第69話「中央塔大学-1」
さて、最終的に第32小隊正式発足初日は大混乱で終わった。
だがしかし、そんな初日の反動が出たのか、次の日からは外勤部隊としての訓練も、家での生活についても、少なくとも俺が把握している限りでは平穏無事に過ごすことが出来た。
そして今日……第32小隊正式発足から五日目は、少し特殊な活動を行う事となった。
「ここが中央塔……他の塔に比べて明らかに広いですね」
「まあ、直径自体が他の番号付きの塔の倍有るでやんすからね。そう言う感想を抱くのも当然だと思うでやんすよ」
場所はダイオークス中央塔第51層、ダイオークス中央塔大学。
ダイオークス中の知識と英知が集まる場所であり、ある意味では俺たち外勤部隊とは最も縁遠い場所であるとも言える場所。
「しかし、どうにも目立っている感じがするね」
「言われてみれば……確かに」
「まあ、あっしたち全員、どう見ても学生って風貌じゃないでやんすからね」
「私なんて下手をすれば教える側の歳ですからね。まあ、四年前までは通う側の人間だったわけですが」
そんな場所に俺たちは、俺、ワンス、ライさん、ニースさんと言う、一見した限りではどういう意図なのかよく分からない面子でやって来ていた。
いやまあ、来る事になった理由が26番塔側からの命令の上に、俺とワンスを一緒にして考えれば、この前の任務で一緒に活動した三小隊から一人ずつ呼ばれたと見る事も出来るから、当事者にとっては意図も分かるかな。
たぶん、この前の任務で持ち帰った物絡みだろう。
「で、アタシらはここから何処に向かえばいいんだい?」
「ちょっと待つでやんす」
さて、俺たちが今居る場所だが、第51層の中でも外縁部に位置する、他の塔に移動するために回廊を走っている電車の駅前である。
周囲には同じような電車の駅の他にも様々な建物が建っており、建物の中には天井まで壁が伸びている物もある。
恐らくだが、中には複数の層に跨って建っている建物も有るのだろう。
そして、そんな建物の間……街路樹が脇に植えられた道を、生徒と思しき俺とワンスに近い年頃の男女が何人も歩いており、その内の何人かは俺たちの事をもの珍しそうに一瞥する事もあった。
「えーと、第53層にあるダイオークス中央塔大学の研究室の一つみたいっすね」
「なるほど。それなら私が案内をしますから、まずは第53層に続くエレベーターに向かいましょうか」
「分かりました」
「あいよ」
やがてライさんが詳しい集合場所をニースさんに告げ、ニースさんが先導する形で俺たちは移動を始める。
で、道すがらちょっと気になった事が有ったので、ニースさんに幾つか質問をしてみることにした。
「そう言えばニースさん。さっき四年前まで通っていたと言ってましたけど、この辺りってどういう構造になっているんですか?」
「この辺りと言うと?」
「えーと……、中央塔の第51層から第53層がどうなっているかと言う話です」
「あ、それはアタシも気になる。中央塔なんて一度も来たことが無いからね」
「なるほど。ではできるだけ説明をしておきましょうか」
と言うわけで、ニースさんから中央塔の第51層~第53層がどうなっているのかについて聞いてみたところ、こんな感じだった。
まず第51層は他の塔からダイオークス中央塔大学に入る為の玄関口であると同時に、ダイオークス中央塔大学付属の図書館など、他の塔の人間にとっても必要な諸々が集まっている層との事。
その上の第52層はダイオークス中央塔大学付属の高等学校になっていて、ニースさんは4年前まで此処に通っていたらしい。
そして、今回の目的地である第53層こそがダイオークス中央塔大学の本体であり、研究室の他にも講義を行うための部屋や、各種実験室に試験場などが有るらしい。
ついでにダイオークスの教育環境について語っておくと、ダイオークスで生まれた子供はまず七歳から九年間は義務教育として各塔の教育機関で教育を受ける。
その後、進学の意思を示すと同時に、試験でもって優秀な成績を収めた一部の子供だけが、ダイオークス唯一の高等教育機関であるダイオークス中央塔付属高等学校に通う事が許され、そこで三年間学ぶことになる。
で、付属高校で三年間学んだ後、更に極々一部の人間だけだけがダイオークス中央塔大学に四年間通う事が許され、大学卒業後については大抵の場合、それぞれの資質に合わせて各塔で要職に就くことになるそうだ。
「ちなみに、26番塔からだと今はオルガの弟が高等学校の方に通っているでやんすよ」
「そうなんですか?」
「まあ、流石に塔長の跡継ぎになろうと言うのなら、高等教育ぐらいは受けておかないと拙いですからね」
「なるほどね」
で、そうやって話をしている間に、俺たちは第53層までやってきていた。
雰囲気にさほど変化はない。
まあ、同じ大学の敷地内だから、当然と言えば当然なのだが。
それにしてもオルガさんに弟とか居たのか……。
「と、着きましたね」
「うん。確かに言われた通りの部屋っすね」
と、そうこうしている内に俺たちは指定された部屋の前にまでやって来ていた。
指定された部屋は第53層の中でも各教授のオフィスが集まっている区画に有り、扉にはこの部屋の主が今居る事を示す看板が掛けられ、扉の横にはこの部屋の主の役職と名前らしきものが掲げられていた。
「それにしても、まさか此処で彼女……トゥリエ・ブレイカンとは……」
部屋の主の名前はトゥリエ・ブレイカン。
役職はダイオークス中央塔大学の教授であり、専門はミアズマントの生態についてだそうだ。
さて、どんな人が来るんだろうな?
そして、ニースさんの手によって部屋の扉がノックがされた。