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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第65話「第32小隊-5」

 さて、周囲(主に男)からの視線が痛い中で俺たち第32小隊は昼食を摂り終え、予定通りに第3層の訓練室に移動する事になった。

 うん。とりあえず今後は小隊で食事をするなら、人目に付かない所か、待機室や自宅のように周囲の目を気にしなくてもいい場所を選ぼう。

 毎回あの空気の中で食事をするのはキツイものが有る。


「此処がそうだ」

 さて、俺たちが移動した訓練室だが、俺の入隊試験の総合で使われた部屋に比べると一回りは小さい上に、障害物や霧の発生装置どころか準備室も無く、有るのは何処までが試合場なのかを示す白線だけと言う純粋に正面切っての模擬戦を行う事を意図しているような部屋だった。

 と言うか、剣道場とか柔道場とかそんな感じの部屋だな。


「さて、これから模擬戦を行うわけだが……」

 シーザさんは時計を取り出して時間を確認した後、俺たち全員の顔を一度見回す。


「私、ハル、ワンス、トトリの四人で一対一の模擬戦と言う形式を今回は取ろう。そして、ミスリたちには模擬戦の記録を取ってもらう事にしようか」

「分かりました。姉さん」

 シーザさんの言葉に俺たち全員は肯定の意を示し、模擬戦を行う事になる俺たち四人は白線の内側に、記録を行うミスリさんたち三人は白線の外側に移動する。

 そして、ミスリさんたちはそれぞれに持ち込んだ記録用紙やカメラの準備を始める。


「で、肝心の模擬戦の組み合わせについてはどうするんだい?」

「一応、私は事前に受け取った資料で第32小隊の戦闘要員の実力については分かっている。が、資料と実物に差が有るのはよく有る事だ。だから、今回の模擬戦はお前たち三人個人の実際の実力について知りたいと思っている」

「つまり?」

「組み合わせはトトリとワンス。私とハルと言う事にしよう。順番は……ワンスたちが先でいいだろう」

「分かった」

「分かりました」

 で、組み合わせと順番については俺が一言も挟む間もなく、先にトトリとワンスの二人。その後に俺とシーザさんと言う組み合わせに決まり、俺とシーザさんは白線の外側に移動する事になる。

 しかし、俺が言うのも何だが……シーザさんはサルモさんやドクターみたいに【堅牢なる左】を察知できるんだろうか?

 察知出来ないと低出力版の【堅牢なる左】の相手はかなり危険だと思うんだが……だからと言って高出力版は……うん、そもそも任意で出せるかも怪しいな。

 まあ、そこら辺は模擬戦が始まってからまた考えればいいか。

 それに……。

 俺は白線の内側に残っている二人に目を向ける。


「模擬戦っていいですよね。ワンス」

「骨折ぐらいまでなら、ちょっとやり過ぎたで済むからかい?トトリ」

 二人はお互いの顔を睨み付けながら、表面上は笑顔かつ和やかに会話をしていた。

 だが、俺の目には別な物が映り込んでいた。


「そうですね。後遺症が残らない限りは問題ないと言うのは良いですよね」

「そうだねぇ。後遺症が残らなければ、どれだけ派手にやっても良いからねぇ」

 トトリの背後には大きく翼と口を広げ、足の爪を光らせつつ、鋭い眼光を相手に向ける鷹の姿が。

 ワンスの背後には牙を剥き出しにして、唸り声を上げながら相手を睨み付ける狼の姿が。

 勿論、ただ二人の気迫と言うか、闘気のような物がそう見えていると言うだけで、二人の背後に実物が有るだけではない。

 だが、そう見えてしまうほどに今の二人が漲らせている闘気の質と量は凄まじかった。


「ハンデは必要かい?アタシとアンタじゃ、経験の差が有り過ぎるしね」

「ハンデなんて必要ないよ。私には特異体質が有るし、それにハンデなんて付けたら実力が分からないじゃない」

 ワンスは模擬戦用に刃を無くし、スポンジのような物を代わりに付けた銛を何度か振り回して調子を確認する。


「それに、私が勝った時の言い訳にされたくも無いし」

「へぇ……私に勝つ気が有ると。言ってくれるじゃないか」

 対するトトリは指の腹に金属のような物を付けた手袋を両手に填めると、ワンスと同じように模擬戦用に刃を潰した短剣を数度振って調子を確かめる。


「「…………」」

 いや、と言うかさ……これ、拙くね?

 なんか二人ともやる気を通り越して()る気を出してないか?

 これ、このまま模擬戦を始めたら大惨事になるんじゃ……。


「あの、シーザさん」

「なんだ?」

「これ、大丈夫なんですか?ほら、公私混同は駄目だって午前中にも言ってましたし、止めた方が……」

 不安になった俺はシーザさんに止めた方が良いのではないかと尋ねてみる。

 が、シーザさんは俺に対して何を言っているんだと言う顔を向けるとこう言った。


「確かに規範として公私混同はするなと言ったが、それは私が公にマイナスの影響を与えるに限った場合の話だ。私が公にプラスの影響を与えると言うのなら、私からとやかく言う事は無い」

「……」

 ああ、うん。だめだ。

 シーザさんは二人の殺気に気づいてない。


「カメラの準備完了です」

「記録用紙の方も問題ないです」

「救急箱の中身も問題ないね」

 俺はミスリさんたちの方も見てみるが……どうやら、ミスリさんたちも気づいていないらしい。


「…………」

 これはもう、いざとなったら【堅牢なる左】を使って無理やり割って入るしかないな。

 俺はそう考えると、何時でも【堅牢なる左】を発動できるように準備だけは済ませておく。


「さて、準備も整ったようだし、そろそろ始めるとしようか」

「「……」」

 時計を一度確認してからシーザさんはそう言い、シーザさんの言葉に合わせる様にトトリとワンスの二人も開始位置に着き、それぞれに構えを取る。

 既に二人の背後から妙な威圧感は感じない。

 が、これは無くなったと言うよりは、むしろ密度が上がった分だけ体積が減ったと言うべきな感じがする。


「ルールは一本勝負で、相手に有効打を当てたと私が判断したら一本だ。制限時間は十分とする」

「実力の差と言う物を見せてやるよ」

「それはこっちの台詞です」

「では……始め!」

 そしてトトリとワンスの模擬戦は始まった。

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