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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第64話「第32小隊-4」

 さて、今日の予定についてだが、午前中については第32格納庫に来る途中でワンスとトトリが言っていたように、装備品についてだった。

 ただ、やる事は俺、トトリ、ワンスの三人の装備の調整だけではなかった。

 別の小隊から第32小隊に移動してきたシーザさんの装備についてはミスリさんに伝えておく必要が有ったし、今まで外勤部隊では無かったセブについては一から装備を整える必要もあったし、キャリアーもセブに合わせた仕様にする必要だってある。

 また、念の為にと言う事でナイチェルさんとミスリさん自身の装備についても防護服だけは作っておくことにもなった。


「ハル様は少し外で待っていてくださいね」

「分かってるって」

 で、やる事の内容が調整三件、引き継ぎ一件、新規三件となり、新規と引き継ぎの作成が有ると言う事は当然各種測定もあると言う事で、自分の装備についての要望を伝えた俺は一時的に塔内部側の待機室外に出される事となった。

 まあ、こればかりはしょうがないな。うん。

 これから為されることを考えたら、俺の理性が最後まで持つ保証は何処にもないし。


「さて、待っている間に何をするかな……」

 俺は待機室に続く階段の一番下の段に座り、天井を見上げながら待ち時間に何をするかを考える。

 ミスリさんの話だと、六人分の装備に関する諸々をやっていたら、午前全部の時間は間違いなくかかるらしい。

 なので、俺個人についてはこれから午後までずっと暇になる訳だが……。

 うん、急に空き時間が出来てしまったせいでやる事が見つからないな。


「うーん、先に行っているか?ああでも無理か」

 一応、午後の予定についてはシーザさんから聞いていて、第3層にある訓練室の一つで訓練をすると聞いている。

 が、その訓練室についてはシーザさんの名前で借りられている上に、借りている時間についても午後からになっているので、今行っても借りる事は出来ない。

 となると後は訓練室を使わない自主的な訓練と言う事になるが……。


「【堅牢なる左】の自主訓練を勝手にやるのは単純に危険だしなぁ……」

 【堅牢なる左】の訓練については、勝手にやる事は禁止されていて、やる場合については場所は訓練室と決まっている上に、周りに監視員または指導者に当たる人が居る状態で無ければ発動すらしてはいけないと26番塔側から通達されている。

 これは万が一【堅牢なる左】が暴走と称すべき状況になった際に、周囲に他に人が居なければ最初の対応が遅れることになると言う事と、塔そのものに対する物も含めて、周囲への被害は出来る限り抑えなければならないと言う事情からだ。

 この判断については勿論俺も納得している。

 と言うか、納得せざるを得なかった。


「だからと言っていきなりサルモさんに指導役を頼むのは論外だしなぁ……」

 で、この条件なら誰か適当な人……っそれこそサルモさん辺りを捕まえて来て、見ててもらえば訓練が出来ると言う事になるが……、アポも無しに今から俺の自主訓練に付き合ってくださいと言うのはあまりにも不躾だろう。

 と言うか、言っても断られるに決まってる。

 サルモさんを始めとして、外勤部隊の人たちはそんなに暇ではない。

 任務は勿論、装備の調整に訓練、人によっては書類仕事や他の塔の人間との交渉事も有ったりするのだから。

 ……。今の俺が暇な件については敢えて気にしないでおく。うん。


「しょうがない。とりあえず第1層の格納庫前を使って長距離走でもしているか」

 結局、俺に出来るのは自主訓練の中でも特別な道具や場所を必要としないもの。

 つまりは長距離走に腹筋や腕立て伏せと言った筋トレに限られることになり、俺は一応待機室の中に居るシーザさんたちに走って来る事を伝えた上で、長距離走を始めることにした。

 まああれだな。体力をつけておいて損になる事は無いんだし、有意義な時間の使い方だと思っておこう。


-----------


「ぜぇーはぁー……ぜぇーはぁー……」

 さて、長距離走を始めてから一時間以上は間違いなく経った頃のこと。

 俺は第1層に用意されているフードコートの一角で息を整えていた。


「じゅるるる……」

 で、ある程度息が整ったところで、フードコートで買った清涼飲料水のような物を飲む。


「ぷはぁー……」

 どうしてこんなに息が上がっているのか。

 まあ、経緯をまとめてしまえば実に簡単な話である。


「やっぱり、俺はまだまだ鍛え足りないな」

 俺は第1層の外縁、格納庫前を走っていた。

 そしたら、俺と同じように格納庫前を走って体力をつけている外勤部隊の人たちが他に居た。

 なので、俺はその人たちと一緒に走ろうとした。

 すると、いつの間にか競争のようになって、ペースがどんどん上がってしまい……俺についてはご覧のありさまで、一緒に走ってた人たちについても、その大半が今はフードコートの隅の方でテーブルに突っ伏している。


「そう思ってるなら、上出来だ」

「サルモさん……」

 ちなみに、その走っている面々の中にはいつの間にかサルモさんやレッドさんなど、俺の顔見知りの人たちも混ざって居たのだが……、最後は殆ど全力疾走と言う状況だったにも関わらず、現在のサルモさんは涼しい顔で俺を見下ろしているし、レッドさんは今もかなりのペースで走り続けている。

 やっぱり、この人たち半端ない……。


「ああそうだ。ハル。お前の特別訓練の日取りについては、今回の任務でお前らが持ち帰ってきたUSBメモリー等の解析が一通り終わったらと言う話になった。だから、早くても一週間は先になりそうだ」

「分かり……ました」

「じゃあ、またな。詳しい日取りが決まったら、シーザを通じて連絡をする」

「はい……」

 そうしてサルモさんは涼しい顔のまま俺の前から去っていき、お昼休みに入った事を告げるベルが鳴らされた。

 ちょっとお昼が入るか心配かもな……。

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