第49話「M1-10」
「あそこがそうでやんす」
ダスパさんたちと別れて、目的地に向かう俺たち五人の視界に一軒の家屋が見えてくる。
その家屋は、他の抉られた様に壊れている建物や、長年放置されて風化した為に崩れかけた建物、それに土台の部分しか残っていない建物跡などとは違い、比較的原形を留めていた。
「実物は随分と大きいね……」
「だなぁ……」
「確かに。一体どういう人物が住んでいたんですか?」
「それは私も気になっていたかも」
「ほいほい。一応は調べてあるでやんすよ」
目的地でもある半地下のシェルターが置かれている家屋だが、面積だけでも他の家屋に比べて倍は間違いなく有るし、多少崩れた部分から屋内が見えてはいるのだが、その見える範囲に限ってもかなり上質な造りになっているのが見える。
「まあ、三百年前の建物でやんすから、分かっている事はかなり限定的でやんすよ」
で、ライさんの説明の目に見えている範囲から得られる限りの情報を合わせるとだ。
まず、この家屋の所有者がかなり裕福な家の人間であった事は間違いない。
だが、三百年と言う時間経過と、当時の混乱もあって、所有者が何者であったかや、何故シェルターが作られていたのか等と言った肝心の部分については一切不明……と言うか、意図的に消されている感じもあったそうである。
なお、三百年も経った後に今更シェルターが発見されるきっかけだが、やはりドクターからの情報提供であり、それまでは此処にシェルターが有る事も知られていなかったそうだ。
……。本当にドクターって何者なんだろうな。
最早コネとかそう言う次元じゃすまないレベルの情報を持っている気がする。
「ふうん。しかし、そうなると、所有者の正体が気になるな」
「そうだね。もしかしなくてもあのスピーカーの声の主との関係もありそうだもんね」
「確か、ハルとトトリをこの世界に飛ばした謎の存在とか言う話だったね」
「まあ、この場所にトトリが飛ばされた事を考えると、関係有りと見るのが真っ当だろうな」
「ま、全てはまず調べてみてからでやんすよ」
他にもこの家屋の所有者とあのスピーカーの声との関係も気になるが……ライさんの言うとおり、まずは調べてみるしかないか。
で、調べるのは良いのだが……
「えーと、それじゃあ……」
「ハル君?」
俺はトトリの方を向く。
今のトトリは『テンテスツ』と言う名前の瘴巨人に乗っており、どう考えても建物の中に入るには『テンテスツ』から降りなければならないだろう。
が、トトリは未だに降りる気配すら見せていない。
「あ、そうだったね。ごめんごめん。ちょっと待って」
と、俺の視線で意図を察したのか、トトリが『テンテスツ』の中で何かを始める。
するとそれに合わせる様に『テンテスツ』の腰に付けられている直方体状の物体の一つに付けられた小さなライトが点滅しだす。
「えい」
「ん?」
「なんだい?」
「おう?」
「へぇ……」
そして、トトリの言葉と同時にその物体が『テンテスツ』から外れると、そのまま地面に落ちて転がり……
「「これでよし」」
「「「!?」」」
「おおっ、喋ったでやんすね」
直方体の物体を甲羅のように背負った人形の姿になって立ち上がったかと思えば、トトリの声で口を開いた。
「「ふふん。驚いた?」」
「「「…………」」」
俺もワンスもコルチさんも目の前の光景に驚くを通り越して、凍り付いていた。
「「これが私の特異体質に合わせて設計された『テンテスツ』の機能の一つ。リモートドールだよ!」」
だがそれもしょうがない事だろう。
甲羅を背負った人形……よくよく見ればトトリの姿をデフォルメしたような、身長30cm程の人形が、『テンテスツ』の中に居るトトリと同じ声を発し、『テンテスツ』と同じように俺たちの前で動いているのだから。
「さてと。今更になるけど、ハル君に私の特異体質についてきちんと説明しておかないとね」
「え!?あ、うん」
と、人形の方は声を出す事を止め、休めのポーズを取り出す。
で、トトリの特異体質についてだが……俺の特異体質程では無いものの、かなり人間離れした特異体質だった。
と言うのもだ。
トトリの特異体質は瘴巨人の指令系と感覚系に対する異常適応であり、きちんと指令系と感覚系が繋がっていれば、人には有り得ない部位……翼や尾だろうが、何でも動かせてしまうし、俺たちの目の前にあるリモートドールのように、別の身体を個別に動かす事も出来るそうだ。
入隊試験の際に見せたトトリの異常な瘴巨人適性もこの特異体質に端を発する物であり、この特異体質故に直接自分の身体を操るよりも、筋肉も神経もしっかり張り巡らされている瘴巨人の方が動かしやすくなってしまうのだとか。
何と言うか、ぶっ飛んでいるなぁ……と思わせる特異体質だった。
俺が言うのも何だが。
後、ここまでぶっ飛んでいるとなると、先程の戦闘でウルフを倒したのもこの特異体質なのかもしれないな。
「まあ、そんなわけだから。ハル君にそのリモートドールを持っていてもらえれば、中の事は私にも伝わるし、私は外でコルチさんと一緒に周囲を警戒してるね」
「あ、ああ……うん。分かった」
いずれにしても、トトリが瘴巨人から降りる必要が無くなったのは確かだった。
なので、トトリにはコルチさんと一緒に周囲の警戒をしてもらい、残りの面々でシェルターの調査を行う事となった。
さて、何が出てくるのやら……。