの気配を感じたかのように押し黙る。

 いや実際、何者かが後ろで糸を引いている方がよほど自然なぐらいの不自然さを俺たちは今更ながらに鹿王の角から感じ取っていた。


「ま、現状で分かっているのはこれぐらいじゃし、次の話に移るかの」

 モニターの映像が再び切り替えられる。


「さて、今回お主らを呼んだのは、ある意味こやつが原因であるとも言えるの」

「どういう意味っすか?」

「こやつがそれだけの問題児と言う事じゃよ」

 モニターに映し出されたのは、例のUSBメモリーだった。

02/01誤字訂正

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