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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
53/343

第53話「M1-14」

「それで詳しい状況は!?」

「あ、うん」

 俺、ワンス、ライさんの三人は、俺の肩に乗ったトトリの報告を聞きながら、階段を駆け上がっていく。

 で、トトリの報告によればだ。


 まず、キャリアー護衛班は現在(グリズリー)(クラス)ミアズマント・タイプ:ディール六体に襲われている。

 戦況はオルガさんとダスパさんの二人に加えて、キャリアー三台分の装備にレッドさんの援護もあって五分五分。

 なので、今は周囲の外勤部隊に援護を要請した上で、少しずつダイオークス方面に後退しながら交戦中との事。

 ちなみに俺たちのキャリアーについてはニースさんが運転中らしい。


「なるほど。で、アタシたちはどうしろと?」

「まずはシェルター調査班で集合。その後は、可能ならばキャリアー護衛班と合流して、ミアズマント討伐に協力。不可能ならば、別の外勤部隊を見つけてダイオークスに帰還して欲しいとの事です。で、合流するまではライさんの指揮のもとに行動するようにとの事です」

「ちょっ!?何であっしが指揮官役何すか!?」

 ガーベジさんからと思しき伝言の内容に、ライさんが抗議の声を上げるが、俺もワンスもライさんが指揮を執るのならば問題はないと判断して、手足を動かし続ける。

 実際、シェルター調査班の中で誰が一番指揮官に相応しいかと言われたらライさんだしな。

 少なくとも俺とトトリの新人コンビや、今まで違う塔の所属だったワンスが指揮を執るよりかは遥かにマシだろう。


「と、やっと外か」

 そうこうしている内に俺たちは階段を登り切ってシェルターに戻ってくると、そのまま直ぐにエアロックに直行。

 防護服に穴が無いかを確認した上で、外に繋がる水密扉を開けて、家の前で待機していたトトリとコルチさんの二人の姿を確認する。


「三人ともお疲れ」

「おっ、早かったな」

「おう」

 俺がトトリの瘴巨人『テンテスツ』に近づくと、俺の肩に乗っていたトトリのリモートドールが『テンテスツ』の腰へと戻っていき、定位置に戻ったところで動作を止める。


「はぁ……それであっしたちが連絡を受け取ってから、こっちに戻って来るまでの間に状況の変化などは有ったっすか?」

 何か諦めの境地に至った顔をしているライさんがトトリとコルチさんの二人に問いかける。


「この周囲に関しては不穏な気配は無いな。(ラット)(クラス)ミアズマントすら見かけてないぐらいだ」

「えと、キャリアーの方はちょっと変化有りです」

「聞くでやんす」

 ライさんの問いかけに対してコルチさんは両手を上げ、ジェスチャーを加えた上で何も無かったと言う。

 対してトトリは、声音に何かを不安に思うようなニュアンスを含ませながら返す。


「ガーベジさんからの連絡なんですけど、どうにもミアズマントの動きがおかしいらしいんです」

「動きがおかしい?」

 トトリの言葉にこの場に居る全員に緊張が走る。


「えと。どうにもこちらから押し込もうとすると、激しく抵抗をするけれど、こちらが退くように動くと、追撃と言うには緩い攻撃が来る感じだそうで、まるで何処かからかキャリアー護衛班を引き離そうとしている感じらしいんです」

「それは……妙なんて話じゃないね」

「そうっすね……熊級ミアズマントが群れを作って襲ってくると言う時点で、おかしいと言えばおかしいんでやんすが、その動きはどう考えてもおかしいっす」

「と言うか、そんな行動。人間でもきちんと訓練した上で、全体の指揮を執る指揮官が居ないと無理何じゃないか?」

「でもそうなると、その熊級ミアズマント・タイプ:ディールの群には指揮官に相当する個体が居るって事になりますけど……」

 トトリ経由でもたらされたガーベジさんの報告に、俺たちは揃って頭を悩ませる。

 とりあえず状況の整理を頭の中でしてみるか。


 まず、キャリアー護衛班は、何者かによって統制されたかのような動きをするミアズマントの群に襲われている。

 俺たちはダイオークスに戻るための足を探すか、キャリアー護衛班と合流してミアズマントを討伐しなければならない。

 ミアズマントの群の目的は不明だが、何処かからかキャリアー護衛班を引き離そうとしている感じがある。

 状況から判断するに、ミアズマントの群には指揮官と思しき存在が居ると仮定できる。


「トトリ。あっしらのキャリアーの位置は把握しているでやんすね」

「それは大丈夫です。定期的に『テンテスツ』に位置情報が送信されてきてますから」

「だったら……」

 俺はトトリとライさんが話をしている間も状況の整理を続ける。

 そう、熊級ミアズマントにしても、タイプ:ディールにしても、群れを作ると言う事は無い。

 となればだ。

 もしかしなくても、そのミアズマントの指揮官と言うのは……


『デイィ……』

「ん?」

 そこまで思考が及んだ時だった。

 俺の耳がほんの微かではあるものの、蹄の音と何かの嘶きのような音を捉えたのは。


「ハル?」

 ワンスが俺の方を訝しげに見る。

 だが、直ぐにワンスも、他の皆も、俺の耳が先んじて捉えたものと同じ音に気づく。


「なるほど……そう言う事っすか」

「おいおいマジかよ……」

「ちっ、やられたね……」

「全員、構えておけ」

「キャリアー護衛班にトトリ・ユキトビより連絡。シェルター調査班は敵に遭遇しました」

 シェルター調査班全員が音がする方向に向かって武器を構え、調査で回収したアタッシュケース等についてはトトリのリモートドールでもって安全な場所に運んでおく。


『デイィ……』

「敵は(グリズリー)(クラス)ミアズマント・タイプ:ディール」

 そうして体勢を整えた所で、瘴気に独特な形をした音の主の影が映り込み始める。


「それも特異個体(イレギュラー)です!」

 そして、トトリが連絡を終えた所で、そいつは瘴気の向こう側から姿を現した。

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