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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】
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第60話「休日-1」

 初任務が終わった翌日。


「はぁー……」

「ふぇー……」

「あぁー……」

 俺たち三人は、自宅のリビングでだらけ切っていた。

 うん。今の姿を何も知らない人に見られたら、自堕落過ぎると言われそうだ。

 でも、こんな風に俺たちがだらけているのにはきちんと理由がある。


「まさか、個人個人でレポートを書かされるとは……」

「しかも、お互いに相談禁止とかね……」

「今日を休みにして貰えたのが、不幸中の幸いだね……」

 俺たちの現状の原因は、初任務後に待ち受けていた報告書(レポート)にある。

 そもそも報告書と言うのは、よほど特殊な任務でない限りは、どんな任務であっても終了後に必ず各班ごと(・・・・)に書かされる物である。

 それは26番塔だけでなく、ワンスが所属していた31番塔でも同じであり、俺とトトリにしても基礎訓練中に報告書の書き方自体は教わっていた。

 なのでまあ、報告書を書くと言う行為自体は俺たち全員納得しており、特に問題なかった。

 では何が問題なのかと言えば……条件と量に問題が有った。


「まあ、任務の内容が内容だったしな……」

特異個体(イレギュラー)に隠し部屋だもんね……」

「おまけに本来の【堅牢なる左】なんてものをハルが出しちまったしね……」

 まず、各班ごとに提出のはずの報告書を何故か各個人ごとに、お互いに相談せず見たまま感じたままを書くように命令された。

 おまけに、その内容にしてもシェルター内の構造から隠し部屋の様子に、其処で回収した物の詳細、熊級ミアズマント・タイプ:ディール特異個体との戦闘内容に俺の本来の【堅牢なる左】と実に盛りだくさんであった。

 でまあ、そんな量の報告書をギリギリの戦闘で限界まで心身ともに酷使した状態で書かされたのだから……うん。この状態になってもしょうがないと思うんだ。

 肉体的には大丈夫でも、精神的には瀕死ですよ。ええ。

 本当に、特異個体の討伐報酬として今日を休みして貰えてよかったよ。

 俺たちと同じく特異個体と戦ったはずのライさんは何故か今日も元気に働いてたけど。


「とりあえずあれだね。今後、ハルの小隊を正式発足させたり、各塔ごとのパワーバランスを調節する関係上、近々増員が派遣されるはずだけど、新しくやってくる子はレポートを書くのが上手いと、アタシとしては嬉しいね」

「増員かぁ……増やさざるを得ないんだったら私もそれには賛成かなぁ……。後、第3小隊のブルムさんみたいに、細かい裏方の事務作業を専門的に担当してくれる人も欲しいよね……」

 ワンスとトトリの二人はだらけたまま会話をしている。

 が、その内容については、俺としても大いに賛成をしたい所だった。

 実際、他の外勤部隊の人たちにしても、オルガさんたち第1小隊ならライさんが報告書の大半を書いているそうだし、ダスパさんたち第3小隊なら基本的にはニースさんが報告書を書いてあげているって言う話だったしなぁ……誰か一人担当者を決めておくって言うのは、その担当者になった人含めて、小隊全体にとっていい事だと思う。


「ところで、さっき各塔ごとのパワーバランスって言ってたけど、それはどういう意味なんだ?」

「ん?ああ。パワーバランスの調節って言うのは、現状だとアタシが所属している31番塔と、ハルたち自身の所属している26番塔の二塔が有するハルたちへの干渉能力が強すぎてよろしくないから、別の塔からもハルの元に補佐役を出そうって言う話の事さ」

「別の塔……何処からなんでしょうね?」

「そこは来る人数含めてアタシには分からないね。ただ、現状だと外周十六塔の人間ばかりだし、内部二十五塔の人間も混ざって来るんじゃないかい?」

 なるほど……パワーバランスってのはそう言う意味か……。

 ちなみに外周十六塔と言うのは25番~40番塔のダイオークス外縁部に存在している、外勤部隊を有する塔の事で、内部二十五塔と言うのは外周十六塔よりダイオークスの内側にある中央塔と1番~24番塔の外勤部隊を持たない塔の事である。

 なお、俺はまだ行った事は無いが、内部二十五塔の中には歓楽街になっている場所などもあるそうで、中々に賑わっているらしい。


「それにしても、新しい人員ってどんな人が来るんだろうな?」

 まあ、内部二十五塔の事はさて置いてだ。

 やはり俺が気になるのは、これから俺たちと組むことになる誰かについてである。

 で、俺としてはワンスとトトリの二人と一緒にどんな人が来るのかワイワイと好き勝手に話して、精神的な疲れを癒したいと思っていたのだが……。


「「…………」」

 ワンスとトトリの二人は顔だけ動かして、お互いに視線を交わす。

 すると、二人はまるで以前から示し合わせていたように揃って動きだし……、


「ううっ……まさかハルが一度ヤっただけで興味を無くすような男だなんてな」

 ワンスは俺から顔をそむけた上でそう言い、


「酷いよハル君。あの夜の事は遊びだったの……?」

 トトリは何処からかハンカチを取り出して自分の目に当てながらそう言った。


「え?」

 俺は二人の行動に唖然とするが、二人の行動は止まらない。


「あんなに激しくやられたら、もうハル以外じゃ満足できないって言うのに。そんな……」

「でも、しょうがないよね。ハル君も男の子だもんね。畳と彼女は新しいものの方が良いんだよね」

「え?え?」

 二人の本気にしか見えない、けれど唐突過ぎる行動に俺としては困惑の色を深めるしかない。

 いや、と言うか本当にどうしてこうなった!?

 俺が一体何をした!?

 と言うか、何故俺が二人を捨てるだなんて言う話になっているんだ!?

 俺にはそんな無責任な真似をするつもりは無いよ!?


「まあ、冗談はこれぐらいにしておいてだ」

「そうだね。そろそろ止めておこうか」

「へ?冗談?」

 そうして俺の混乱が極みに達しかけた時だった。

 二人は始めた時と同じように、唐突に居住まいを正すと、俺の顔を真剣な目つきで見つめてくる。

 と言うか冗談って……一瞬、本当に何が起こったのかと……。


「とりあえず新しく来る奴は、目的については間違いなくアタシの同類だぞ」

「え?同類?」

「早い話がハル君と夜の付き合いもしたい人って事」

「あー……なるほど……」

 俺はその言葉で二人先程の行動の意味を理解する。

 そう言えば、ワンスが補佐役になった目的もそう言う事だったしなぁ……となれば、新しい子って言うのが女性なのはほぼ確定事項なのか。


「まあ、一夜共にすれば、ハルを独占しようとは思わなくなるだろうけどね」

「うん。誰が一番なのかって言う争いの方は大変になるけど、一人あたりの負担は減ると思う」

「…………」

 で、続けて発せられた二人の言葉については、聞こえなかった事にしておこう。

 心の中ではごめんなさいと謝っておくけど。


 そんな感じで、初任務の次の日は一日ゆったりと休むことになったわけだが、今にして思えば、嵐の前触れのような物だったんだろなぁ……と思わなくもない。

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