第57話「M1-18」
その後、俺たちは普通のディールを倒して駆けつけてきたダスパさんたちキャリアー護衛班と、援護としてやってきたサルモさん他25番塔と27番塔の外勤部隊の人たちによって回収され、ダイオークスに移送されることになった。
なお、小部屋に有った物やシェルター内の釘などの特に重要な物に関しては念のために俺のキャリアーに乗せ、他の塔の人たちにはディールの残骸(角は除く)だけ運んでもらう事にしてある。
「「「……」」」
で、現在の俺はと言えばだ。
ライさん、ダスパさん、サルモさんの三人の前で正座をしていた。
……。一応言っておくが、俺の正座は自発的に行っている物であり、決して強制されたものではない。
ただ俺がこの場の空気に耐え切れなかっただけの話である。
「で、ハル。結局あれは何だったんすか?」
眉間を揉みほぐしながらライさんが俺に質問する。
アレが何を示しているかなど考えるまでもない。
考えるまでもないが……
「ぶっちゃけ、俺にも殆ど分からないです」
俺としてはそう言うしかなかった。
「分かってない……か。はぁ……俺は現物を見ていないから、詳しく何かを言う事は出来ないが、こりゃあ拙いな」
「そうだな。熊級ミアズマントの特異個体を打ち倒すどころか握り潰すような何かの正体が分からないと言うのは、流石に拙いだろう」
「でも、現実問題として、出て来ちゃった以上は報告書にも書かないといけないんっすよねぇ……あ、泣けてきたっす」
「何と言うか、すみません……」
俺の言葉にダスパさんは顔に手を当てて溜め息を吐き、それとは対照的にサルモさんは表情を変えずに淡々と言葉を紡ぎ、ライさんに至っては虚空を見つめて『きゅっきゅっきゅっ』と力なく笑っていた。
こうなったら、とりあえず俺の知っている情報は全部出して、その上で判断してもらうしかないか。
幸いにして、このキャリアーにはこの場に居る俺たち四人の他には、運転手役を務めてくれているニースさんしか居ないしな。
変な所にまで情報が漏れる事は無いだろう。
と言ってもだ。
俺が知っている事と言えば、アレが本来の【堅牢なる左】である事。
今まで使っていた【堅牢なる左】はエネルギー不足による低出力版だった事。
本来の【堅牢なる左】は出てきたが、現状では今までの【堅牢なる左】しか俺自身の意思では出せない事。
これらの知識が本来の【堅牢なる左】が発動した際に何処かからか流れ込んできた事ぐらいである。
で、それを聞いた三人はと言えば……。
「もう嫌っす!絶対この件を上に直接報告をするのはあっしじゃないですか!もう嫌っすううぅぅ!」
「これはまた特別訓練をする必要が有りそうだな。低出力版と本来の物とで使い分けられるようになる必要は間違いなく有る」
「周囲の瘴気が目に見えて薄れるほどのエネルギーを必要とする力って……どんだけ燃費が悪いんだよ……」
「ははははは……」
三者三様の反応を示していた。
とりあえずライさんにはご愁傷様と言うしかないかなぁ……。
あの場に居たのが俺、トトリ、ワンス、コルチさん、ライさんの五人である以上、この件に関して説明をするのもこの五人の内の誰かと言う事になり、この五人の中だと誰が見てもライさんが一番説明役には適役だもんな……。
特別訓練については……まあ、普通の人には見えない低出力版と、強力な分だけ扱いを気を付ける必要が有る本来の【堅牢なる左】を使い分けられるようになるのは俺の戦闘能力を向上させるためには必須だろうし、賛成だな。
燃費については瘴気を利用している限りはたぶん問題ないだろう。
外なら幾らでもあるんだし。
「まあ、いずれにしてもだ」
と、ここでサルモさんが話の流れを変えようと声を発する。
「お前たちが初任務を無事に達成した上に、あの限られた戦力で熊級ミアズマント・タイプ:ディール特異個体を倒した事は事実。これだけの戦果を上げた新人隊員と言うのはダイオークス全体どころか、この世界全体で見ても稀のはずだ。この点については大いに誇っていいし、誇るべきだろう」
「ありがとうございます」
サルモさんの口から出てきたのは純粋な称賛の言葉。
俺はその言葉に思わず頬を緩めそうになるが……
「だが、今回の件で驕る事が無いようにしろ。現にお前ももう一人の新人であるトトリにも、何度か危うい場面があったと聞いているからな」
「はい」
続けて発せられたサルモさんの言葉に俺は気持ちを引き締め直す。
現にディールの攻撃によって俺もトトリも危うく命を落としかねない場面があったのだから。
「つまるところ、お前にはもっと精進する必要が有ると言う事だ。ダイオークスに帰って、今回の件の後始末が終わったら覚悟しておけ」
「はいっ!」
俺の返事がキャリアーの中に大きく響き渡る。
そして、俺たちを乗せたキャリアーはダイオークスのNWWゲートからダイオークスの中に入り、ダイオークス26番塔に帰還した。
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