第63話「第32小隊-3」
「まず第一に伝えておくのはこの小隊の規範についてだ」
「規範?」
シーザさんの言葉に俺は首をかしげる。
規範と言うのはつまり俺たちが守るべきルールと言う事になるが、26番塔のものが既に有るにも関わらず、それをわざわざ伝えると言うのか?
「そうだ。先ほども言ったが、我々第32小隊は26番塔所属の外勤部隊の中でもかなり特殊な位置づけになる。他の塔に所属する者が多数居ると言うのもそうだし、セブやナイチェルもワンスと同じ補佐役である以上、小隊全員の関わり合いは公私に渡る事になる」
「あ、やっぱりそうなんだ……」
「まあ、補佐役だしねぇ……」
シーザさんの言葉にトトリとワンスが頷く横で、俺は少なくともセブとナイチェルさんの二人があの家に加わると言う事実に、俺は内心で家の中のルールをどう改めるべきかについて少々悩む。
が、直ぐに今はそれどころではないと判断して、シーザさんの言葉に改めて耳を傾ける。
「また、異世界人二名がいる関係上、その任務の内容にしても他の外勤部隊とは大きく異なるものになるだろうし、26番塔以外の塔は勿論のこととして、ダイオークス以外の都市との関わり合いが出てくる可能性も否定はできない」
「まあ確かに、一度くらいは僕の所の22番塔にも来て欲しくは有るかな」
「そうですね。その点については私の所属する17番塔もそうですし、ワンス様の31番塔もそうでしょう」
「まあ、否定はしないね」
で、どうやら俺たちの今後については、ダイオークスの外で調査するだけでなく、他の塔に出向いて何かをすると言う事もあるらしい。
まあ、現状では他に探索するべき場所の手掛かりも何も無い……と言うか、正確には一ヶ所と言うか一体あるけど、あれには流石に手を出せないしなぁ……それもしょうがないか。
「そう言うわけだから、通常の26番塔外勤部隊としての規範だけでなく、第32小隊独自の規範についても定めておく必要が有るわけだ」
「なるほど」
「さて、前置きが随分と長くなってしまったが、規範を定めると言っても私から言っておく事は二つ……いや、三つほどだ」
そう言ってシーザさんは俺たちに向かって三本の指を挙げる。
「一つは公私についてははっきりと分けておく事。もう一つは外に中のいざこざを持ち込んだりしない事。そして、最後の一つは先の二つの規範を破った者には罰を与え、場合によっては外勤部隊からの除隊処分も有ると言う事だ」
「最初の一つはプロとして当然の規範ですね」
「次のは外勤部隊として当然のことだね。まあ、守らない奴はまず間違いなく死ぬんだけど」
「最後のも当然と言えば当然かな。特に僕たち他の塔からの補佐役については、他にもなりたい人は沢山居るんだし」
シーザさんの言葉に続けて、ナイチェルさんたちが簡単な補足説明をする。
しかし、どれもわざわざ言われなくても……と思ってしまいそうな内容だな。
最初の一つはナイチェルさんが言うとおり、それを仕事とするなら当然のことで、仕事に私情を絡ませても状況が良くなることはまず無いだろう。
次のもワンスが言う通りで、瘴気に満ち溢れた外では、中でどれだけ仲が悪かろうと協力をしなければならない。でなければ、自分自身どころか、小隊全体の存亡に関わる。
最後のにしても、決まりを守れない人間をわざわざ小隊に置くなんてことをしている余裕は26番塔どころか、ダイオークス全体で存在していないだろう。
ただそれでもわざわざ規範と言う形でシーザさんが明確に示したのは、そんな話は聞いていなかったと言う抜け道を事前に潰しておくためだろうな。
後、この規範は当然のことながら俺とトトリの二人にも適用される筈なので、俺も勝手が過ぎれば外勤部隊をクビにされる事もあるのだろう。
と言うか、俺の特異体質を希少な物として捉え、出来れば危険から遠ざけておきたい連中にとってみれば、むしろ俺が規範を破ってクビになった方が都合が良いぐらいなのかもな。
うん、気を付けておこう。
悪意の有る無しに関わらず、俺が意図しない場所から付け入られる隙は出来る限り減らすべきだ。
「ふむ。全員規範については納得してもらえたようだな。では、今日のこれからの予定についてだが……」
俺たち全員の顔を見回して、全員がシーザさんの示した規範について納得している事を確認してから、シーザさんは今日の予定を話し始めようとする。
「ところでシーザさんだっけ。アンタがこの小隊の隊長になっている理由についても説明しておいた方が良いんじゃないかい?この小隊の特殊性云々について言うなら、ハルを隊長にするべきだって言う意見も有ったはずだよ」
「ん?ああ、ゴホン。その件についてか」
が、その前にワンスがどうしてシーザさんが隊長なのかについても説明しておくように言い、シーザさんは若干慌てた様子で時計を見てから、一度咳払いをして話をする。
「その件については単純な話だ。隊長職と装備担当については26番塔の機密事項に関わる事が多いからな。そうなると当然、他の塔の人間には任せられないし、外勤部隊の仕事以外にも様々な面から負荷がかかる事が予想される異世界人二人にさせるわけにも行かなかった。故にミスリの姉でもある私が隊長に就く事になったわけだ」
「えーと、まあ、そう言う話なんです。はい」
「なるほど」
まあ確かに、俺なんかに隊長を任せたら、ハニートラップとかに引っかかって、言っちゃいけない事をポロリとどこかで言ってしまう可能性は否定できないよなぁ……。
事実、ワンスにはもう手を出してるわけだし。
うん。機密事項を守り切れる気がしない。
「さて、第32小隊として予め話しておくべき事はこれぐらいか。では、今日これからの予定についてだ」
そうして、シーザさんは今日の予定を話し始めた。
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