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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第55話「M1-16」

「はぁ。じゃあ、全員に作戦を通達するっすよ」

 ライさんはディールに対する警戒はそのままに、俺たちに対して指示を出し始める。


「まず、コルチ、ワンス、あっしの三人でディールの後ろ脚の関節部に集中して攻撃を仕掛けるでやんす。で、ディールに隙が出来たら、トトリとハルが同時にそれぞれ別の方向から攻撃を仕掛けるでやんす」

「了解」

「あいよ」

「分かりました」

「はい」

『…………』

 今の所ディールに動きは無い。

 しかし、未だに戦う気が失せていない事はその目から感じ取ることが出来た。

 ライさんの作戦が作戦と言える程に細かいものではない点については……今回は急場しのぎに組んでいるだけの面子で、連携訓練も何もしていないのだからしょうがないな。


「ただし、相手が相手でやんすから、回避最優先で友軍誤射にも注意するっす。後、奴の真ん前と真後ろには絶対に立たないように。鹿を模している以上、その場所への攻撃は他の場所よりも厳しいものになるっすからね」

「「「…………」」」

「うっ……」

 で、ライさんの注意事項に関しては……まあ、正面に関しては実際に受けた事が有るから、注意するのも分かるけど、真後ろは真後ろで危ないのか。

 たぶん、後ろ蹴りが来るとかそんな所なんだろうな。


『デイイィィルウゥゥ!』

「さあ、コイツを始末して、全員で生きて帰るっすよ!」

「「「おうっ!」」」

 やがて俺たちに動きが無くて焦れてきたのか、ディールが嘶きを上げながら、再び家屋の屋根から飛び降り、飛び降りた勢いそのままに俺たちに向かって何度も連続で突進を仕掛けてくる。

 それに対して、俺たちはそれぞれ別に左右に跳ぶことでディールの突進を回避することに成功し、ライさんに至ってはディールが連続で突進を仕掛けてくる中で、すれ違いざまに短剣の一本をディールの後ろ脚関節に向かって投擲、刃の中ほどまで突き刺さるほどに深く突き刺していた。


『ディルアアァァ!!』

「さあ、来るっすよ!」

 そして、その一撃と何時までも俺たちを始末できない事がディールの癇に障ったのか、今まではライさんたちの攻撃をほとんど無視していたディールがライさんに向かってステップを踏みながら接近すると、前足を大きく振り上げてライさんを踏みつぶそうとする。


『ディルアァ!』

「っつ!?」

 ライさんがその場から飛び退き、それから一瞬遅れてディールの前足がライさんが居た場所に叩きつけられる。

 その威力は凄まじく、前足が叩きつけられた場所を中心として、放射状のヒビが地面に走り、俺たちの居る場所の地面も軽く揺れる程だった。

 もしもアレが直撃したら……恐らく瘴巨人の装甲でも厳しいだろうな。


「あらよっと!」

「いくよお!」

『ディ!?』

 だが、俺がそんな感想を抱いているとはつゆ知らず、この間にもディールの注意が逸れている事を察したコルチさんとワンスの二人が、それぞれの得物でもってライさんの短剣が突き刺さっているのと同じ場所に続けて攻撃を仕掛ける。

 そして、コルチさんの攻撃の結果としてライさんの短剣は更に深く突き刺さり、ワンスの銛から発せられた電撃がライさんの短剣を通じてディールの肉体に流れ込み、電撃によってディールの肉体が一瞬ではあるが、完全に硬直する。

 それはつまり、俺とトトリが攻撃を仕掛けるための隙が出来た事を示していた。


「今っすよ!」

「【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】!」

「やああぁぁ!」

 ライさんの叫びに応じる様に俺は【堅牢なる左】を、トトリは『テンテスツ』の短剣を振るう。


『ディル!?』

 俺の【堅牢なる左】がディールの胴に突き刺さり、トトリの短剣が俺が攻撃したのと反対の側から肩の辺りに突き刺さる。

 聞こえてくるのは複数の金属が折れ曲がり、潰れるような音。

 俺はその光景と音と【堅牢なる左】を通して伝わってきた手ごたえに一瞬、これでディールを倒したと思った。

 それは恐らくトトリも一緒だろう。

 『テンテスツ』に乗っているので表情は見えないが、纏っている空気に安堵の感情が混ざっていた。


「二人ともまだだよ!」

「「っつ!?」」

『ディ……』

 だが、その甘い考えはワンスの叫びと、ディールの行動によって容易く破られることになる。


『ルアアアァァァ!!』

「ぐっ!?」

「キャア!?」

 突如としてディールが全身を大きく躍動させる。

 その動きに俺は【堅牢なる左】を弾かれて大きく仰け反る形になり、トトリは短剣を手放すのが遅れて地面に転がされる。


『ディルアァ!』

「トトリ!?」

「ぐうっ……」

 ディールがトトリに追撃を仕掛けようと前足を振り上げ、トトリはディールの攻撃を回避するべく、地面を跳ねる様に転がってディールから離れようとする。

 ディールの前足が叩きつけられる。

 音と振動とヒビが周囲に走る。


「はぁはぁ……」

「完全にトドメを指すまで油断をするんじゃないよ!」

「すみません……」

 だが、トトリは無事だった。

 ディールから少し離れた場所に立っていた。

 どうやら間一髪避けることに成功したらしい。


「ハル、トトリ、次は首を狙うでやんすよ。頭と胴、どちらに司令部が有るにしても、司令部から切り離された部位に関しては動かす事は出来ないでやんすからね」

「はい」

「はいっ!」

『ディルアアァァ……』

 若干傷ついてはいるものの、ディールの肉体からは未だに闘志は失せていない。

 どうやら、まだまだ油断は……それこそワンスが言うように、完全にトドメを刺すまでは油断できないようだ。

04/17誤字訂正

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