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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第68話「第32小隊-8」

 そう。確かに第32小隊発足初日の“業務”は無事に終わった。

 なので、此処からは仕事では無くプライベート。つまりは私的な時間であり、本来ならば各個人ごとに別行動をし、休むこと含めて明日に備えて色々とする事になるわけだが……。


「……」

「それにしても、この人数を一体どうやってあの家に入れるんだろうね?」

「どう考えても部屋の数が足りないよね……」

「えーと、26番塔の側で手は打っておくと私と姉さんは聞いてますけど……」

 俺は第43層の自宅に足を向けつつ、自分の背後を振り返る。

 そこに居るのは第32小隊に所属する女性陣六人。

 そう。俺たち第32小隊は異世界人である俺とトトリの二人と、俺たちを公私に渡って補佐する人員で構成されているため、プライベートにおいても一緒に行動する事になっている。

 それはつまり、家についても同居と言う形を取ると言う事である。


「そうなんだ。どんな手を打ったの?」

「行けば分かる」

「行けば分かる……ですか」

 うーん。

 ただ、俺の記憶が確かなら、今朝まで俺、トトリ、ワンスの三人が住んでいたあの家は、良くて後一人……ギリギリで二人住めるかなと言う程度の大きさだったはずである。

 なので、同居しようにも今居る七人全員で住むと言うのは物理的に無理だと思うんだがなぁ……。


「と、そろそろだ……な……?」

 そうやって考え事をしている内に、俺たちの家が見えてくる。

 そして、その家に起きていた変化を見た時。

 俺は唖然とした。


「なに……これ……」

 トトリもその変化に驚いている。

 だが、その驚きも当然だろう。

 少なくとも俺とトトリの常識では、その変化はたった一日どころか、たかだか八時間程度しかなかったはずの時間で起きていい変化では無かったからだ。


「なるほど。そう来たか」

「急場しのぎだがな」

「ですが、これなら確かに七人でも住めますね」

「後で部屋割りとか決めなくちゃね」

「えーと、ハル様?トトリ様?」

 そう、俺たちが仕事をしていた僅か八時間の間に、俺たちの家の二階と隣の家の二階を繋ぐ様に通路が作られ、一体化していたのである!

 ああうん、他の五人は俺たちほど驚いてはいない。

 が、俺とトトリにしてみれば想像だにしない状況だった。

 と言うか、たった一本の通路とは言え、八時間で数m分の通路一本とか……ダイオークス自体もそうだが、本当にこの世界の建築技術は一体どうなっているんだ……。


「ああうん、大丈夫。ちょっと驚かされただけだから」

「そう……なんですか?」

「むっ……」

 なお、他の五人の反応からして、この程度の高速建築はダイオークスではそこまで珍しいものではないらしい。

 マジで意味が分からん。

 後、シーザさん、何で俺の方を睨んでるんですか。

 ちょっとミスリさんに気づかってもらっただけでしょうが。


「とりあえず全員で家の中に入ろうか。夕飯にするにしても、ルールを決めるにしても、それなりに時間がかかるだろうし」

「そうだね」

「だね……」

「分かりました」

「……」

「はーい」

「そうですね」

 いずれにせよ、何時までも外に居たところで状況が好転する事は無いので、俺を先頭として俺達七人は家の中に入っていった。


----------


「ふぅ……」

 その後、姦しいどころではない賑わいを伴って夕食が終わり、新たに繋げられた部分の家について調べたり、今日中に決めておくべき大体のルールについては決めることが出来た。

 で、今は俺に聞かせられないと言うか、俺が関わるべきでは無い事柄についてトトリたち六人で話し合う事になったため、現在の俺は風呂でゆっくりと疲れを癒している。


「……」

 風呂の熱で全身の血流が促進されているためなのか、普段より思考が良く回る気もする。

 うーむ。どうせ、もうしばらくは風呂から出ない方が良いのだし、今後の事について考えておくか。


 まず、俺が考えておくべき事はだいたい四つに分類できる。

 一つ目は外勤部隊について。

 これについてはそこまで心配する必要は無いだろう。

 現状でも上手くいっている手ごたえも、強くなれている手ごたえも有るし、26番塔との関係も良好なのだから。


 二つ目は元の世界に戻る方法について。

 こっちについては現状俺に出来る事は無いな。

 何かしらの情報が入って来るか、この前の任務で持ち帰った物の解析が終わるまで待つしかないだろう。


 三つ目は他のクラスメイト達の行方。

 既に俺とトトリがこちらの世界に飛ばされてから一月以上経っているからな……俺たちのようにどこかの都市や組織に保護されていなければ、生存は厳しいと言うしかないだろう。

 だが、俺に出来る事と言えば……俺たちが最初に居た場所を把握していたドクターに相談を持ちかけて、自分でも集められる情報を集めてみるぐらいしかないか。


 で、四つ目はプライベートについてだ。

 今の俺の状況が世間一般的に見てハーレムと呼ばれる状態である事については、否定する余地は無い。

 で、シーザさん以外の面々については……その、補佐役と言う事は、ワンスと言う前例から鑑みるに、俺とそう言う関係になる事を狙ってくる可能性が無いとは間違っても言えないだろう。

 そうなった場合に俺が考えておくべきなのは……。


「~~~♪」

「ん?」

 そうやって、黙って静かに集中をして考え事をし続けていたためだろうか、俺が気が付いた時には既に全てが手遅れだった。


「あ……」

「え……」

 風呂場のドアが開く音がした。

 音に反応して俺はドアの方に顔を向ける。

 風呂場に入ってきた彼女……ミスリさんは当然衣服を身に着けていなかった。

 その胸に実った二つの大きな果実が揺れているのが目に入った。


「キャ……キャアアアァァァ!?」

「っつ!?」

「ミスリ!?」

「風呂場からだよ!?」

「ハル君!?」

「何々?」

「…………」

 一瞬の間の後、ミスリさんが思わずと言った様子で叫び声を上げ、その声で我に返った俺は全精力をもって顔をミスリさんから逸らす。

 そして、その直後にシーザさんを先頭にナイチェルさん以外の残りの面々が風呂場にやって来て……。


「なっ!貴様!?」

「ハル君のバカハル君のバカハル君のバカ……」

「おおっー」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「シーザとトトリは落ち着きな!ミスリはとにかく前を隠す!セブは感心している暇があったら動く!ハルはこっちを見るな!!」

 詳細は敢えて語らないが、とりあえず大混乱は起きたと言っておく。

04/29誤字訂正

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