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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第6話「キャリアー-1」

「んー……?」

 目を覚まして瞼を開けると、俺の目の前に二段ベッドの裏側のような天井が見えた。

 ああいや違うな。

 二段ベッドの裏側のような天井では無くて、本当に二段ベッドの裏側なんだろう。

 後頭部に覚えのない感触の枕と、腹から下にかかるように薄手の毛布が掛けられているし。

 それにしても俺はどうして此処に……。


「おっ、目が覚めたか」

「っつ!?あだっ!?」

 そこまで思考が及んだ時だった。

 気を失う直前に聞いた声の一つ……ダスパと言う人間の声が聞こえ、その声に驚いた俺は自分が今居る場所も考えずに上半身を跳ね起こしてしまい、結果として激しく額を打ちつけてしまう。


「おいおい、大丈夫か?折角起きたのにまた気絶じゃ、何時までも起きられないぞ」

「す、すみませ……」

 俺は痛みに悶えながらも周囲の状況を確認する。

 周りに居るのは三人の男性だけで、部屋の方は狭くは有るがキッチンが備え付けられたリビングのようなところであり、部屋の中心にはちゃぶ台のような物が置かれていて、俺の荷物もそこに有るようだった。

 状況から考えて、先程の宇宙服の中身が目の前の三人であると考えても問題は無いだろう。

 そして、大きなエンジンの音に加えて、僅かではあるが振動と加減速等の影響なのか、前後左右に揺さぶられているような感じがする。

 もしかしなくても俺が今居るのはキャンピングカーのような所で、何処かに……ドクターと言う人物が居る場所に向かって移動しているのかもしれない。


「とりあえず其処だと話もしづらいだろうし、こっちに出て適当に座れや」

「あー……はい」

 俺はダスパの声に従ってベッドの外に這い出て、部屋の中央に敷かれた絨毯の上に座る。

 その際に俺は自分が寝ていたベッドを見たのだが、どうやら二段ベッドではなく三段ベッドだったらしい。

 そして、三段ベッドなんて代物が置けることから分かるように、このキャンピングカーの天井はかなり高く、普通の家よりも多少高いぐらいだった。

 ただその割に俺が今居る部屋の横幅は狭めなので、二方向に扉が付いている事も合せて考えると他に部屋が有るらしい。

 それと、何故かは分からないが、窓は極々小さなものも含めて一切存在しなかった。

 どういう事だろうか?


「さて、お互いに聞きたい事は多々あるだろうが、とりあえず自己紹介でもしておこうか。お互いの名前も分からないんじゃ話しづらくてしょうがないだろうしな」

「それはまあ……確かに」

「と言うわけでまず俺からだな。俺の名前はダスパ・クリン。ダイオークス26番塔外勤第3小隊小隊長だ」

「あ、はい」

 そう言って黒髪短髪で黒目の見た目20代後半ぐらいな男性……ダスパさんが人の良さそうな笑みを浮かべながら俺に向かって右手を差し出し、俺はそれに応じる形で握手をする。

 名前の後に言ったのは、役職か何かかな?確証はないけど。


「私はニース・ペーパーと言います。先程はすみませんでした」

「あ、もしかしてさっきの……」

「ええ、君が無事で良かったです」

「いえ、こちらこそすみませんでした」

 続けて青い髪に緑色の瞳と言う、地味に此処が異世界であることを見せつけてくれるような線の細い青年……ニースさんが多少申し訳なさそうな表情を浮かべながら右手を差し出し、俺も謝りながら握手に応じる。

 聞きたい事は色々と有るけど、まあ、まずは自己紹介が終わってからだよな。

 やっぱりあの電撃は悪気が有った訳ではなく……と言うか、俺の行動の拙さが原因っぽい感じだし。


「じゃ、次は俺だな。俺の名前はコルチ・ノーシィ。よろしくな」

「あ、はい」

 最後に赤い髪に銀色の瞳の男性……コルチさんが、笑顔を浮かべつつも、ごつごつとした右手を俺の方に出してくる。

 当然のことながら、俺もそれに応じる。

 コルチさんは……俺を此処まで運んでくれた人だったな。確か。


「じゃ、最後はお前さんだな。名前は?」

「俺は羽井(はのい)ハルと言います。あ、羽井の方が苗字です」

「ふむ。となると俺たちの都市の言い方をするなら、ハル・ハノイと言う事になるな」

「名前はともかく、苗字の方は聞き慣れない響きですね」

「そうだな。近隣都市の何処と比べても違う感じだ」

 俺は自分の名前を名乗り、俺の名前を聴いたダスパさんたちは俺の名前の響きについて不思議な感覚を持っているようで、どこの出身なのかをその響きから探っているようだった。

 で、そんな時だった。

 扉の一つ……何となくキャンピングカーの進行方向な感じがしていた方の扉が開き、


「コラ!なに、アタシの事を紹介するのを忘れてんの!」

「「い!?」」

「わ、悪い……ガーベジ……」

 女性の声が響くと同時に、金髪赤目の美人女性の横顔が扉の向こうから出てきて、その声にダスパさんたちが明らかに狼狽した様子を見せたのは。


「会話は聞いていたわ。ハル君だったわね。私はガーベジ・クリン。そこに居るダスパの妻よ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 ガーベジさんは俺の方に視線を向けてそう言うと、左手の薬指に一瞬輝くものを見せながら顔を引っ込める。

 進行方向から考えるに、ガーベジさんが居る方が運転席なのかもしれないな。


「ダスパ。とりあえず最低限の情報収集は済ませておいてね。でないと今日の門衛役次第では厄介な事になるだろうから」

「お、おう。分かった。任せておいてくれ」

「ニースとコルチはこの人が変な聞き方をしないように見張っておいてね。どんな事情があるにせよ、その子が一人で旧都市に居たのは事実なんだから」

「承知いたしました!」

「分かっております!」

「じゃ、後は任せたわよ」

「…………」

 で、ダスパさんたちの反応から俺は察する。

 ダスパさんは自分の事を小隊長だと言っていたが間違いない。

 この集団の実質的リーダーはガーベジさんだ。

 うん、俺も逆らわないでおこう。

 折角掴んだ人が居る場所の手掛かりをみすみす逃したくはないし。

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